まさにEV祭りとなった今年のフランクフルトモーターショー(写真はVWの次世代EV第1弾・ID.3)

9月にドイツで開催されたフランクフルトモーターショー2019では、ドイツメーカーを中心に最新の電動車が数多くお披露目された。現地でがっつり取材してきた気鋭の自動車ジャーナリスト・竹花寿実(たけはな・としみ)が詳しく解説!

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■モーターショーの終焉を見た!?

――今年のIAA(フランクフルトショー)どうでした?

竹花 いやー、衝撃的でした! 国際モーターショーというリアルイベントの終焉(しゅうえん)を目撃したという印象です。

――というと?

竹花 2年前の前回までと比べると大幅な規模縮小でした。お膝元ドイツのメーカー以外では、ホンダとフォード、ジャガーランドローバー、ヒュンダイくらいしか参加していなくて、ドイツメーカーが抱えるブランドでもロールス・ロイスやベントレー、ブガッティはブースがなくて。

――うわー、そんなに寂しい状況だったんスか!?

竹花 うん、いろいろウワサは聞いていたのである程度予想はしていたけど、アレほどとは思っていなかったので驚きました。各メーカーのブースもかなり小さくて......。

――確か昨年のパリも似た状況だったそうですね?

竹花 そう、それまでにも各地のモーターショーで、いくつかのメーカーが出展を見合わせることはあったんですが、1年前のパリで突然大規模な出展見送りが起きて、今年1月の米デトロイトも出展見送りが続出しました。

――なんでそんなことに?

竹花 ITの進化とSNSの普及が最大の理由です。あるタイミングに世界の自動車メーカーが1ヵ所に集まって情報を発信するモーターショーは、情報発信ツールとしてはもはや効率が悪い。

――ほう!

竹花 実は今回、IAAの会場で、あるドイツメーカーの幹部から直接聞いたんですが、「来場者が100万人いてもわれわれのターゲットユーザーは5万人もいない。それにほかのメーカーと同じタイミングで情報を発信してもターゲットユーザーには深い内容が届きにくい。

それならば別のタイミングに独自にイベントを行なって、SNSで情報発信したほうが効率がいいし安上がり。もはやモーターショーはマーケティングツールとしてコストパフォーマンスが悪い。われわれが東京モーターショーに参加しないのも同様の理由です」と言ってましたよ。

――なるほど。実際に会場の雰囲気ってどうでした?

竹花 私は一般公開前に行なわれるプレスデーに行ったんですが、なんだか閑散としていましたよ。もちろん注目モデルの周りには人だかりができていたんですが、そこ以外は特に混雑していなくて、ソーセージやビールの出店が並ぶ建物の外は日曜日の公園みたいなのんびりした感じ。

IAAは会場が東西に1km以上あるので、会場内にシャトルバスが走っているんですけど、例年は長蛇の列ができていてほとんど乗れないのが、今年は乗り放題でした(笑)。

――今後、世界のモーターショーはどうなるんスかね?

竹花 かつてはフランクフルトとパリ、スイスのジュネーブ、デトロイト、東京が「世界五大モーターショー」と呼ばれましたが、東京はすでにローカルショーで、フランクフルトとパリ、デトロイトも同様のショーになるでしょうね。

世界中の自動車メーカーが最新モデルをこぞってお披露目する、本当の意味での国際モーターショーは、ジュネーブと北京、上海くらいになると思います。

――そのココロは?

竹花 ジュネーブは地元に自動車メーカーがないスイスという中立的な国で行なわれるのと、富裕層が多い土地柄だから。北京と上海は、中国市場の大きさと、新興国でクルマに対する消費者マインドが先進国よりはるかに高いから。

――ところで、今回のIAAではEV(電気自動車)がたくさん登場したらしいじゃないスか。

竹花 まさに"EV祭り"でした。もちろんプラグイン・ハイブリッドやハイパフォーマンスカーのニューモデルもありましたが、一般ユーザーが現実的に購入可能なEVの市販バージョンが多数お披露目された点が、今回のIAAのハイライトです。

――どうして各メーカーはこのタイミングにEVを出してきたんですか?

竹花 それはEUで新規登録車の平均CO2排出量を95g/km規制が2021年に導入されるのに先駆けて、当面は2台分に換算されるEVを今のうちに発売しておきたいという各メーカーの思惑があるんです。

――とはいえ、充電インフラは全然足りてないスよね?

竹花 現状はそうですが、各メーカーとも充電インフラの拡充に多額の投資をしていますし、ユーザーが増えれば社会も変化すると読んでいます。一気にEVだらけになることはないでしょうが、手頃な値段のEVの選択肢が増えたので、そろそろヨーロッパではEVのパンデミックがあるかもしれません。

――では、そのへんも含め、竹花さん的IAAベスト7の紹介をお願いします!

竹花 第1位は、やはりVW(フォルクスワーゲン)のID.3です。VWの次世代EVであるID.ファミリーの第1弾で、サイズはゴルフくらい。航続距離は、バッテリーが最も大きいモデルは550kmも走れます。すでに3万台以上の予約が!

【第1位】VW(フォルクスワーゲン)ID.3 VWの次世代EV第1弾のID.3は、3万ユーロ(約360万円)以下から。日本登場は2022年になる模様

――VWらしい実用EVのまさに王道って感じスね! で、第2位は?

竹花 メルセデス・ベンツのコンセプトカー、ビジョンEQS。これは未来のEV化されたSクラスのデザインスタディで、エクステリアに関しては、ほぼこのまま市販予定だというからビックリ。

【第2位】メルセデス・ベンツ ビジョンEQS 市販化前提のラグジュアリーEVサルーンのデザインスタディ。ほぼこの姿で発売される見込み

――なんかヌメヌメした巨大イモムシみたい(笑)。続いて3位は?

竹花 ポルシェ・タイカン! ポルシェ初のEVは4ドアのスポーツサルーンで、EVなのになぜか680PSの「ターボ」と761PSの「ターボS」という名の2タイプがあります。ターボSは時速100キロ到達が2.8秒とスーパーカー並みです。

【第3位】ポルシェ タイカン ついにポルシェにもEV化の波が。高性能版のタイカン・ターボSはスーパーカー並みの性能を誇る

――そして第4位は!

竹花 Honda eです。コンパクトながら後輪駆動EVならではの上質な走りといいモノ感、そして先進的なコネクティビティが特長のシティコミューターです。航続距離は220kmと短いですが、ホンダのチャレンジ精神が詰まった注目の一台です。日本発売は来年の夏頃になるとも。

【第4位】Honda e 航続距離220kmとシティユースに割り切った、ホンダらしいハイテクEV

――コイツはかなり面白そうスね! で、5位は?

竹花 ランボルギーニ初のハイブリッドカー、シアン FKP37。かたくなに「ウチは電動化の予定はありません!」と言い続けてきたランボも、ついにハイブリッドを出してきました。とはいえ、まだV12エンジンを積んでいますが。ド派手なルックスも次世代ランボの方向性を感じます。

【第5位】ランボルギーニ シアン FKP37 ランボ初のハイブリッドカー。785PSの6.5リットルV12と34PSの電気モーターで819PSを発揮

――コレはびんびんのスーパーカー! 続いて6位は?

竹花 ランドローバーの新型ディフェンダーです。36年ぶりのフルモデルチェンジとなった新型は、ショートボディの90とロングボディの110があり、ガソリン、ディーゼルのほかにプラグイン・ハイブリッドも用意されます。ディーゼルのD200は、CO2排出量99g/kmというから驚きです!

【第6位】ランドローバー ディフェンダー 英国が誇る本格オフロード4WDがモダンに進化。2020年にはPHEVが登場予定

――コレは男がたぎるクルマだ! ランドローバー頑張りました! ラスト、7位は?

竹花 BMWコンセプト4。次期4シリーズのデザインスタディなんですが、巨大なキドニーグリルが賛否両論で大きな注目を集めました。BMWは「アイデンティティは強調する!」と言い張ってますが、ココまで強調しなくてもねぇ(苦笑)。

せっかくの美しいクーペフォルムがもったいないです。とはいえ、カメラやセンサーなど、クルマに盛り込まなければならない要件が日々増えるなかで、カーデザイナーの苦労が偲(しの)ばれる一台として取り上げてみました。

【第7位】BMW コンセプト4 次期4シリーズのコンセプト。キドニーグリルはどこまで巨大化するのだろうか......

――確かに今時のクルマはいろんなモノがついてますもんね。それらをうまく隠してカッコいいクルマに仕立てるのって実は大変そうス。

竹花 このほかにもミニのEVであるクーパーSEとか、メルセデス・ベンツAクラスのプラグイン・ハイブリッドであるA250eとか、プジョーe208の兄弟モデルであるEVのオペル・コルサeとか、注目すべきモデルがけっこうありました。今回のIAAは、「モーターショーの終焉」と「EV民主化の始まり」を実感させるショーでしたね!

●竹花寿実(たけはな・としみ) 
1973年生まれ。東京造形大学デザイン学科卒業。自動車雑誌や自動車情報サイトのスタッフを経てドイツへ渡る。昨年まで8年間、ドイツ語を駆使して、現地で自動車ジャーナリストとして活躍。欧州車のスペシャリスト