「アルファ・ロメオ・ジュリア TURBO DIESEL SUPER」車両価格=556万円。サスはフロントがダブルウイッシュボーン式。リアはマルチリンク。静粛性はハンパない

今年4月に国内導入されたディーゼル版のアルファ・ロメオ・ジュリアを箱根ターンパイクを中心に、がっつり試乗。その実力はいかに? 自動車ジャーナリストの竹花寿実(たけはな・としみ)が迫った。

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■ディーゼルなのに超気持ちいい!

近年、日本市場ではディーゼルエンジン搭載モデルが続々と発売されている。特に輸入車で顕著だ。低エミッションのクルマといえばハイブリッドが主流の日本で、輸入ディーゼル車の存在感が増しているのである。

ヨーロッパの自動車メーカーは昨今、大胆な電動化戦略を掲げている。2021年にEUで乗用車の平均CO2排出量が95g/kmに規制されるからだ。ヨーロッパ最大の自動車メーカーであるVW(フォルクスワーゲン)に至っては、2028年までに全世界で2200万台の電動パワートレイン車を販売する計画で、「本当に可能なの!?」と耳を疑ってしまうほどだ。

そのため、今春のジュネーブ・モーターショーはEV(電気自動車)&PHEV(プラグインハイブリッド)祭りと化していた。2015年にVWグループのディーゼル不正が発覚するまでは、販売台数の半分以上がディーゼルだったドイツメーカーも、いよいよ本気で電気にシフトせざるをえなくなっているのである。

とはいえ、ディーゼルエンジンを今すぐラインナップから消すワケにもいかない。ディーゼル車は、NOX(窒素酸化物)やPM(粒子状物質)の面ではガソリンエンジンより不利だが、CO2排出量は低く、Cセグメント以上の乗用車や、車両重量が比較的重いSUVとの相性が良いため、今も市場から一定のニーズがある。

ジュリアに搭載されたクリーンディーゼルはSUVのステルヴィオとベースは同じ

また各メーカーは、これまでエンジン本体はもちろん、DPF(ディーゼル微粒子捕集フィルター)やSCRシステム(排気ガス浄化装置)の開発に膨大な予算をつぎ込んでいるだけに、今後もディーゼル車をできるだけ多く販売し、投資を回収しなければならないのである。

メーカー側にはこのような事情があるものの、日本市場ではここへきてディーゼル車人気が高まっている。特に輸入車で伸びており、JAIA(日本自動車輸入組合)によれば、5月には輸入車のうちディーゼル車が27%と過去最高を記録したほどだ。

日本市場は、1990年代から2000年代にかけてディーゼル車の排出ガス規制が急激に強化され、同時にハイブリッド車人気が高まったこともあり、乗用車マーケットのディーゼル車販売比率が、現在も5%程度と低い。

つまり、市場にディーゼル車が伸びるポテンシャルがあるのだ。そこで各インポーターは、最新のクリーンディーゼルを次々と日本市場に投入しているのである。

日本市場でディーゼル車が売れる理由は、ガソリン車よりもトルクが太くて走りやすく、燃費性能にも優れているからだ。大昔のディーゼル車は、重くて回転の吹け上がりも悪かったが、現代のディーゼル車はそんなことはまったくなく、とてもパワフルで吹け上がりもスムーズ。しかも燃費が良くて燃料代もガソリンより安いので、純粋に商品として魅力的なのだ。

インテリアデザインはガソリン車と共通。室内色はブラックのほか、ブラック×ベージュも

「燃費の良さならハイブリッドでしょ?」

と、思うかもしれないが、最新のディーゼルは侮れない。Cセグメント・ハッチバック/セダンあたりなら、実用燃費は20kmを超えてくる。それでもハイブリッドには及ばないものの、車両価格はハイブリッドより安く、燃料自体も安いとなれば、コスト的にもディーゼル車は選ぶ意味がある。また、ディーゼル車の多くはエコカー減税対象モデルでもあり、注目を集めて当然なのである。

そんな日本市場にこのたび投入されたアルファ・ロメオ・ジュリアのディーゼルエンジン搭載モデル「2.2ターボ・ディーゼル・スーパー」を箱根ターンパイクをベースに試乗。その走りはスポーティなハンドリングがウリのアルファ・ロメオらしいキャラクターに仕上がっていた。

2.2ターボ・ディーゼル・スーパーは、2142ccの排気量を持つ直4ディーゼルターボを搭載。このディーゼルユニットは、アルミニウム製のエンジンブロックや中空カムシャフトなどを採用し、単体重量155kgと軽量な上に、最高出力が190PS、最大トルクは450Nmとクラストップレベルのスペックを誇る。

また、バランサーシャフトを採用して振動低減を図っているほか、e-VGT(電子制御式バリアブル・ジオメトリー・ターボ)や、2000バールの高圧燃料噴射を一行程に最大8回行なう高精細な燃料噴射システム「マルチジェットⅡ」により、ターボラグを低減して高レスポンスを実現。

DPFや尿素SCRなどにより、ヨーロッパの最新排出ガス基準であるユーロ6d-TEMPに加えて、世界的に最も厳しい日本の「ポスト新長期規制」をクリアする優れた環境性能も達成した。

走りだしてまず驚かされたのは、とても優れた静粛性だ。もちろん車外ではディーゼルエンジン特有のカラカラカラというノイズが聞こえるが、インシュレーターの素材や配置を専用に調整したことで、2リットルガソリンターボを積む、装備内容が同等の2.0ターボ・スーパーと比べても高周波の耳障りなノイズが抑えられ、ジュリアのラインナップで最も静かな移動空間を実現している。

走りもガソリンより上質だ。わずか1250rpmで300Nmを発揮する優れたトルク特性を持つエンジンには、2.0ターボ・スーパーと同じく8速ATが組み合わされ、とても伸びやかで力強い加速を披露する。回転フィールも極めて滑らかで気持ちがいい。

アルファの名に恥じない俊敏なハンドリングも備えている。2.0ターボ・スーパーよりエンジンが10kg重く、若干フロントヘビーになっているため、コーナリングのキレ味はやや劣るが、このDセグメントのスポーツセダンとしては十二分にシャープ。むしろ、スポーティにもジェントルにも走れる、とても完成度の高いモデルといえる。

●竹花寿実(たけはな・としみ) 
1973年生まれ。東京造形大学デザイン学科卒業。自動車雑誌や自動車情報サイトのスタッフを経てドイツへ渡る。昨年まで8年間、ドイツ語を駆使して、現地で自動車ジャーナリストとして活躍。輸入車のスペシャリスト