『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、鉄道マニアの彼女が注目する「山万ユーカリが丘線」について語る。
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首都圏の路線図で千葉県佐倉市の辺りを見ると、"しゃもじ"のような不思議な形をした路線があるのに気づくと思います。それが「山万ユーカリが丘線」です。
京成電鉄本線のユーカリが丘駅に接続している路線で、営業キロ数4.1㎞、全6駅の小さな路線です。
この鉄道は山万という不動産会社が建設したもので、今でも同社の鉄道事業部が直接運営しています。異業種から鉄道業界に参入する例は非常に珍しい上に、不動産会社が経営する鉄道は全国でもここだけです。
そもそもは同社がこのユーカリが丘というニュータウンの開発を手がけた際、地域の交通の利便性を高めるために鉄道も自社で造りました。
そのせいか、街全体が箱庭のような"シムシティ感"を漂わせています。特にユーカリが丘線の駅名は、「公園駅」「女子大駅」「中学校駅」など、ゲームの中に出てきそうな適当すぎる駅名がつけられているんです。
ただ、この駅名にはひとつワナがあります。なんと、女子大駅には女子大がないんです(もちろん過去にあったわけでもなく)。かつて女子大を誘致して先に名前をつけたものの、結局は実現しなかったからです。ストレートすぎる駅名かと思いきや、日本一トリッキーな名前かもしれません。
そんなユーカリが丘線が、一度、新駅名を公募したことがあります。鉄道ファンの間では話題になったんですが、結局変わりませんでした。あの公募はいったいなんだったのか、すごく気になります。
肝心の鉄道のほうですが、このユーカリが丘線は専用軌道上を自動運転で走る「新交通システム」の日本における先駆けで、ゴムタイヤのついた小さな車両が特徴です。
車両は約40年前のもので、照明がレトロだったり、エアコンの代わりにおしぼりが配られたりと、見どころ満載。短い距離のなかでも勾配が多く、鉄橋やトンネルもあり、想像以上に躍動感を感じられます。
しゃもじ状になっている路線の"へら"の部分には、意外にも田園風景が広がっています。「真ん中は開発しないのか」とツッコみたくなりますが、右側には住宅街、左側は生い茂った緑と、独特な車窓も山万ならではです。
私が一番推したいのが、看板や掲示板などに使われているフォント。たぶんオリジナルだと思うんですが、レトロな趣があってすごくすてきです。全体的なシムシティっぽさも相まって、小さいけれど完成された、模型の街に迷い込んだような気分になります。
このユーカリが丘線、ICカードは使えず、大人200円、子供100円の2種類のボタンしかないシンプルな券売機で切符を買います。街の自販機には"募金ボタン"がついていて、山万に募金できるようにもなっています。よく廃線の噂もささやかれているんですが、実際に乗ってみると、ちゃんと地元の方の足になっていることを実感しました。
このユーカリが丘線に乗ってあらためて、私の夢は"自分で路線を造ること"だと確認しました。その際は、JR新駅(現高輪ゲートウェイ駅)の公募で私が応募し落ちた「車両センター跡」などの駅名をつけて、夢の鉄道を造ります。
●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。現在、モデルとして活動するほか、J-WAVE『TRUME TIME AND TIDE』(毎週土曜21時~)などにレギュラー出演中。ユーカリが丘線には「こあら1号」「2号」「3号」という車両が走っているが、最後の3号には、コアラの家族が犬を飼っている様子が描かれているらしい