トヨタ自動車・吉田守孝副社長(左)を小沢コージが緊急ナマ直撃!

20年間、ニッポンで親しまれてきたヴィッツが、その名を捨て、来年2月発売の新型から海外名「ヤリス」に統一される。その狙いはなんなのか?

10月15日、東京・お台場で行なわれた発表会でトヨタ自動車・吉田守(よしだ・もりたか)副社長に自動車ジャーナリストの小沢コージが聞いた。

■ヤリスと共に、ヤリスブランドを育てる

――まさか新型ヤリスがこれほど本気で攻めてくるとは思いませんでした。凝縮された欧風のエクステリアデザイン、コンパクトなBセグメント専用の新世代TNGAプラットフォーム、トヨタ初の先進安全機能や高度駐車支援システム、燃費2割増しの新作1.5Lハイブリッドなど、ヘタすると新型カローラより充実しているイメージすらあります。

ヴィッツは私の中では初代が一番スゴく、だんだん印象が薄くなっているイメージもありましたが、まさかの大逆襲です!

吉田 ありがとうございます。

――その一方で本当にヴィッツの名前を捨ててしまうとは。よくぞそんな大胆な決断ができましたね。

吉田 まず新作のGA-Bプラットフォームで大きくクルマを一新したのがひとつ。ヤリスWRCが大変盛り上がっていて、好成績を残しており、来年のWRC(世界ラリー選手権)最終戦は日本で行なわれるということがひとつ。

加えて来年5月からトヨタ全チャンネルで全車併売が行なわれるので、ヤリスを含め、トヨタ全体のクルマが大きく変わるなかで新しいスタートを切ろうというのがひとつ。

――新プラットフォームでコンパクトカーが大きく生まれ変わるタイミングでの改名であると。それから一昨年、18年ぶり復帰のWRCでヤリスWRCがいきなり勝ち、2年目にマニュファクチャラーズタイトルを獲得。今季は今季でエースのオット・タナックが6勝目でドライバー・タイトルトップをひた走っています。これも大きいと。

吉田 そうです。TNGAでヤリスがこんなふうに進化していくことと、それを後押しする形でのヤリスWRCの活躍。それとヤリスWRCで得たさまざまな知見がフィードバックされ、市販の新型ヤリスの性能も上がるといういい相乗効果も出ていますので。

2017年、世界的レース「WRC(世界ラリー選手権)」に参戦したヤリスは快進撃を続けている

――けど、なぜヴィッツという名前を捨てるんスか?

吉田 トヨタ自動車はカローラ、クラウンとロングセラーモデルがたくさんあり、そのモデルを大事にし、名前も大事にするメーカーです。

――ええ。

吉田 そんななか、ヴィッツという名前をヤメることについて、もちろん葛藤はありましたが、グローバルでひとつのヤリスにする。トヨタ全体のクルマが大きく変わる今、そのほうが新たなスタートを切るにはいいのかなと。

――ヤリスになってどう変わるんでしょうか。

吉田 今はヤリスだけですが、今後新作GA-Bプラットフォームをベースに新車をどんどん出し、日本や欧州のコンパクトカー市場を活性化させ、ヤリスと共にヤリスブランドを育てる戦略です。

新型ヤリスのボディカラーは全12色が設定されている。ちなみにイメージカラーは赤とピンク

DCM(車載通信機)と、スマホとの連携が可能なディスプレイオーディオは全車に標準装備

――ネーミングを統一し、走りにこだわった一方で、先進技術もたくさん投入しています。ターゲット層は?

吉田 まずはコンパクトカーの走りや、コンパクトカーそのものに対して興味を持っていただいている方。特にダウンサイザーの方にオススメしたいです。

――なるほど。

吉田 また従来コンパクトカーといえばセカンドカーという位置づけも多かったと思いますが、今回はファーストカーとしても十分お乗りいただけるクルマに仕上がっていると思います。

――要するに今までにないクラスレスカーなんですね。一方、価格はまだ発表されていません。こちらはどういう戦略を考えていますか?

吉田 価格について今日詳しくはお話しできませんが、アフォーダブル(手頃)な価格で、お客さまにとってお求めやすいということが大事だと思います。その意味も含め、新型ヤリスはいたずらにクルマを大きくしたり、重くしたりもしていません。

――決して高級化ではないんですね。一方、会見では「レベルを取り払った」という言葉を繰り返されていましたが、それは女性や若い人からオトナまで、新型ヤリスは間口を広げるんだ、という理解でよろしいですか。

吉田 間口が数として大きく広がるというよりも、コンパクトカーのあるべき姿をもう一度キチッと追究し、キチッと理解してもらい、徐々に間口が広がっていくイメージだと思います。現在、トヨタにはいろんなコンパクトカーがあり、バリエーションは今後もたくさん出ますので、それぞれの役割というものを考えながら戦略を決めていきたいと思います。

独特なデザインのリア。ボディサイズは全長3940㎜×全幅1695㎜×全高1500㎜パワートレインは、1.5Lハイブリッド車、1.5Lガソリン車、1Lガソリン車の3種類になる

■ハイブリッドは世界トップの燃費!

――今回の発表会見では既存のヴィッツとアクアとの重複を述べてらっしゃいましたが、ヤリスに統一することで、トヨタのコンパクトカーの差別化を図る意味もありますか。

吉田 まずですね、トヨタ自動車にはたくさんのクルマがあり、それぞれに役割があって、それぞれの役割を明確にすることによって、かぶらないようにすることを考えています。

――はい。

吉田 もともと、アクアはハイブリッド専用車であり、環境に重きを置いたクルマでありまして、一方のヤリスはコンパクトであることの強みを生かし、走る楽しみだとか見た目のスタンスのカッコよさであるとか、そういうところに特化し、上手にお客さまに選んでいただけるような形に持っていきたいと。

――つまり、アクアはより一般的なコンパクトカーであり、ヤリスは逆にスペシャルティカー的な要素というか、特長を持つコンパクトカーということですね。

吉田 そのとおりです。

――今後このBセグメントでは、カローラやVW(フォルクスワーゲン)ゴルフなどのCセグメント以上の厳しい戦いが始まると想定されているんでしょうか。

吉田 可能性はどこにでもあると思います。特に日本の国内マーケットは、一番下がリッターカー、軽自動車などさまざまなセグメントがいろんな競争を繰り広げているわけですから。

――世界的に小さなクルマにもいろんな要素を詰め込める時代になった。よって今回、トヨタの総力を結集して新型ヤリスを造ったのでは?

吉田 ヤリスのいるBセグメントになりますと、グローバルで言うエントリーカーという位置づけが多く、それぞれの地域の経済状況とかお客さまの嗜好(しこう)がマトモに出る領域ですので、地域によって戦い方はまったく変わるかと。

現行ヴィッツには限定モデルながらGRMNが存在。新型ヤリスにも設定!?

――だとすると、新型ヤリスはいろいろ盛りだくさんすぎて新興国では厳しいような気もしますが?

吉田 今回のヤリスに限って言わせていただくと日本と欧州に特に注目してやっています。そのほかの戦略は地域によって変わります。

――Bセグメントには、今後強敵であるホンダの新型フィットも出てくるはずで、アチラは今回ハイブリッド性能をさらに磨き上げていますが、ヤリスはどう対抗しますか。

吉田 それはホンダさんのクルマなのでまだわかりませんし、出たら切磋琢磨(せっさたくま)して互いにBセグメントの市場を活性化していきたいと思います。

――ちなみにハイブリッド車の燃費はどれくらいでしょう。会見では2割上がってパワー1.5割増しというお話でしたが。

吉田 細かくは言えませんが、間違いなく世界トップレベルであると。

――ズバリ、モード燃費でリッター50㎞ぐらいスか?

吉田 まあ、今日はひとつこれくらいで。私はこれから名古屋に帰るので(笑)。