ボリュームのあるカツ丼が500円ほどで食べられるため、昼時になればサラリーマンが行列を作る「かつや」。その知られざるサービスの秘密を専門家の分析と担当者への直撃で徹底解明する!
* * *
■マクドナルドから学んでいた、かつや
とんかつチェーン店「かつや」の勢いが止まらない。都心では、平日の昼食時になるとサラリーマンが長い行列を作るほどの大人気。
7月30日に発表された2019年第2四半期連結(1月1日~6月30日)の売上高は約159億円。昨年の同時期の約145億円を約14億円も上回っている。まさに絶好調の外食チェーン店だ。
では、この人気の秘密はなんなのか?
かつやで実際に食べていた人に聞いてみると......。
「とにかく安いこと。カツ丼が490円(税別)ですから」(40代・男性)
「牛丼に比べて腹持ちがいいんですよ。牛丼だと夕方になると腹が減ってくるときがあるんで......」(30代・男性)
外食ジャーナリストの中村芳平(よしへい)氏が解説する。
「吉野家は今年3月に発売した牛丼の超特盛(税込780円)が、1ヵ月に100万食を売り上げる大ヒット商品となりました。超特盛は肉の量が大盛の2倍。お客さんはこうしたボリュームのあるメニューを求めているのだと思います。
吉野家が今年2月の連結決算で約60億円の赤字を出すなど不調だったのは、お客さんに牛丼の並盛380円(税込)を食べても『それほどおなかにたまらない』という不満足感が強かったからではないでしょうか。
それに比べて、かつやのカツ丼は定番の梅490円(税込529円)でも、おなかがいっぱいになり満足感があります」
それだけではない。「とんかつブームの追い風もあります」と語るのは、フードジャーナリストのはんつ遠藤氏だ。
「東京・高田馬場に食べログのとんかつ部門で何度もナンバーワンに輝いた『成蔵』という日本一のとんかつ屋さんがありましたが、今年3月に閉店してしまったんです。
そこはロースカツ定食でも4000円以上するような高級店なのに、朝の8時から整理券が配られるほどの大人気でした。それが7月に南阿佐谷に再オープンして、今また話題になっています。このように行列のできる店も多く、ここ数年は高級とんかつがブームになっているんですよ。
そうしたとんかつブームの流れもあって『松のや』や『豚屋とん一』などのリーズナブルな価格のとんかつチェーン店も人気が出てきた。そして、そんなチェーン店のなかでも圧倒的に安くておいしいのが、かつやなんです」
その理由は?
「とんかつで一番難しいのは肉の揚げ具合です。かつやは、それをオートフライヤーを開発することで、アルバイトでもおいしいとんかつを揚げられるようにしたんです」(はんつ氏)
前出の中村氏も続ける。
「『新宿さぼてん』や『とんかつ和幸』などの専門店は、職人の技を誇りに1000円~2000円する高価格帯のとんかつを時間をかけて提供しています。これに対して、かつやはオートフライヤーを特注し、職人不要の厨房(ちゅうぼう)を構築しました。カツ丼のファストフード化、価格破壊を実現したのです」
徹底した機械化が、安くておいしいとんかつを作る秘密だったのだ。
では、かつやが機械化を進めたのはなぜなのか?
「かつやを運営する『アークランドサービスホールディングス』は、日本マクドナルドの創業者・藤田田氏の側近で、藤田氏の後に日本マクドナルドの社長を務めた八木康行氏を取締役として迎え、マクドナルド方式の標準化、単純化、専門化、マニュアル化で店舗展開を進めています」(中村氏)
かつや急成長の秘密は、マクドナルド方式を学んだことだったのだ!
■テイクアウトと無限割引ループ
かつやと言えば、1、2ヵ月ほどで変わる「期間限定メニュー」も人気だ。
「かつやはお客さんを飽きさせないように定番メニューに加え、期間限定でキャンペーンを実施しています。これは新規客の開拓や常連客の囲い込みに効果的ですが、これもマクドナルドから学んだことでしょう。
さらにテイクアウト(持ち帰り)にも力を入れています。かつやはカウンター席が多いので、女性が入りにくいところがあります。そこで、店頭でテイクアウトを受けつけている。最近では『出前館』と組んで宅配サービスにも取り組んでいます」(中村氏)
このテイクアウトが伸びていると言うのが、前出のはんつ遠藤氏だ。
「テイクアウトのターゲットは女性だけでなく、年配の人たちも入ります。家に持って帰れば、一度に全部食べなくても夜と朝の2回に分けてもいい。また、野菜やほかのおかずと組み合わせて食べることもできる。かつやのとんかつは、スーパーなどのとんかつと比べて明らかにおいしいですから。
最近は中食(家の中に持ち帰っての食事)需要が増えていて、テイクアウトに力を入れないと外食産業は生きていけないともいわれています。そのあたりをきちんと意識しているのもすごい」
さらに"無限割引ループ"と呼ばれる割引サービスも人気だ。かつやでは、会計のときに100円割引券を配っている。
「かつやで税込500円以上のメニューを食べるか、持ち帰りをすると100円引いてくれる。例えば、カツ丼の梅は税込529円なので、この割引券を使えば429円になります。そして、100円の割引券を使っても、また100円の割引券がもらえ、次回も429円でカツ丼が食べられます。100円割引がずっと使えるため"無限割引ループ"と呼ばれるサービスになっている。これにハマる常連客が多いのです」(中村氏)
■肉の厚さ10mmのこだわりとは?
ここまでは、かつやのサービスや営業戦略について解説してきたが、とんかつ自体にも秘密はないのか?
かつやを運営するアークランドサービスホールディングスの執行役員で商品部部長の庄田健治氏に聞いた。
――肉に関するこだわりは?
庄田 とんかつに使う豚肉は、冷凍ものは一切使っていません。産地の北米から冷蔵の状態で運んできます。真空パックにして温度管理をきちんとしていれば、2、3週間かけて輸送することで、逆に熟成されてやわらかいお肉になるんです。
また、肉の厚さは10mmと決まっています。オートフライヤーは揚げる時間が決まっているので、その時間のなかでおいしく、しっかりと歯応えを感じてもらえて、衣もサクサクになる厚さが10mmなんです。これは、かつやのこだわりです。
――ご飯は?
庄田 かつやは新潟でホームセンターチェーンを経営する「アークランドサカモト」の外食事業部からスタートしました。新潟は米どころですから、お米にうるさい人が多いんです(笑)。ですから、もちろん100%国産のお米を使っていますし、なるべく米粒が大きいものを選ぶようにしています。粒が大きくないと、かつに負けてしまうんです。
それから炊き方は、しっかりと粒が残るように炊いたほうが丼には合いますし、定食もおいしく食べられると思います。
――期間限定メニューも話題ですよね。
庄田 かつやで1番人気なのがカツ丼で、2番がロースカツ定食です。でも、それだけではなく、とんかつのいろいろなおいしさを楽しんでいただきたいという思いがあってやっています。そして、お客さまにおもしろがっていただければうれしいです。
――これまでで、一番人気のあった期間限定メニューはなんですか?
庄田 いくつかあるんですが、「チキンカツとから揚げの合い盛り丼」とかですね。
やはり、おいしいとんかつを安く食べたいということで、皆さん、かつやにいらしていると思いますので、これからもその点は間違えないようにしたいと思います。
そして、かつやは今後も働くサラリーマンのオアシスになるような存在でいたいと思います。
* * *
サラリーマンにモーレツな人気を誇るかつやの最大の秘密は、「安くておいしいものをおなかいっぱいになるように提供する」という単純なことかもしれない。でも、それこそが、一番難しいことでもあるのだ。