BMW M135i xDrive 8速スポーツAT 5ドア 価格:630万円

マンガ『天才バカボン』とコラボしたCMが話題を集めているBMWの新型1シリーズ。8月に発売となったコイツの最強モデル・M135iを気鋭のジャーナリスト・竹花寿実(たけはな・としみ)が都内でがっつり試乗! その実力に迫ってみた。

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■新型1は激戦区を勝ち抜けるのか?

ヨーロッパで「Cセグメント」と呼ばれるカテゴリーは、VW(フォルクスワーゲン)ゴルフを筆頭に世界中の自動車メーカーがしのぎを削っている、極めて競争が激しい市場である。その理由は、販売ボリュームが最も多く、このセグメントにおける成否が、自動車メーカーの業績とブランド価値に大きな影響を与えるからである。

そんなCセグメントは、別名"ゴルフクラス"と呼ばれるほど、かつてはVWゴルフが圧倒的な強さを誇っていたが、1990年代後半以降にプレミアムブランドが参入し始め、今では多彩な個性が顔をそろえる。

BMW1シリーズも、2007年に初代がデビューした、比較的新顔の部類に入るモデルである。1994年に登場したE36型3シリーズ・コンパクトにルーツを持つ1シリーズは、BMWのスローガン「駆け抜ける歓(よろこ)び」を体現したスポーティなモデルとして、また、セグメントで唯一の後輪駆動モデルとして、走りにこだわるユーザーから高い支持を得てきた。

チェックポイント1 M135iは直径100mmのデュアル・エキゾースト・テールパイプを採用し、スポーティなリアビューを実現している

お膝元のドイツでは、走りがいいクルマの人気が周辺国と比べても特に高いこともあって、FRの歴代1シリーズはコンパクトカーながら「違いのわかる男のクルマ」的な位置づけとなっている。

歴代モデルに1シリーズMクーペやMパフォーマンスモデルといったハイパフォーマンスバージョンが用意され、また、その走りが素晴らしかったことも、このような評価につながっているのは間違いない。

しかし、FRはメリットばかりではない。エンジンが縦置きで、直6の搭載まで想定した歴代1シリーズは、Cセグメントではどうしてもキャビンを長く取ることができず、特に後席空間の広さでFFを採用したほかの競合モデルに水をあけられていた。

チェックポイント2 ホイールベースは2670mm、Aクラスより60mm短いが、パッケージ効率はまったく引けを取らないレベル

BMWとしては、走りはもちろん大事だが、ユーザーの使い勝手向上も無視できない。BMWはライバルの室内空間がどんどん拡大するのを受けて、ついに1シリーズもFF化した、というワケだ。

エンジンを横置き搭載する前輪駆動モデルとなった新型1シリーズは、先代と比較して後席空間が前後に40mm拡大。実際にリアシートに座ってみても、身長176cmの筆者で膝前に拳(こぶし)が縦にひとつはいるくらいの余裕があり、先代までのような窮屈な感覚はない。リアドアの開口部も明らかに広がり、乗降性も高められている。

また、ラゲッジ容量も20リットル増の380リットルと、最大のライバルであるメルセデス・ベンツAクラスを10リットル上回る。つまり新型1シリーズは、ライバルと互角以上の高効率なパッケージングを実現した。

チェックポイント3 メーターパネルとナビ画面は、どちらも10.25インチの大型ディスプレイ。ヘッドアップディスプレイも装備する

だがBMWは広さばかりを追求したワケではない。やはり走りが良くなければ、従来の顧客が離れてしまう。FF化に際して、BMWはすでにX1やX2、2シリーズ・アクティブツアラーなどにも用いている「UKL2プラットフォーム」を採用。このプラットフォームはJCWバージョンを含むミニ・クラブマンやミニ・クロスオーバーにも採用されているだけあり、ポテンシャルは十分!

実際に乗ってみても、スポーティネスや走りの上質感の点で、期待を裏切られることはまったくない。それどころか、個人的には予想以上にダイナミックな走りを手に入れているという印象だ。

チェックポイント4 306PS、450Nmを発揮する2リットル直4直噴ターボは確かにパワフル。しかし、コレがバツグンに扱いやすいのだ

今回のテスト車は、現時点でのトップグレードであるM135i。306PSの最高出力と450Nmの最大トルクを発揮する2リットル直4直噴ターボを搭載したハイパフォーマンス・バージョンである。

このモデルに限っては、駆動方式は電子制御4WDなのだが、アンダーステアは最小限に抑えられ、ハンドリングはとても素直で俊敏性にあふれている。ステアリングフィールもまったくクセがなくスッキリしている。8速ATの制御も絶妙で、不必要にキックダウンするようなことはなく、とてもパワフルでリニアな加速が味わえ、優れたドライバビリティを実現している。

足回りはそれなりに引き締められているが、乗り味はとてもしなやかでフラット。静粛性も高く、快適性は文句ない。ボディもビシッと剛性感があり、走りに対して妥協しないBMW開発陣の思いが、クルマ全体からヒシヒシと伝わってくる。

Aクラスはもちろん、来年には日本に上陸する見通しのVWゴルフや次期アウディA3、さらにはルノー・メガーヌやアルファ・ロメオ・ジュリエッタ、国産車ではマツダ3やトヨタ・カローラスポーツなど、強豪ひしめくCセグメントで、新型BMW1シリーズは今後大きな存在感を発揮することになるだろう。

M135iの車両本体価格は630万円と決して安くはないが、このクラスでこれほどいいクルマと感じられるモデルはなかなかない!

M135iは306PSの2リットルターボを積む高性能4WD。キレ味抜群の走りは最高に気持ちいい

●竹花寿実(たけはな・としみ) 
1973年生まれ。東京造形大学デザイン学科卒業。自動車雑誌や自動車情報サイトのスタッフを経てドイツへ渡る。昨年まで8年間、ドイツ語を駆使して、現地で自動車ジャーナリストとして活躍