『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は鉄道マニアの彼女が、「鉄道の音」を発見する楽しみについて語る。
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鉄道の魅力のひとつに、一見似ているようでも小さな違いを発見できる楽しさがあります。そんな楽しみを提供してくれる最たるものが「音」です。ちょっとした音で、車両のメカニズムだけではなく、路線の特徴や季節まで感じ取れます。
ジョイント音、発車メロディ、車内アナウンス、ブレーキの緩解(かんかい)音と、鉄道にまつわる音はすべて味わい深いですが、やはりモーター音は別格です。例えば、通称「吊つり掛けモーター」と呼ばれる、ひと昔前の技術が用いられたモーター音。「ゴゴゴゴゴゴゴ」と地の底から湧き上がるような音がして、はっきり言ってうるさいです(笑)。
大阪の阪堺電車では、この吊り掛けモーターを使った1928年製の古い路面電車がまだ走っています。しかし、吊り掛けモーターは今ではどんどん姿を消していて、今年7月にも箱根登山鉄道103-107編成が引退しました。
そんななかでも、現役で走っている車両のイチオシが「四日市あすなろう鉄道」で運行している近鉄260系電車。線路幅が約76㎝しかないナローゲージなので、車両はかなり小ぶりです。パステルカラーに塗られているかわいらしい見た目と、吊り掛けモーターの重厚な響きのコントラストがたまりません。
モーターだけではなく、インバーターの音にも特徴が出ます。「ドレミファ」の音階で音が上がっていく京急の通称「ドレミファインバーター」が有名ですが、私が好きなのは通称「墜落インバーター」。
JR東日本のE231系1000番台(湘南新宿ラインや東海道本線に使われている、銀色の車体にオレンジと緑色のラインが入っている車両)にこの墜落インバーターが採用されています。
普通、インバーターの音は加速するに従って「ウィーン↑」と磁歪(じわい)音の音程が上がっていきますが、この墜落インバーターはある段階で「ヒューン↓」と下がるんです。
音が下がっていく理由、メカニズムはわかるんですが、なぜE231系の1000番台だけ違う音がするのかは不明です。ドレミファインバーターは、インバーターが発する磁励(じれい)音と呼ばれるノイズを遊び心で音階に調整しているので、おそらく墜落インバーターも意図的にやっているんじゃないかと思います。ご存じの方、教えてください。
ちなみに近頃はインバーターが更新されており、1000番台の中でも音が墜落しない車両が増えているので、今のうちに耳を澄まして聴いてみてください。
それから、最近気ハマっているのは停車時の音。ブレーキの音とは別に「ぷ~ん」っていう音が鳴る車両があり、その音を集めています。東急5000系とかつくばエクスプレス2000系などなど、この音を出す車両はけっこうあって、聴くたびになんだかうれしくなります。
「わー」って人が叫んでるような、電気的なブレーキ音の響きが楽しい京王7000系も「ぷ~ん」と音が鳴る車両だと気づき、ますます面白いです。この音は、全電気ブレーキの影響で発生しているそうですが、「聞けたらラッキー」と思って、電車が止まった後の音に注目してみてください。日々の通勤が少し楽しくなるかもしれません。
★"音鉄"市川紗椰のひそかな楽しみ「ブルートレインの発車時から到着時までの音を聴きながら寝ると、自宅のベッドが寝台列車になります」
●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。現在、モデルとして活動するほか、J-WAVE『TRUME TIME AND TIDE』(毎週土曜21時~)などにレギュラー出演中。四日市あすなろう鉄道では、各駅に「不正改造車はダメ」みたいなポスターが張られていた