ホンダ・八郷隆弘社長(左)を自動車ジャーナリスト・小沢コージがナマ直撃!

ホンダは7月4日、埼玉県和光市で「ホンダミーティング2019」を開催。技術開発の方向性を発表した。元ホンダ社員の自動車ジャーナリスト・小沢コージが八郷隆弘(はちごう・たかひろ)社長を急襲、気になるホンダのアレコレを聞いた!

■ホンダが取り組む高齢ドライバー対策

──ホンダF1、久々の優勝おめでとうございます! 正味の話、なぜ13年ぶりに勝つことができたんですか。

八郷 2015年にホンダF1はマクラーレンと組んで復活しましたが、そのときはエンジンに実力もなかったし、最初の1年ぐらいはレースにならなかった。

──確かにボロボロでした。

八郷 しかし2、3年目ぐらいである程度、エンジンの信頼性についての問題が見えた。

──パワーではなくて信頼性だと。一時、元F1王者のアロンソに「GP2エンジン」とか言われていましたよね?

八郷 やっぱりエンジンの信頼性の問題なんです。エンジンが壊れていいならパワーは出せる。けれど、そこで信頼性を取ってしまったら攻めて走れない。だから信頼性とパワーをどう両立するか? それが課題でした。

──その課題が3年ぐらい前から少しわかってきたと。

八郷 ええ。別にマクラーレンがいけないってわけじゃないんですが、トロロッソと組み直したことでお互いにモチベーションを上げながらできた。それともうひとつは今回、ホンダジェットの技術を使いました。オールホンダの知見を集めたことも大きい。

──チーム力が高まった?

八郷 F1はエンジンだけじゃ勝てませんし、車体、ドライバー、ピットクルーすべての力が必要です。今回、総合的にかなりのレベルまで来たのかなと思います。

──マクラーレンのときは、チームがバラバラでした?

八郷 勝負事は勝てないとダメです。ゴルフもヘタだと「道具が悪い!」とか言いだす(笑)。基本、そんなものなんです。逆にいいほうに行くとどんどんいいほうに回りだす。今回の優勝でホンダとレッドブル、トロロッソで一歩を踏み出せたなと。

──なるほど。で、話はガラリと変わりますが、ホンダは"交通事故ゼロ社会の実現"に取り組んでいます。今、社会問題となっている高齢ドライバーの暴走事故について、社長はどう思われています?

八郷 非常に大きな課題だと思っています。特にクルマがないと生活できない高齢者の皆さまですよね。私の実家も田舎ですし、問題は切実です。

──具体的な対策は?

八郷 ホンダは2代目N-BOXから先進安全の「Honda SENSING」の全車標準化を進めていますし、新車に買い替えられない方のために後づけ装置を今開発中です。なるべく早い時期にお届けしたいと思っています。

──メーカー純正の後づけ先進安全! ソイツは素晴らしい。それから助手席からの電動パーキングブレーキ操作で緊急停止できる国産車はホンダやスバルぐらいです。

八郷 電動パーキングブレーキは交通事故ゼロ社会を目指すホンダの先進安全技術の積み重ねから生まれたものです。

実は先進安全装備の標準化は何かと難しく、高齢者の方々には「だまされている」と思われる人もおられるようで、オプション装着だとなかなかつけていただけない。そこでホンダはあえて先進安全を標準装備にしました。

──先進安全装備を標準化するのはとても重要なことだと思います。

八郷 すでに私の両親はクルマに乗っていませんが、高齢の親を持つ子供の立場からしても、ああいう暴走事故が起きないクルマをとにかく提供したいと思っています。

年内の発売がウワサされている新型電気自動車「ホンダe」も展示されていた

電気自動車用の新骨格も公表。これから開発する電気自動車に適用、コスト低減や開発の効率化を担う

■「電動戦略」に「オートバイ」も語る

──18年度の決算ですが、四輪の新車販売台数は532万台と過去最高を記録しています。一方、四輪事業の営業利益率がわずか1.9%です。この数字はどう受け取れば?

八郷 四輪の利益率1.9%は、収支のセグメント分けが特別なことになっているんです。例えば先期でいうとトータル営業利益がざっと7300億円。そのうちの2900億円が二輪事業で、4400億円が四輪とそのほかです。

そこにウチでいう金融カテゴリーも含まれるんですが、中身はアメリカのリース業で、ほぼ四輪事業。それが2300億円あって、四輪セグメントの2000億と合わせて4300億円。両方を足せば利益率は3.3%になります。

──つまり四輪事業が儲からなくなったというのではなく稼ぎ方が変わった、リースが増えたわけだと。では、3.3%という数字は悪くない?

八郷 いや、良くはないです。ただ、利益率っていうのはいろんな見方がありますので。

──5月8日の決算説明会でわからなかったのが、四輪のグローバル機種はシビック、アコード、CR-V、ヴェゼル、フィットで決して多くはないのに、「派生車種が多いから稼げない」というコメントでした。これはどういう意味で?

八郷 派生って言い方がわかりにくかったと思いますが、例えばシビックのバリエーションの数、エンジンの数ってとても多いんです。シートの色とか装備の組み合わせも含めると。

──でも客の注文に合わせていろいろ造るのは、トヨタにはない、ある意味、ホンダならではのイズムだと思いますが。

八郷 確かにホンダイズムですが、今までやりすぎていました。本来、グローバル機種は高い商品力があるので地域需要に合わせて変えていいんですが、なんでもかんでもその地域に合わせてしまう分、製造の確認工程とか段取りも増えてしまう。だから、今後はそれをどんどん集約していこうよと。

それともうひとつは、地域専用モデルといって日本の軽自動車とかASEAN(東南アジア諸国連合)のブリオなどがありますけど、地域に寄り添って全部違うクルマを造っていたらダメでしょと。

要するにブラジルで売る小さいSUVとアジアで売るSUVに多少の共有性を持たせないと効率は上がりませんよと。そこも見直そうよと。

──今、改革を行なっているんですね。ネットで「ホンダ、内部分裂!」とかヒドい記事を書かれてましたが。

八郷 そんな事実があるんなら教えてほしいなって感じがしますけどねぇ(笑)。

──やはり地域に任せすぎた面はあります?

八郷 それは私が社長に就任してからずっと言っていることで、地域の協調と連携っていうのはそういう意味でした。グローバルで売るクルマはいいモノを造ろう、そしてある程度味を決めてから最後のところだけ変えようと。だけど全部変えちゃう。そうすると効率は良くない。

──だから今回発表したように、ホンダ・アーキテクチャーを造り、効率化を図ろうってわけですね。ちなみに、すでにVW(フォルクス・ワーゲン)は2012年の7代目ゴルフのときからMQB(モジュラー トランスバース マトリックス)ってプラットフォーム共有コンセプトを打ち出し、トヨタも15年の4代目プリウスのときからTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)ってコンセプトを出しています。

八郷 ハイブリッドを含めた電動車プラットフォームを中心に、新たにスタートを切ったって意味です。これまた説明が不十分だったかもしれませんが、われわれも今までも共有化はやってきていて、例えばシビックとCR-Vはプラットフォーム共有です。

ただ、まだ足りないところがあるので、そこを完全流用というより造り方を共有したり、考え方を共有して、幅だけを変えるようなやり方で個性を出しつつ、同じラインの中で造れるように効率化していこうよと。

ホンダのバッテリー交換ステーション。残量の減った電池パックを回転テーブルに載せて交換

──今後のホンダの戦略は?

八郷 四輪だけでなく、二輪とか今までパワープロダクツといっていたライフクリエーションセンターとの連携です。

──確かに電動モビリティによる移動サービスと独自開発のエネルギーサービスを、コネクティッド技術などで融合させる「Honda eMaaS」は興味深い。二輪四輪汎用すべて含めて電動化で市場を構築するって話ですね?

八郷 ホンダはそもそも2年前、「2030年ビジョン」を出した際にモビリティからロボティクス、エネルギーを新領域でやりますよと。あの後、ある程度の形になってきたので今回(のミーティングで)お見せしようと。

昨年11月、法人・事業者向けのリース限定で発売したホンダ初の電動バイク今年は初代CB誕生から60周年。記念イベントがホンダ本社で開催されていた

──ただ、具体的にいつ頃どんな商品が出てくるのかはわかりません。とりあえず来年、自動運転レベル3を出すのはわかりましたが。

八郷 その続きでエネルギーについていうとまだまだ実証実験の段階で、小さな電池=モバイルパワーパックを作り、あれをいくつか載せて走るものをアジアを中心に展開したり、日本の二輪メーカー4社合同でパックを規格化する取り組みは始めています。

──電動バイクどころか共有電池パックでドローンを飛ばせたりしたら面白いですね。

八郷 ホンダe(イー)みたいなデカい電動化だけではないです。

──今年は名作バイク、ホンダCB60周年です。社長もCB1100に乗られているそうですが、週プレとバイクの魅力を伝えるツーリング企画をやりませんか?

八郷 一緒に走るくらいならいいですよ(笑)。

●八郷隆弘(はちごう・たかひろ)
1959年生まれ、神奈川県出身。旧武蔵工業大学卒業後、1982年にホンダ入社。中国生産統括責任者などを経て、2015年から現職