ニューヨーク市地下鉄R系統のある駅にて。胸を張って、「Fomer」と「American」をかけた「FOAMerican railfans united」Tシャツを着る

『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。イギリスとドイツの鉄道マニアについて分析した前回に続き、アメリカとアジアの鉄道ファン文化について語る。

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私の母国でもあり、かつて鉄道大国だったアメリカは、旅客鉄道こそ衰退したものの、そのスケールの大きさには特筆すべきものがあります。特に貨物列車はコンテナが巨大で編成も長く、頻繁に列車が行き交う地域では10分以上も列車を眺めていられるほどです。

しかし、旅客より貨物が幅を利かせている分、信号待ちをすると必ず旅客が負けてしまうんです。一度、デトロイトからシカゴまで車で3時間半の距離を列車に乗った際、貨物を通すために何度も止まった結果、9時間かかったことも。最近は、そういった遅れがないようにアムトラック(全米鉄道旅客公社)も力を入れ始めたようです。

それだけに、私が出会ったアメリカの鉄道マニアのほとんどは貨物好きです。ただし、「9・11」以降、彼らは肩身の狭い思いをしていると聞きました。なぜなら、荷物を扱う場所でカメラを持ってウロウロしていると、怪しまれて職質を受けたり、時には逮捕されることまであるから。

そもそも彼らは「foamer」と揶揄(やゆ)されてきました。「鉄道に興奮して口から泡を吹いている人」という意味です。ひ、ひどい(笑)。しかし最近、彼ら自身が「foamer and proud(私は鉄道ファンであることを誇りに思う)」と口にするようになりました。

自分たちに向けられた蔑称を積極的に利用することで、誇りを取り戻そうという、アメリカ人らしい動きです。かく言う私も、このメッセージがプリントされたTシャツを持っています。

ちなみに、ニューヨークなどの東海岸では鉄道が普通に機能しているし、サンフランシスコはケーブルカー発祥の地。ラスベガスとロサンゼルスを結ぶ高速鉄道の計画や、2020年にはハワイ初の鉄道路線が開通する予定があったりと、アメリカの鉄道の今後も楽しみです。

最後に、アジアの面白いファン文化もご紹介します。以前、仕事でインドネシアに行った際、インドネシア通勤鉄道(KCI)のグッズをたくさん見かけて「なんでこんなにあるんだろう?」と不思議に思ったことがありました。

もともとジャカルタは、日本の中古車両が大量に輸出されていることで知られていました。しかし、かつては故障や事故も多く、列車がダイヤどおりに来ることなどまずありませんでした。

しかし数年前、日本から派遣された技術者が現地の職員に保守点検のやり方や時間どおりに運行することの大切さを徹底的に指導したそうです。さらに、制服や制帽をきちんと着ることや道具を大事に扱うという精神論も教えた結果、職員の意識が変わり、仕事に誇りを持つようになりました。

そして多くの人に鉄道を愛してもらうため、鉄道会社の主導でグッズやポスターを作るようになり、鉄道ファンが増えているそうです。

こうしたファン文化は、好きな人がめいめいに楽しみながらコミュニティが形成されていくものだと思っていましたが、ジャカルタのテツは上からの働きかけで生まれたんですね。

制服をビシッと着てカッコよく指さし確認をする鉄道職員に憧れるジャカルタの若者たちは、世界の鉄道ファンのなかでもかなり新世代といえる存在だと思います。

●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。現在、モデルとして活動するほか、J-WAVE『TRUME TIME AND TIDE』(毎週土曜21時~)などにレギュラー出演中。アメリカ人には人気がないが、アムトラックの列車は最高だと思う

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!

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