1位 レクサス「RC F」価格1040万円~1430万円。481馬力。今年、マイナーチェンジを受けてエンジン、足回りが磨かれた。もちろん、空力や軽量化にも手を入れている

世界的な電動化&環境規制の波によって、土俵際に追いつめられているのがガソリンスポーツカーだ。絶滅する前に買うべき一台を、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員の山本シンヤ氏に独断と偏見で選んでもらった!

■日産GT-Rを今買っとくべき理由

──昨今、自動車業界のトレンドは"電動化"です。年々、厳しさを増すCO2排出削減を目的とする燃費規制や、ゼロエミッション規制などによって内燃機関の立場はどんどん悪くなっている気がします。

山本 もちろん電動化の波は確実に近づいていますが、クルマがオール電化になるには20年以上かかるはず。HV(ハイブリッド)やPHEV(プラグインハイブリッド)など「内燃機関+電動化技術」の割合が相当増えるでしょう。私の予想では内燃機関は将来的にも大多数を占めるはずです。

──ただ、昔のように高出力で気持ちよくブン回り、チューニング部分もちゃんと残っている、いわゆる"びんびんエンジン"はなくなる気がします。正直、どうです?

山本 現在、自動車メーカーは、とにかくありとあらゆる制約のなかでエンジンの開発を行なっています。昔のようなエンジンを出すのはもう難しいでしょうね。

──そんななか、スバルのエンジン「EJ20」が30年の歴史に幕を閉じます。ちなみにEJ20最後の特別モデルには申し込みが殺到したとか?

山本 限定555台に対して、ナント1万3000台の応募があったそうです。

──スゲェー! ということで、今回は山本さんに現在購入可能な「国産最強びんびんガソリンエンジンベスト5」を選んでいただきたいと思います。まず、栄えある1位からお願いします。

山本 レクサスRC Fです。

──今年5月にビッグマイナーチェンジを受けたばかりのモデルです。ズバリ、1位の理由は?

山本 メルセデスに「AMG」、BMWに「M」があるようにレクサスの本気のスポーツブランド「F」を牽引(けんいん)するモデルですが、ポイントはエンジンにあります。

──というと?

山本 ライバルは環境対応のために、いわゆる「ダウンサイジングターボ」に変更を余儀なくされていますが、RC Fは自然吸気のV8 5Lの「2UR-GSE」を今も継続採用しています。パフォーマンスという意味ではライバルに劣る部分もありますが、エンジン回転の伸びの良さやレスポンスなど、五感に響く性能に関してはAMGやMもかないません!

──レクサスは今後もこのエンジンを使い続ける?

山本 5Lながら4.2L並みの燃費を実現してますが、世界の環境規制を考えると厳しいと思います。ただ、レクサスはFの強化を公言していますので、将来的にはこのエンジンに近い特性を持たせたターボエンジンに置き換わるはず!

5LV型8気筒エンジンの最高出力は481PS、最大トルク535Nmを誇る赤が目立つコックピット。超派手!

──続いて2位は?

山本 日産GT-Rです。

──ニッポンが世界に誇るスーパースポーツです。2007年の衝撃的な登場から12年が経過していますが、パフォーマンスはどうスか?

山本 毎年の進化・超熟成によって初期モデルと最新モデルは似て非なる乗り味を実現しています。しかしエンジンに関しては何度か出力アップは行なわれましたが、基本特性は不変のV6 3.8Lツインターボの「VR38DETT」。

2位 日産「GT-R」価格1082万8400円~2420万円。570馬力。50周年を記念した特別仕様車「50th Anniversary」。新色にホワイトステッカーは目立つ

──すでにさまざまな自動車メディアから次期モデルのウワサ話が出ています。

山本 次期モデルがあるかどうかも含めてナゾばかりですが、日産が描く未来のビジョンを踏まえると、電動化は必至で、もしかしたらテスラのような"電気オバケ"のようなモデルになる可能性も否定はできません。

そう考えると、ピュアな内燃機関を搭載したGT-Rは現行モデルが最後だと思います。迷わずゲットしておくべきでしょう!

3.8LV6ツインターボは570馬力。ちなみにNISMO版は600馬力シート、センターコンソールなどに50周年記念ロゴを配しているド迫力のリア。ちなみに50周年モデルは2020年3月末までの限定発売

──続いて3位は!

山本 今年7月に大幅改良された日産スカイラインに追加されたスポーツグレード「400R」です。

──マイチェン後の新型スカイラインは日産ブランドを強調したエクステリアデザインやハンズオフが可能な高度運転支援システム「プロパイロット2.0」が話題です。

山本 さらに注目はV63Lツインターボ「VR30DDTT」が追加設定されたこと。このエンジンは長年使われてきた「VQ」に代わる新V6エンジンで、GT-Rのエンジン技術がフィードバックされています。

400Rはブースト圧の変更により405PSを発揮します。60年以上の歴史を持つスカイラインのなかで最もハイパフォーマンスなモデルでもあります。

3位 日産 スカイライン400R。価格562万5400円。405馬力。今年7月の大改良で日産スカイラインに追加された新グレードが400Rだ。スカイライン史上最強となる405馬力というハンパないパフォーマンスを誇る専用チューニングされた3LV6ツインターボを搭載。最強スポーツセダンだ赤いステッチが目を引くインテリア。本革スポーツシートは400R専用

──さぁ、どんどんいきましょう! 続いて4位は!

山本 日産が続きますが、フェアレディZです! トヨタの「スープラ」と並び、頑張れば手が届くミドルクラスのスポーツカーですが、毎年進化・熟成を行なうGT-Rに対して、Zはやや放置気味です。

──クルマとしての実力は?

山本 電子制御は必要最小限で、ドライバーがコントロールする部分が多い。今では数少ないピュアなスポーツカーといえる一台です。エンジンは自然吸気のV6 3.7Lの「VQ37VHR」を搭載しています。

4位 日産「フェアレディZ」価格397万9800円~651万9700円。336馬力。50周年記念の特別仕様車は2020年3月末までの期間限定発売。ちなみにボディは超目立つ

──どんなエンジンなんスか。

山本 大排気量なので低速トルクは十分ありますが、回すほどに力強さが増す特性に加えてやや荒々しさが残されたフィーリングは最新エンジンでは味わえない感覚です。VQエンジンはデビュー当初こそ、実用重視なイメージが強かったんですが、長年の進化・熟成でスポーツカーにふさわしいユニットへと成長しています。

──とはいえ、現行モデルは2008年の登場です。次期モデルのウワサは?

山本 次期モデルは電動化もしくは400Rと同じV6ターボになると予想します。ですから、7500rpmまで使える高回転型の大排気量NAエンジンを味わうなら今しかありません!

連続可変バルブを採用した3.7LV6エンジン。世界初のシンクロレブが話題を集めたインテリアは50周年記念モデルらしく、専用装備が満載となっている

■スバル、ホンダの最強カーにも注目!

──そして、第5位は?

山本 EJ20を搭載したスバル「WRX STI」の功績も素晴らしいんですが、WRX S4を推したい。

5位 スバル「WRX STI/S4」価格343万2000円~413万6000円。308馬力。歴史を閉じるEJ20搭載のSTIを撮影。ちなみにS4には巨大ウイングがない

──WRX S4には新世代ボクサーエンジン最強スペックの「FA20DIT」が搭載されています。基本設計が新しいので、まだまだ先があると思いますが。

山本 このエンジンはEJ20並みのパフォーマンスと、EJ20が最も苦手だった環境性能や燃費性能を両立させたユニットです。日本ではCVTとの組み合わせのみで、EJと比べると実用重視に見られることが多いですが、北米では6速MTの組み合わせも用意されています。

レッドゾーンは6800rpmと低めながらも、爽快に回るエンジンに仕上がっています。ただし、これからどんどん厳しくなる規制に対応させるには2Lのままでは厳しいようで、どうも将来的には排気量のアップも検討されているようです。

──つまり、30年続いたEJ20に対して、FA20は短命?

山本 水平対向エンジンを今後も継続していくためには、その可能性は否定できません。ちなみに次期WRXのエンジンは北米専売の3列シートSUV「アセント」に搭載される2.4L直噴ターボ(FA24)をベースにするウワサもあります。

ラリーで活躍した名機EJ20エンジンに6MTを組み合わせ、308馬力を誇るSTI写真はSTIの6速MT。シートに座った瞬間から男が高まる。S4は8速CVTだ

──次点はある?

山本 ホンダ・シビック タイプRです。「K20C」は出力、燃費、環境性能を見事にバランスさせたホンダ自慢の次世代ターボエンジンです。

──はい。

山本 しかしそのホンダが、「2022年にまでに欧州で販売されるすべてのモデルを電動化車両に置き換える」と発表していることもあり、純粋なエンジン搭載のタイプRはこのモデルで最後の可能性が......。

次点 ホンダ「シビック タイプR」価格458万3700円。320馬力。17年にはドイツのサーキット場「ニュル」で市販FF車最速を記録したエンジンは最高出力320馬力。2L直列4気筒ターボを搭載。6速MTと組み合わせるチタニウムシルバートリムをあしらった専用ステアリングはびんびん装備だ

──ちなみに今年の東京モーターショーでトヨタの豊田章男社長が「社長自身が乗ってみたい新しいクルマとは何か?」という質問を受けて、「心の底ではガソリン臭くて、燃費が悪くて、音がいっぱい出てね、そんな野性味あふれたクルマが好きですね」と答えていました。

山本 その気持ちはホントによくわかります。昔のエンジンは決して万能ではないし、燃費も悪かったですが、爆発で生まれる鼓動や人間味を感じさせるフィーリングなど、ただ速く、ただ鋭いだけでなく、変な話ですが、血が通うエンジンが多かったなと。

──今後、そんなびんびんエンジンは生まれませんかね?

山本 非常に難しいですが、可能性は決してゼロではないと思っています。ちなみにWECを戦うトヨタ「TS050」エンジンは火力発電所並みの熱効率と高出力化を高次元で両立させています。

──ほう!

山本 となると、将来的には高出力で気持ち良く、さらに燃費や環境性能を両立させた次世代の国産最強びんびんガソリンエンジンが登場する日が来るかも!

●山本シンヤ
自動車研究家。自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車雑誌の世界に転職。2013年に独立。スポーツカー、モータースポーツに精通。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員