11月30日、神奈川県西部の海老名駅と横浜駅を結ぶ相模鉄道(相鉄線)とJRの、相鉄・JR直通線が開業。これにより、相鉄線の海老名から大和、二俣川、西谷、羽沢横浜国大を通り、恵比寿、渋谷、新宿方面へと直通する電車の運転が始まる。

JR東日本と相鉄が発表した資料によると、新宿~海老名の運転本数は1日92本。平日は相鉄線内特急65本、各停27本で、土休日は相鉄線内特急48本、各停44本となっている。また、平日、土休日とも、朝の時間帯に運転される12本が、新宿より先の池袋、赤羽方面の埼京線と直通している。

ダイヤ改正の概要はさておき、気になるのが今回の直通線の開業で新宿から乗り換えなしで行けるようになった、西谷、二俣川、大和、海老名といった相鉄線の駅、そして新しく誕生する羽沢横浜国大だ。

そこで、これらの駅を実際に訪問。正直、神奈川県民でも相鉄線ユーザー以外には、なかなかなじみの薄い街ではあるものの、そんな駅周辺の知られざる魅力や、直通線に対する地元の熱を探ってみた。

まず訪れたのは二俣川。本線(横浜~海老名)からいずみ野線(二俣川~湘南台)が分岐する乗り換え駅で、すべての電車が停車する相鉄を代表する駅だ。
 
駅に到着し、エスカレーターを上って改札口へ向かうと真新しい改札口が現れた。2018年4月に完成した駅直結の商業施設「ジョイナステラス二俣川」に合わせてリニューアルしたのだろう。 

二俣川は新しい商業施設にも人が多かったが、一番人が集まっていたのは免許センター行きのバス停だった

改札を出て商業施設を巡ると、相鉄の直通運転に対する力の入れ方が見えてくる。商業施設は真新しく清潔感があり、テナントにもお客さんが多い。北口を出た海老名方面には、29階建てのタワーマンションが見える。これも相鉄不動産が手掛け、2018年6月より入居が始まったグレーシアタワー二俣川だ。
 
このように、駅近くのエリアは相鉄グループを挙げて新しい建物を建設しているが、駅から5分も歩くと住宅地が並ぶ、古い言葉で言うとベッドタウンという雰囲気の街だった。駅のすぐ脇に片側1車線の県道が通り、大きな駅前広場を作れず、人が集まる場所を生み出しにくい構造なので、都市開発としてはこれが限界なのだろうか。
 
そんな感じで、新宿や渋谷から「わざわざ出かけたい!」という場所には、なかなか感じられなかった二俣川だが、直通線開業後は乗り換えなしで新宿へ向かうことができる上、商業施設が充実しているので、駅周辺に住むと生活には便利。駅から歩いて15分ほどのところに神奈川県警の運転免許センターがあるので、クルマを使う人にとっても、面倒な免許の更新が楽になる。

続いて向かったのは、二俣川から横浜方面へ2駅の場所にある西谷。本線から直通線が分岐する駅で、これまでは各停しか停車しなかった小さな駅だが、30日からは特急が停車する。
 
二俣川同様、いろいろ作られているのかと思い、駅に降りてみた。実際、直通線のホームが新たに作られ、そこからエスカレーターを上がったところに作られた駅の改札口もリニューアルされていたが、駅前は広場どころか細い道しかなく、昔からこんな感じだったんだろうなという雰囲気。駅から徒歩12分のところで相鉄不動産が住宅地を開発・販売しているとのことだが、駅前に限ると住宅が立ち並び、大きな店が見当たらない。北口にコンビニがある程度だ。
 
この駅も北口の目の前に国道16号が通り、駅前広場を設置できる広い土地が確保できない構造。各停しか停車しないのもうなずける。構造上、線路が分岐する駅となったので、乗り換えなどの利便を考えて特急停車駅に格上げされただけのだろう。
 
ただ、こういった乗り換え駅は大きな発展の可能性を秘めている。埼玉県にある東武東上線の和光市駅は開業時、都心部へ直通する地下鉄が分岐する駅という位置付けの駅だったが、地下鉄開業から30年経った現在、乗降客は2倍となり、東上線の中でも屈指のターミナル駅となった例もある。

駅を出たら、細い道しかない西谷駅北口。駅前広場や商業施設を建設できる土地は見当たらない

次に向かったのは大和と海老名。大和は小田急江ノ島線、海老名は小田急小田原線と、ともに小田急と交わる駅(海老名はJR相模線も乗り入れる)。
 
大和は古くからの飲み屋街が並ぶ、男性にとっては魅力ある街。一方の海老名は大和とは対照的で、2002年のビナウォーク開業を皮切りに再開発が進み、2015年にららぽーと海老名がオープン。駅前にはタワーマンションが立ち並ぶ新世代型の街に変貌した。
 
だが、これらの街へは新宿から小田急で、渋谷からは京王井の頭線と小田急で向かった方が安く行くことができるので、「直通線で行ってみよう!」とはならない可能性が高そうだ。

最後に向かったのは、直通線開業に合わせて新しく誕生する羽沢横浜国大。西谷駅から歩くこと40分。地図を頼りに、横浜の丘陵地帯のキツイ坂道を上り下りしてたどり着いた。
 
工事の最終の仕上げ段階なのか、それともこの駅から新横浜を通り、東急の日吉駅へとつながる、現在建設中の東急・相鉄直通線の工事が行なわれているからなのかはわからないが、駅前は開業目前にもかかわらず、工事が終了する気配がない。本当に30日からここが駅として機能するのだろうか。
 
と、開業前の駅を見て勝手な感想を抱いたが、おそらく駅の機能としては問題ないだろう。なぜなら、駅周辺にはコンビニすら見当たらない状況なのだから。
 
駅前を散策しても何もなさそうなので、駅名となった横浜国大まで歩いてみた。地図を見ると、大学の北門までならすぐに行けそうだ。

30日の開業目前にもかかわらず、絶賛工事中という状況の羽沢横浜国大駅。駅前には幹線道路である環状2号線が通り、車がひっきりなしに走っている

駅を出て坂道を登る。駅周辺は歩道があるが、大学へ向かう線路を跨ぐ橋のあたりからは歩道がなくなる。交通量が多いので注意して橋を渡ると、アパート群が現れる。横浜国大生を対象にした物件なのだろう。今は駅から離れた場所にあるため大学生を相手にしているが、駅からアパート群までは歩いて5分ほど。開業後は「新宿まで乗り換えなしで40分」というのをアピールするのではないだろうか。
 
アパートの並ぶ丘を上って下ると大学が見え、北門に到着した。駅からここまでの時間は12分。アップダウンは厳しかったが、大学生にとってはたいしたものではないだろう。

横浜国大の学生のみをターゲットにしたアパート。駅から近い場所にあるので、2、3年後には都内へ通う人も住むようになるだろう

北門は、周辺のアパートに住む学生たちが利用する裏門のような位置付けの門だったが、直通線開業後はこの門を利用する学生が激増すると思われる。なぜなら、羽沢横浜国大が、相鉄とJRの境目となる駅になるからだ。

これまで、新宿や渋谷などの都内の駅から横浜国大に通う場合、横浜で市営地下鉄か相鉄に乗り換え、最寄り駅までいかなければならなかった。ところが30日からはJRだけで羽沢横浜国大まで行くことができる。新宿からJRで横浜まで行き、地下鉄で三ツ沢上町まで行くと運賃は780円。新宿から横浜に行き、最寄りの相鉄・和田町駅までいった場合は750円だ。それが直通線の開業後は550円。運賃でみても200円も下がるのだから、通学定期代が下がるのも明らかだ。さらに大学の門までの所要時間は、羽沢横浜国大が一番近い。
 
現在は閑散としていて歩道も整備されていない、羽沢横浜国大から横浜国大北門への道だが、数年後にはコンビニや飲食店が並ぶ、大学生で賑わう通りになるのではないか。

現在は学生がポツリポツリと出入りする横浜国大の北門。ここがメインの門となる日は近い

取材を終えて横浜に戻り、駅構内を歩いていて気になったことがあった。夕方相鉄線の改札前を通ると、崎陽軒でシウマイ弁当を買い、相鉄線に乗り込む人を多く見かけた。直通線が開業し、横浜を通らなくなったら、彼らはどこでシウマイ弁当を購入するのだろうか。相鉄直通の電車が出る新宿の東口エリアは、高島屋の地下か、新宿三丁目の伊勢丹しか売店がない。渋谷の売店も、ついでに立ち寄れるような場所にはない。
 
崎陽軒好きの相鉄ユーザーは今後どこで購入するのか。開業後にその模様を追ってみたい。