荷物入りトレーラーを牽引する電動バイクの制限速度は時速25キロ

コンセントからの充電NG! 太陽光発電だけ! 6週にわたりレポートしてきた過酷な「0円旅」も、ついにゴール目前。電欠寸前の電動バイクを襲う大都会の地獄の渋滞攻撃に、ライダーはどう立ち向かう?

前号までのあらすじ】

最近話題の電動バイクに、太陽光発電のソーラーパネルとポータブル電源を積み込んだら、電気代0円でどこまでも走れるんじゃね?

そんな浅~い思いつきから始まった本企画。京都・三条大橋から東京・日本橋まで、江戸時代の大名がヒイヒイ言いながら参勤交代の道を歩んだ東海道五十三次(約500km)の制覇を目指し、出発した。

しかし、旅はアクシデントと苦難の連続。長~い上り坂での電欠、アカダニの猛攻、ゲリラ豪雨、トラックや乗用車のエゲツない幅寄せ、充電のために広げたパネルを踏み荒らす観光客......。

それでも、試行錯誤しながら充電効率を高め、気合いでひたすら走り、ついに最大の難所である神奈川・箱根峠の頂に到達。旅の終わりがいよいよ見えてきた!

■ソーラーパネルの上に置かれた謎の物体

上り坂を終えてガッツポーズしたのもつかの間、気づけば時刻は間もなく午後8時。充電残量はほぼゼロ。「箱根エコパーキング」で夜明けを待つことにした。

5月とはいえ、夜の山頂は気温10℃を切る。パーキング内に寒さをしのげそうな設備はない。すぐ近くに「峠茶屋」の看板が見えたが、8時閉店らしく電気が消えてしまった......。

ここでうっかり寝たら、冷え込みで体調を崩すこと必至。30分おきに自販機でホットの缶コーヒーを買い、ウロウロ歩きながら夜明けを待つ。あれ、今、草陰にふたつの白く光る玉が見えたぞ......。

キ、キツネだ! 人馴(な)れしているのか、こちらに驚くでもなく長いシッポをフリフリ。ゴキゲンな様子で目の前を横切っていった。

午前4時50分、ようやく訪れた日の出に合わせてソーラーパネルを広げる。まだ息は白いが日差しは暖かい。10時前まで充電し、出発!

【小田原宿】までは天国のような下り道。ウヒャヒャヒャ、ウヒャヒャ~! このままずっと下りが続きますように!......もちろんそんなはずもなく、たった1時間ほどで坂は終わってしまった。

神奈川県小田原市の「小田原宿」。東側から見ると、江戸を出て最初の城下町にあった宿場。江戸時代に居城していたのは譜代の大久保氏だ

小田原城近くのガストに駆け込み、駐車場の奥でソーラーパネルを広げて充電しながら、久々の温かい食事。味噌汁がまるで睡眠薬のように体に染み渡る。

どこか眠れる場所を探すべく、会計を済ませ駐車場に戻ると、ソーラーパネルの上に見慣れぬモノが......。誰が置いたのか、鞘(さや)が赤い刀だ(もちろんオモチャだけど割と本格的)。

昨夜のキツネの餞別(せんべつ)か? 編集部が仕掛けたドッキリか? ホワイジャパニーズピーポー? 結局、その謎は解けないままだった。心当たりのある読者の方はご一報ください。

小田原城近くのガストの駐車場で、ソーラーパネルの上に鞘が赤い刀(オモチャです、念のため)を置いていったのは誰? 目的は何? 激励? 脅迫?

24時間営業温泉施設「小田原お堀端 万葉の湯」で泥のように眠り、目が覚めたら夜10時。気になるのは天気だ。明日、あさってはもちそうだが、その後、関東地方は大荒れ予報。雨の間は一切充電できないのがソーラー旅の宿命だが、ゴール目前で何日も足止めを食らうのはさすがにキツい......。

■ビックリしたけど応援ありがとう!

翌朝も例によって日の出から充電。朝9時過ぎ、館内にある「たかの友梨ビューティークリニック」のお姉さんの「おはようございます」というすてきな会釈といい香りにフラフラついていきそうになったが、グッとこらえてチェックアウトする。今なら見え見えのハニートラップにも引っかかる自信がある。

新・日本街路樹100景に選ばれた松並木を抜け、湘南エリアを気分よく走りながら【大磯宿】【平塚宿】【藤沢宿】をクリア。しかし、明日は晴れるかどうかわからない。悩んだ末、今日はこれ以上走るより、太陽のエネルギーを精いっぱいため込むことに決めた。

神奈川県中郡大磯町の「大磯宿」。松並木で有名。ここから平塚、藤沢と続く湘南エリアの旧東海道沿いには、意外にも旧宿場町の雰囲気が色濃く残っている

午後6時前までパネルを広げ、ポータブル電源の残量表示は満タン。さらに、宿泊したホテルの裏の店で、相模湾から水揚げされたキハダマグロの中落ちと中トロをいただく。ライダーも充電完了!

東海道五十三次の旅はしばしば太平洋沿岸の町を通る。湘南エリアの藤沢宿近くの店で、相模湾産のマグロに舌鼓。疲れた体に効くゥ~!

翌朝4時30分、パネル経由で今度はバイクに充電開始。曇天だが、午後1時になんとか電池残量3分の2まで到達した。昨日充電したポータブル電源と合わせてもゴールまで行けるかどうかは微妙だが、そろそろ出発するしかない。

次の【戸塚宿】までは小さなアップダウンの連続。距離はたった8kmほどだが、いきなり電気をかなり消耗してしまった。食事する時間も惜しみ、ひたすら先を急ぐ。

【神奈川宿】を越えて【川崎宿】まで来ると、もう東京は目の前。「東海道かわさき宿交流館」の前で写真を撮っていると、近くにいた男性ふたりからのアツい視線を感じる。ナ、ナンパ?

どうやら、トレーラーを引いた電動バイクが気になるらしい。今回の企画を説明すると、「おぉ!」と近所のコンビニで週プレを買ってくれ、実車と見比べながらバシャバシャと写真を撮ってくれた。

この頃は、ちょうど本企画の連載3週目の掲載号が発売中。思わぬ場所で声をかけられることもあり、疲れた身にはありがたかった。

ただ、大型ダンプカーやトラックからギリギリの幅で追い越しざまに「週プレ頑張れよ!」「マジで走ってんすか!」と野太い声をかけられると、ビックリして転びそうになった(笑)。

それと、都心に近づいて本当に困ったのは、パネルを広げられる充電場所の確保。やっと見つけた緑の多い公園では、子供を遊ばせていたママさんたちから「怪しい......」「不審者?」という矢のような視線が......。針のムシロに座る思いで2時間ほど居座り、パネルを畳んで逃げるように出発する(涙)。

神奈川県横浜市保土ケ谷区の「保土ケ谷宿」。交差点近くのコインパーキングの横に、「本陣跡」の石碑が窮屈そうにたたずんでいた

■ゴール目前で電欠。裏テクで進め!

次はいよいよ五十三次のラスト、東京の【品川宿】。距離は約10kmと近いが、信号でのストップ&ゴーやノロノロ渋滞の連続で、見る見る消耗していく。エアコンと同じで、起動時が一番電気を食うのだ。

時刻は午後3時30分過ぎ。空は相変わらず曇りだが、大森神社でバイクを止め、パネルを広げて最後の充電を開始。さらに、虎の子のポータブル電源の電気もありったけバイクに注ぎ込む。

5時30分、覚悟を決めて出発! 電池残量は2分の1。アクセルワークを慎重にし、節電運転を心がける。京都を出てから21日間、傷だらけのトレーラーに、足跡だらけのソーラーパネル。慣れっこになった野宿生活。旅も残り少しかと思うと感慨深い。

早くも4分の1を切った電池残量計とにらめっこしつつ、ウィンウィンという小さなモーター音に耳を澄ませる。芝浦ふ頭、日の出ふ頭、汐留(しおどめ)、もう少し走れそうだ。しかし、築地を過ぎ銀座に差しかかったあたりで音が変わり始め、断末魔の悲鳴みたいになってきた。ウィィィウィィィ............ウ...ヴィン......。

京橋を過ぎたところでモーターの電源が落ちた。バッテリーの電圧が下がっているところにアクセルを開けると、ブレーカーが落ちるように電源がストップしてしまう。

ゴールまで残り600m。いったんキーをオフにし、再度オン。バッテリー残量計はレッドゾーンの真ん中あたり。少しでも節電するため足で蹴り出すようにスタートすると、ウィンウィンと力ない音を立ててバイクは進み始めた。時速10キロ、ママチャリのようなスピードで路側帯を走る。

300m進んで、またもモーター停止。バッテリー残量はレッドゾーンの残り4分の1。同じ手順でスタートしたが、あと100mでまたストップ。空はすでに暗く、充電は不可能だ。日本橋はもう目の前だが、限りなく遠い......。

10分間電源を切ってからキーをオンにすると、バッテリー残量計はさっきより少しだけ浮いた。今だ! 足で蹴り出し、アクセルに優しく手を添えると、ウィンウィンとモーターは再び回りだす。あと50m、30m......日本橋のたもとの歩道に乗り上げたところで、バッテリーは完全に息絶えた。ゴォォォォ~ル!

東海道の東の起点、東京・日本橋のたもとがゴール地点。タイマーをかけ、ジャンプしている姿をセルフィで撮る光景はさぞ不審がられただろう

出迎えも歓声もないゴールだけど、確かにソーラーエネルギーだけで東海道五十三次を走り切った。大都会・日本橋で狂喜する黄砂と排ガスまみれの薄汚い男は、完全に不審者に見えただろう。

今後数年の間に、ガソリン式の「原付」は電動バイクへとシフトしていくはず。この乗り物はとても便利で楽しいけど、今の段階では長距離移動には向いていない。

それは、従来のガソリンスタンドに相当する充電スポットの整備が追いついていないから。今後、その点がクリアされれば、ロングライドはメチャメチャ楽だし、快適だと思う。

でも、最後にひと言。あ~、面白かった!(了)