健康診断や人間ドックで、30歳を超えたあたりから多くの男性が意識し始めるのが「尿酸値」だ。最近でも、35歳のお笑い芸人・かまいたちの濱家隆一が、高尿酸値が原因の「痛風」を発症して歩けなくなり、松葉づえ姿でイベントに登場しニュースになった。
ということで、ついつい食べすぎ飲みすぎてしまう新年に、尿酸値を下げる方法、そして痛風の対策を学んでおこう!
■尿酸と痛風の基礎知識
そもそも「尿酸」ってなんなの。東京女子医科大学膠原(こうげん)病リウマチ内科教授の谷口敦夫先生に聞いた。
「尿酸はエネルギー物質やDNAの一部である『プリン体』が肝臓で分解された際にできる物質で、その血中濃度が尿酸値です。男性の尿酸値は正常で6.5mg/dl以下。7.0mg/dlを超えると『高尿酸血症』に位置づけられ、『痛風』のリスクが高くなります」
ではその「痛風」の発症メカニズムを教えてください!
「高尿酸血症が続くと、関節の中で尿酸の塊ができてしまいます。この塊は関節の軟骨や膜にひっついていますが、これがはがれて関節の中に落ちると白血球が悪いものと認識して攻撃して激しい炎症が起こります。これが痛風発作です。
ちなみに痛風患者の98%が男性というデータも。最近では食生活の変化などから20、30代で発症する男性も珍しくない病気となりました」
では、どのような生活が尿酸値を高める?
「尿酸のもととなる『プリン体』を多く含む食品をよく食べる人は要注意です。プリン体は常に体内でも作られていますが、食事で摂取することでさらに量が増えます。
例えば、魚卵や肉・魚の内臓類に多く、そのほか、魚の干物は内臓を含む上に水分量が減っている分、同じ量の通常の魚と比較した場合、プリン体が多いです。アルコール類ではビールに最も多く含まれますが、特に最近人気のクラフトビールはプリン体のもととなる酵母が多いので、さらに量が多くなっています」
ちなみに、尿酸値は薬で下げられない?
「高尿酸血症の方向けに尿酸値を下げる薬もありますが、薬で一時的に下がったとしても、このような方の生活習慣には、痛風はもちろん心筋梗塞や脳卒中などのリスクも潜んでいます。生活習慣を見直す根本解決が重要です」
というわけで、さっそく今すぐ実践できる尿酸値を下げる具体的な方法を教えてもらおう!
【習慣1】尿をアルカリ化。最強の食べ物は「ワカメの酢の物」
まずは食事面での改善方法から。
「尿酸は尿から排出されますが、酸性物質なので尿が酸性だと溶けません。尿からの排出量を増やすためには、尿をアルカリ性に近づけるのが効果的です」
こう語るのは、両国東口クリニック痛風・リウマチ科の大山博司先生。
「野菜や海藻、酢などは尿をアルカリ性に近づける作用があるので積極的に摂取しましょう。ワカメを酢の物にすれば一度に摂取できてオススメです」
ただ、アルカリ化食品の中でも注意があるようで。
「豆類や果物などもアルカリ化する食品ですが、豆類はプリン体を比較的多く含むこと、果物は果糖が尿酸値を上昇させることなどから食べすぎは禁物です」
【習慣2】昼食は弁当より外で定食を食べる
さらに前出の谷口先生からはこんな指摘が。
「肥満やメタボリックシンドロームの方は中性脂肪が尿酸の生成を促すため、高尿酸血症になりやすいです。肥満の予防・解消のためにも、普段のランチでは栄養が偏りがちな市販の弁当より、外食して定食をチョイスしましょう。アルカリ化食品である野菜も自然と摂取できます」
【習慣3】砂糖不使用のダイエット飲料の甘味を有効活用
「砂糖には尿酸生成を促進させる作用があります。日常的に甘いものを飲む方は過剰に糖分を摂取してしまうので要注意。もしも飲みたい場合はいわゆるダイエット系ドリンクなど、砂糖不使用のものを選ぶ習慣をつけてください」(前出・谷口先生)
【習慣4】一日1杯の低脂肪牛乳が尿酸排泄を促す
続いて即効性がある方法として、普段の食事"プラスアルファ"で摂取すべきものも教えてもらった。
「低脂肪牛乳を一日コップ1杯飲めば、1週間でも尿酸値の低下が期待できます。タンパク質には尿酸の排泄(はいせつ)を促進する働きがありますが、肉や魚などはプリン体を多く含みます。
その点、乳製品はプリン体をほとんど含みません。乳タンパクである『カゼイン』にはさらに尿酸排泄を促進する効果もあります。ただ、中性脂肪やコレステロールなどの脂質は抑えたいため、低脂肪牛乳を推奨しています」(前出・大山先生)
【習慣5】コーヒーも尿酸値にいい影響
また、こんな意外な飲み物も効果があるという。
「コーヒーには尿酸値を下げる効果があります。一日に6杯以上飲む人の痛風発症の危険度は、まったくコーヒーを飲まない人に比べ半分以下という実験結果も。ただし尿路結石を合併している場合は、コーヒーに含まれるシュウ酸が結石のもととなるので避けましょう」(前出・谷口先生)
もちろん、砂糖は入れずにブラックか、ミルクは入れてもよいとのこと。
【習慣6】尿酸値を下げるサプリメントは意外と有能
最近では尿酸値にアプローチした機能性食品も増えている。特に店頭でよく目にするのが「明治プロビオヨーグルトPA-3」。CMでは「世界で唯一尿酸値の上昇を抑える」と大々的にうたっているけど、効果は期待できるの?
「この製品に含まれている『PA-3乳酸菌』は、プリン体を効率的に分解し、体内への取り込みを減らす働きがあります。このため摂取直後から尿酸値の上昇を抑える効果が確かに期待できます」(前出・大山先生)
このヨーグルト以外にも尿酸値を抑える効果のあるサプリメントがあるという。
「『キトサン』は体内で作られるプリン体のもとである核酸の吸収を阻害する働きがあります。例えば、ファンケルから発売されている『尿酸サポート』サプリメントには、この『キトサン』と、尿酸値を下げるポリフェノールと同じ働きをする『アンペロプシン』が含まれていますので、服用直後から一定の効果が期待できます」(前出・大山先生)
まさに救世主! これは暴飲暴食の免罪符になるのでは!?
「ただ、サプリメントで期待できる尿酸値降下作用はせいぜい0.5mg/dl前後。7.0mg/dlを少し超える値の方ならサプリメントで改善が可能ですが、高すぎる場合はやはり生活習慣の改善が前提です」(前出・大山先生)
あくまで補助的に摂取するのが正しい使い方のようだ。
【習慣7】乾杯は「とりあえずワインで」習慣を始めてみる
続いて、気になるのはやっぱり酒の影響! アルコールはやめるべき?
「アルコールには尿酸値を上げる作用があるので、尿酸値の大敵です」(前出・谷口先生)
とはいえ、バリバリ働いて会食や接待も多い30代にとって断酒は厳しい気が......。
「お酒の中でも、ポリフェノールを多く含むワインであれば、200~300ml程度の飲酒なら影響が少ないという報告もあります。量が増えるのはよくないですが、どうしても飲む場合はプリン体を多く含むビールは避けて、適量のワインにしましょう」(前出・谷口先生)
「とりあえずビール」ならぬ「とりあえずワイン」を始めてみよう。
【習慣8】酒のお供はチーズと水
さらに気になるのは、酒のつまみ。
「リコッタチーズ、カッテージチーズは低脂肪でプリン体も低めでオススメです。あと、重要なのはアルコールを摂取したら同量の水やお茶も飲むようにしましょう。尿量が増えて、尿酸が排泄されやすくなります」(前出・谷口先生)
【習慣9】いつもの通勤は階段を使う習慣を
尿酸の大敵、肥満を予防するためには運動も大切。日常で取り入れられる運動を教えてもらった。
「普段からできるだけ階段を使って日々の歩数を稼ぐようにしたり、歩くときに早足にすることで日常生活のなかでの運動量を保つようにしましょう。また、ストレスが増えると暴飲暴食や甘い物を多く摂取してしまいます。その点運動習慣をつけることはストレス発散という観点でもいいことです」(前出・谷口先生)
【習慣10】イスに座って両足を伸ばすだけでも効果はアリ
ただし運動についてはこんな注意点も。
「同じ運動でも、筋肉トレーニングなどの無酸素運動は新陳代謝が活発になり、尿酸生成が促進してしまって逆に尿酸値が急上昇することもあります」(前出・大山先生)
では、忙しいなかでもできる簡単な有酸素運動は何かない?
「イスに座って両足を真っすぐに上げて2分間ほど保持するという運動は効果的。少し物足りない場合はペットボトルなどの重りを足先にのせるといいでしょう」(前出・大山先生)
以上の生活習慣をできるものから取り入れ、新年会に備えよう!
●谷口敦夫(たにぐち・あつお)先生
東京女子医科大学膠原病リウマチ内科教授。『マンガでわかる痛風の治し方』(主婦の友社)などを監修している
●大山博司(おおやま・ひろし)先生
両国東口クリニック理事長。同クリニックの「痛風ホームページ」で痛風医療相談を現在まで3000件以上受けている