『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、鉄道マニアの彼女が東京の"鉄道遺産"について語る。
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今回は、東京都内に現存する"鉄道遺産"とも呼ぶべき名建築をご紹介します。
まずは東武スカイツリーラインの「浅草駅」。この駅は立地がとても独特で、デパートの松屋浅草の2階にあります。駅と百貨店が一体化したいわゆる駅ビルは、今では当たり前のものになっていますが、浅草駅が竣工した1931年当時はまだ国内2例目という最先端の施設でした。
デパートと駅が融合する場合、たいてい地下か1階がホームになるので、東武浅草駅は今でも珍しいケースです。ちなみに、駅ビルは日本が発明したものですが、現在はヨーロッパでも日本の駅ビルをモデルにした施設が少しずつ造られるようになっています。
この浅草駅は、造られた当時はネオルネサンス様式の美しい外観を誇っていたんですが、70年代に外装の剥落を防止するために外観をアルミルーバーで覆ってしまいました。その約40年後、スカイツリーの開業に合わせた改修工事によって再び当時の姿が見られるようになりました。
また、浅草駅はホームがかなりカーブしていることも面白いところで、乗降の際は車両とホームの隙間が開いていて怖いくらいです。駅を出た電車が90°近く曲がって隅田川を横断するのもダイナミックな光景です。
ふたつ目の鉄道遺産は、都電荒川線三ノ輪橋停留所の「旧王電ビル」。かつて、王子電気軌道という会社が王子電車と呼ばれる路線を運営していましたが、それを東京都が買収したものが今の都電荒川線です。その王電の本社だったのが、この旧王電ビルなんですね。
三ノ輪橋停留所のすぐ目の前にあるこのビルは、1階部分がトンネル状の造りで、電車を降りた客が通り抜けられるようになっています。中は小さな商店街になっており、飲食店などが営業しています。現代の駅ビルの先駆け的な存在といってもいいんじゃないでしょうか。
この辺りも徐々に新しい建物が建つようになってきましたが、第2次世界大戦前のにおいを漂わせる旧王電ビルのたたずまいは、ひときわ存在感があります。
最後にご紹介するのはJR東日本の「御茶ノ水駅」。都内の歴史ある駅舎といえば東京駅ばかりがクローズアップされますが、この御茶ノ水駅も重要です。シンプルな機能美を追求した設計こそこの駅が名建築たるゆえんです。
1932年に竣工した現在の御茶ノ水駅は、日本で初めてモダニズム建築を様式に取り入れた駅舎だといわれています。その特徴は、真っ白な外観、直線的なデザイン、水平に並ぶ真四角の窓などに見られます。
さらに、コンコースや待合室がなく、構内まで最短距離で行けるという合理的な動線も当時としては画期的でした。また、神田川を挟んで反対側にある地下鉄丸ノ内線の御茶ノ水駅も、すごく機能的で無駄のない設計です。この辺りは勾配も多く、割と複雑な地形なんですが、その地形に沿ってモダニズム建築が配置されているさまはドラマチックですね。
実は今、JR御茶ノ水駅は大規模な改良工事が行なわれており、来春には新しい姿に生まれ変わる予定です。今のうちに見ておきたいですね。
●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。現在、モデルとして活動するほか、J-WAVE『TRUME TIME AND TIDE』(毎週土曜21時~)などにレギュラー出演中。三ノ輪橋停留所を出てすぐの商店街「ジョイフル三ノ輪」のグルメは、デパ地下より楽しい