クーペ風のクロスオーバーSUVのMX-30。骨格はマツダ3から採用のスカイアクティブアーキテクチャの最新版。マツダ・廣瀬一郎専務(左)と小沢コージ

来場者を130万人に伸ばし話題を集めた今年の東京モーターショーで、マツダの藤原清志(きよし)副社長に今年発売になった「マツダ3」の話を聞いた前編に続き、今回はマツダの専務執行役員であり、パワートレインや統合制御システム開発も担当する廣瀬一郎に、自動車ジャーナリストの小沢コージが直撃。2020年の市販開始を予定しているマツダ初のピュアEVの全貌に迫った!

■マツダが大容量EVを造らないワケ

──正直驚きました。EV嫌いのマツダが、突如ピュアEVのMX-30を東京モーターショーで発表! しかも発売がもう来年だなんて。ズバリ、どんなEVなんですか。

廣瀬 EVだから買っていただくだけじゃなく、クルマとしての提案をいろいろ入れていまして、RX-8以来のリア観音開きの「フリースタイルドア」とか、スタイリングにしてもマツダのデザイントップいわく、「球種を増やしました」と。

今までの"魂動(こどう)デザイン"のファミリーですが、趣向を変えている。運動性能もマツダらしいものになっていますよ。目をつぶって乗り比べたらガソリン車との違いがわからないかも(笑)。

──EVになってもマツダの味やポリシーは変わらないと。しかしなぜ今、マツダがEVを出したんスか。

廣瀬 やはり各国のいろんな環境規制が、半ば構造要件というか、EVを入れなければクリアできないようになっていまして。「EVを何台入れなさい」みたいなのはアメリカや中国ぐらいですが。

──それだけCO2規制が厳しいと。でもかつてマツダは「内燃機関だけでいける。エンジンはまだまだ熱効率を上げられる」と言っていました。

廣瀬 いや、実際、開発陣はまだCO2を3割減らせるって言ってます。それも今回出すガソリン希薄燃焼の「スカイアクティブX」エンジンから3割ですよ。

──どんだけマツダはエンジン技術に自信があるんだ! けど、だったらなぜEVが必要なんスか。

廣瀬 マツダは常にウェル・トゥ・ホイール(井戸からタイヤ)と言っています。要するにエネルギーを取り出すところから、クルマで走って消費するまでのCO2排出量を比べなければ意味がありませんと。いくらEVが走行中にCO2を出さなくても、使用する電気を火力発電で作っていたら本末転倒というか。

──ええ。

廣瀬 でも、欧州の燃費規制では、EVは走ってる地域にかかわらず、CO2排出ゼロでカウントされるんです。その規制のなかで数値を満たしなさいと。そうなると、ある程度はEVが必要になる。

【MX‐30】2020年後半に欧州から発売を開始するというマツダ初の量産ピュアEV。走りの実力が気になる。フロントマスクはグリルがヘッドライト部分までつながっており、かなり立体的になっているRX-8以来となる懐かしの観音開きドア。ちなみにマツダは「フリースタイルドア」と呼ぶ。ボディサイズは全長4395㎜×全幅1795㎜×全高1570㎜。CX-30とほぼ同じサイズだ

──EVやPHEVが圧倒的有利だと。非常に政治的でウソくさいルールですよね。しかし、MX─30でさらに不思議なのはEVの航続距離がたった200㎞であること。搭載電池も35.5kWhしかない。

くしくもホンダeもまったく同じですが、日産リーフでさえ初代は24kWhで失敗し、2代目は最低でも40kWh積んで大容量バージョンは62kWhです。

さらにテスラは最大100kWhで、ジャガーもポルシェもほぼ90kWh積んで約500㎞走れる設計になっています。他社と勝負する気はあるんスか?

廣瀬 そこなんです、最大のポイントは。今回日本はもちろん外国のジャーナリストの方々にお伝えしているのは、35.5kWhの理由です。実は電池容量を大きくすればするほど、ライフサイクルでのCO2発生量は内燃機関のクルマより増えてしまう。電気を再生可能エネルギーや原子力で賄っている地域以外は。

──どういうことですか。

廣瀬 一番の問題は電池を作るときに大量の電気を使い、CO2を出すことです。例えば1kWhの電池を作るのに、いろんなデータをニュートラルに平均して、どれだけの電気が必要だと思いますか。

──まったくわかりません。

廣瀬 163kWいるんです。つまり100kWhの電池だったら1万6300kWの電気が必要になる。それを新車完成時の時点で使っているんです。ガソリン車よりも余分に。

──最初からCO2の大借金を背負っているってことですね。それを走行中に減らしてチャラにしなければ、EVを買ったメリットはないと。

廣瀬 そのとおりです。

──つまり35.5kWhのEVのほうが、100kWhのEVより借金が少なくてより健全だ。だからマツダはそうしたと。

廣瀬 そういう意味もあります。真の環境貢献をしようと思ったら、EVを製造してから廃車するまでのトータルのCO2排出を減らさないと大義に反すると。

──なるほど。35.5kWhは技術的問題ではなく、マツダ独自の理想論というか原理主義から算出された電池量なんスね。

廣瀬 ええ、そうなんです。

──でも正直、伝わりにくい。今や世間では長距離を走れないEVは不便で、もっと踏み込んで言うと、「怖い」みたいなムードすらあります。

廣瀬 でも、ちゃんと再生エネルギーでEVが普及しているノルウェーみたいな北欧諸国を見るとせいぜい一日50km走れば十分なんですよ。ノルウェーはすでに国民の50%ぐらいがEVを保有しているんですが、長距離向けにはちゃんとエンジン車を持っていて使い分けている。

──別に大容量EVをたくさん売る必要はないし、電池が少ない分、クオリティと価格が安ければ勝負できると。

廣瀬 そうじゃないかと思うんです。もちろんすべてのお客さまがこういうEVをお求めになるかというとノーだと思いますが、こういうEVに対する価値を求めてもらい、買っていただくのが大義かと。

──実に青くさい! 相変わらずマツダは面白くていいスね。そもそも過剰パワーが売りの、環境にいいフリして環境破壊の大容量ハイパワーEVなんぞ造りたくないと。だったらわかる人だけに楽しくて環境に比較的優しいマツダのスペシャルEVに乗ってくださいと。

廣瀬 われわれがよく言うのは世界の発電事情です。要するにその国はどれだけ水力や風力などの再生可能エネルギーで電力を作り、逆にどれだけCO2を出す化石燃料で発電を行なっているかの比率です。それでいうとヨーロッパの平均は45%ぐらい。

でも本当にいいのは北欧諸国でノルウェーは90%以上が水力発電。逆に中国、インドは半分以上石炭を燃やしているので、EVを走らせれば走らすほどCO2を出していることになる。

【マツダ3】マツダ渾身の新世界戦略車であるマツダ3。大本命の「スカイアクティブX」搭載モデルは12月発売予定とのこと

──なるほど。しかし、電池製造時にもCO2を大量に出すとは知りませんでした。

廣瀬 どのメーカーも情報をあまり出していませんから。リチウムイオン電池は材料を粉にして乾かす工程に大量のエネルギーが必要なのとスゴく空調を整えた環境内でバッテリーを造らなければならない。

それと一回EUの規制当局と話をしたことがありますが、彼らは「どうしても将来電動化を加速させたいので、今の規制は電気自動車のアレルギーを撤廃する導火線だ」と言い切っていました。

──なんだかイデオロギー闘争的な話になってきました。要は大容量EVを出し続けるドイツ、アメリカの欧米勢に対し小容量EVで対抗するマツダとホンダの日本勢。もちろん日本勢のほうがエコなんでしょうが、ちょっとわかりにくいし、なんだかんだ大容量のほうが便利で、テスラなんて走ると麻薬のように速い。正直、ドン・キホーテの戦いのようにも聞こえます。

廣瀬 マツダの核はやっぱり内燃機関であり、スカイアクティブXなんです。本当は内燃機関だけで戦いたいところですが、構造要件的にEVも造らなければならない。でもやっぱり私たちの大義に反するものは造りたくないんです。となると両立の答えはこうなるんです。

──つくづく不器用というか、時流に逆らって生きるメーカーだ! どっかの歌じゃないけど、決して時代に流されないクソ頑固なメーカーですね。

廣瀬 じゃないとマツダという小さな会社の存在意義ないじゃないですか(笑)。