「3日間でコモド島、ギリラバ島、カナワ島、セバユール島、カロング島を周るから、君もおいでよ!」
知り合ったばかりのインドネシア人プトゥの船に誘われ、不安を抱えながら夜中の海に出発した私。
船員以外の乗船メンバーはアメリカ人カップルのクリントン(男)とケイ(女)、バレーボールをやっていたという高身長のフランス人女子ふたりのネリーとノガだった。
「みんな僕のガールフレンドさ!」
プトゥのジョークは置いといて、マリンスポーツに強そうな欧米人たちの迫力を前に、運動神経が悪くチビっ子の私はみんなの足を引っ張らないか少し心配になった。
「ベイビー、大丈夫だ。この俺様がダイビングを教えてやるさ!」
プトゥはこの旅のリーダーであるが、みんなからゆるキャラ扱いをされているユーモラスな男で、のん気にポンと出たお腹をさすっていた。
面倒見良く私をかまってくれたが、ちょっと距離感が近くも感じたので(水着なので肌が触れ合う感じもちょっとアレだし)、セイセイセイといった感じで少し距離を取ると、
「アジアンガールだなぁ(笑)、シャイか!」
「そう! 私はアジアンガール。さらにジャパニーズガールよ! スキンシップが得意な文化じゃないの」
そう言って、ここぞとばかりにアジア人=シャイを利用してその場をやり過ごすと、
「ああ、元カノがアジアンガールだったけど、ほんと呼び方だってベイビーとかハニーとかダーリンとか言わないし、そういう甘いのないワケ~?」と、途方に暮れていた。
そんな中、旅のアクティビティはスペシャルで、この上ない体験ばかり。
どうしたって美しい青い海で大きなマンタと一緒に泳いだり、怖いくらい目一杯いる魚たちとシュノーケルをしたり、男子はダイビングをしながら銛(もり)で魚やイカを獲ったり、私たち女子は手釣りにトライした。
竿もリールもない釣り糸の先に錆びたネジやクギの重りをつけ、釣り針に小さなイカゲソを引っ掛けただけのものを海へ投げる。
右手でしっかり糸を持ち、糸の途中を左の人差し指に乗せてピクピクという動きを感じたら一気に引っぱるが、その度にプツっと糸が切れたり魚に逃げられたりしてしまう。
そんな私のケアをしてくれたのは船員の中でも一番若手のアブドゥル(推定17、8歳くらい)。
彼はプトゥが夜中の海に私を迎えに来た時も、荒れた海上でスピードボートを運転し、プトゥからも信頼を置かれていた。
「コイツは海のことがよくわかってる。学はないけどな。給料は1日タバコひと箱と3食付き。それがあればハッピーさ! あとは3ヵ月に1度、家族が船にこづかいを届けにくる」
そんな生活を送っているアブドゥルは、私とふたりで静かに釣りをしていると拙い英語でこんなことを言い出した。
「はっ......(笑)。海の上の男なんてみんなクレイジーなやつばっかさ......。ま、いいけど。ところで君はかわいいね。君はナイスだ......」
最年少ゆえにコキ使われているのだろうか。他のクルーがいた時はほとんどしゃべらなかった彼だが、実際はこの生活に満足というわけではないのかなと思った(てか最後のリップサービス! イタリア人か!)。
何はともあれ、私は彼のおかげで魚を釣り上げ(しかも唯一私だけ)、みんなに食料を調達することができてちょっとドヤ顔。やっとこの船旅のメンバーの一員として認められた気がしてホっとした。
ご飯を食べた後、サンセット見学に寄ったビーチには写真映えするブランコと1軒のバーがあり、常温のビールは正直いただけないがみんなで乾杯。
すると普段船上ライブでシンガーもやっているというプトゥが、突然しゃがれた声でロマンチックな歌詞(英語)のラブソングを歌い出した。
しばらく雑談をして、お疲れの皆が次々にダウンすると、ふたりきりになった私とプトゥ。
「少し話があるから、1杯付き合ってよ......」
「じゃあ、1杯だけ......」
私たちは船着き場の桟橋に座った。
「ベイビー、君はなぜここにいるんだい?」
「え? なぜって......。誘われたし、普通じゃできない海の旅ができると思ったから......」
「......(沈黙)。星空がキレイだろう? この旅を気に入ってくれたかい? 僕は君のことが好きだけど、インドネシアに残る気はないか? 船もあるし大きな家も用意するよ」
え? 好意には気付いていたけど、まさかのプロポーズ!?
先日25歳のセン君にもプチプロポーズを受けたが、この島に来て2回目とは、インドネシアでは私も随分おモテになる。
「島暮らしは楽しそうだけど、私は旅人だから......。そう、アイアムトラベラー! 旅をしなければ......!」
星空見上げながら、何言ってんだろ私......。
自分のクサいセリフを客観的に見て頭の中では吹き出してしまうが、まるで映画のワンシーンのような、"シチュエーションだけは完璧"なその雰囲気にそこそこ酔いしれながら、プトゥに感謝を告げて眠りについた。
最終日の朝、起きると周りが騒がしい。どうやらスピードボートが見当たらないようだ。昨日、褒められていたアブドゥルだが、まさかのロープの結び方が悪かったようでスピードボートがどこかへ流されてしまったらしい。
「ふざけんなよ! 船一隻いくらすると思ってるんだ......! アレを売って新しいのを買おうと思っていたのに......」
急遽ツアーを一時中断、近くに停泊している他船のスピードボートを借りて探しに出て1時間、見つかるわけがないと思ったボートを見事発見して帰ってきたから驚きだ。
ボート探しの間には、プトゥとのことを興味本位にみんなに聞かれ、まるで修学旅行みたいだなと思った。
「夜中までトークし続けたよ。それだけです。もちろん何もないよ(笑)」
私はプトゥに恋はしてなかったが、彼のキャラが好きだったし本当にとても良い人で感謝もしていて、最初にこの旅を疑っていたことも本当に悪かったなぁと思っていた。
ついに船旅が終わり、きっともう会うことのない彼との別れはどことなく切ない。
私が恋に落ちたわけではないが(強調)、まるで小さな恋の物語の1ページだったな、ありがとう、そしてごめんねプトゥ......。
なんて他人事のように、センチメンタルな気分になったりして。
よもや別れを告げた数週間後、SNSで彼のステイタスが早くも「交際中」になるとは、この時の私は知る由もなかった。
おぅい(笑)!
【This week's BLUE】
シュノーケル中に見つけた青い唇!
●旅人マリーシャ
平川真梨子。9月8日生まれ。東京出身。レースクイーンやダンサーなどの経験を経て、SサイズモデルとしてTVやwebなどで活動中。スカパーFOXテレビにてH.I.S.のCMに出演中! バックパックを背負う小さな世界旅行者。オフィシャルブログもチェック! http://ameblo.jp/marysha/ Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】