『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、彼女が最近気になっている「信号機」について語る。
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私は自分のことを「"幸せのハードル"が低い」とよく称しています。例えば、みんなが何げなく乗っている鉄道も、車両のちょっとした違いがわかれば、ただの移動がめちゃくちゃ楽しくなります。街中の階段も、それぞれの個性に気づくだけでいつもの散歩が奥深くなるんです。
このように、幸せのハードルが低くなればなるほど、日常の楽しみが増えるのでお得ですね。そして最近、私の幸せのハードルを低くしてくれているのが「信号機」です。
きっかけは、千葉県の市川市にある不思議な形の信号機でした。黄と赤の灯器は普通に丸いのに、青だけ四角い形なんです。理由はいまだにわからないんですが、非常に珍しい型みたいです。
それ以来、気になって観察してみると、信号機の形って実にいろいろあるんですよね。まず大きな違いは、灯箱(ランプの取りつけられた土台)が四角い角形か、丸っこい丸形か。関西はだいたい丸形ですが、どちらもよく見かけると思います。
また、日本海側は地面と垂直に信号が並んでいる縦型が多いようです。これは雪が積もる面積を小さくするためですね。最近では、積雪対策としてヒーターを取りつけたり、透明なカプセルをかぶせている信号機も増えています。
また、金属製、樹脂製と、素材も複数あります。樹脂製は塩に強いので海沿い、特に太平洋側に多く見られますが、変色しやすいので経年変化が目立ちます。この樹脂製の信号機がなぜか愛知にはわんさかあります。
信号機を製造するメーカーも10社以上あり、同じ角形や丸形でもそれぞれに違いがあります。角形でいえば「京三製作所」より「日本信号」のほうが角に丸みがあり、「小糸工業」のものはさらに角が柔らかいんです。
同じメーカーでも年代で違いがあって、京三が一時期作っていた丸形の信号機は、マニアの間で「宇宙人」と呼ばれています。どのへんが宇宙人なのか私にはピンときませんが、丸っこい筐体(きょうたい)に対してひさしがとがっているのが特徴です。神奈川県川崎市の登戸に、この型の信号機しかない交差点があり、通りがかりに「宇宙人だ!」と叫んでしまいました。
珍しいものでは、「UFO型」と呼ばれるものもあります。四方を向いた灯箱に、青黄赤の信号が4セット取りつけられています。さらに内側に歩行者用信号もあります。つまり、これひとつで交差点の全方向の車両用、歩行者用信号をカバーしているんですね。
正式名は「懸垂型信号機」らしいのですが、これをUFOと呼んだり、先ほどの宇宙人だったり、愛称を考えた初期の信号機マニアは『ムー』の読者だったんじゃないかと推測しています。
気になって観察するとよくわかるんですが、信号機って意外と頻繁に新しいものに替わってしまうんですよね。特に近年はLEDの信号機への置き換えが進んでいますが、旧来の電球式のものは年代やメーカーによってレンズの柄や発色、ひさしの形が違うので、個人的にはLED式よりテンションが上がります。
今見逃すと消えてしまう可能性のある信号機の世界。幸せのハードルをより低くするためにも、これからもっと勉強したいです。
●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。現在、モデルとして活動するほか、J-WAVE『TRUME TIME AND TIDE』(毎週土曜21時~)などにレギュラー出演中。信号機には小さく年式が書いてあったりするので、ズーム機能に優れたいいカメラが欲しい