■10万円超えの機種が売り場を席巻する理由
全国6000万人の白米大好き男子の皆さん、今年もうれしい新米の季節がやってまいりました!!! 炊き上がったご飯の白い湯気を見るのは、日本人に生まれてよかったと思う幸福な瞬間であります。
しかし近年では、家電量販店の炊飯器売り場を見ると、実に数十種類もの炊飯器がズラリと並んでいます。多機能・高機能をうたい最前列に並ぶ機種ともなれば、10万円超えもザラ。今や、おいしいご飯はセレブだけの特権となってしまったのか......。
「おいっ、目を覚ませ!! だまされるなっ!!!」
そ、その声は......激安ハッピーライフの探究でおなじみの家電ジャーナリスト、じつはた☆くんだ氏! だまされるなって、いったいどういうことですか?
「そんな高級機は必要ありません! 少なくともひとり暮らし、あるいはふたり暮らしなら、高くても3万円クラスの炊飯器で間違いなく激ウマのご飯が食べられます。そのためにも、まずは炊飯器の種類と仕組みを理解しましょう」
炊飯器を理解する......それが難しいんですよ。どれも同じに見えて、やっぱり高いほうがいいのかなって。
「一般的に市販の電気炊飯器は大きく3種類。マイコン、IH、そして圧力IH。これをしっかり覚えてください。
マイコン炊飯器は登場から40年がたつタイプですが、ご飯を炊くという単純作業の世界ではまだまだ現役。お釜の中の温度を感知し、最適な温度と火力で炊き上げてくれます。
一方、電磁調理器のIH炊飯器は同じ電力でも火力が高く、一気に加熱する能力に優れています。そして圧力IH炊飯器は、さらにお釜を密閉し加圧して、かまどのように高火力で炊き上げる。時短効果と、ふっくらした炊き上げが可能です」(じつはた氏)
となると、やはり選ぶべきは圧力IH?
「まあまあ、落ち着いて。実際のところ、この炊飯方式の違いだけでは、それほど価格差は出ません。メーカー各社がドカンと費用をかけているのは、炊飯器本体よりも内釜の材質。多層釜、アルミ釜、鉄釜、炭素釜、土鍋、銅釜などなど、本当に多種多様ですよね。
実は、マイコン炊飯には熱伝導率が高くて安価なアルミ釜がピッタリ。そのため、昔はそれほど大きな価格差は出ませんでした。ところがIHになると、発熱の仕組みとアルミ釜との相性が悪く、鉄や炭素系に変えていく必要が生じた。炊飯器の歴史を振り返れば、ここから内釜の高級化、独自化の競争が始まったことになります」(じつはた氏)
なるほど、勉強になります。
「正直、ひとり暮らしならアルミ釜のマイコン炊飯器でも十分だと僕は思っています。余熱を保ちやすいという意味で、同じ価格なら内釜が重いほうを選ぶべきだとだけ覚えておけばいいでしょう。
食べ盛りの子供がふたり以上いるようなファミリー向けなら、やはり高級な炊飯器がベストということになるかもしれませんが......」(じつはた氏)
ファミリーと単身でオススメが変わる? その理由は?
「量販店の店頭を見ればわかることですが、多機能・高機能の超高級炊飯器の多くは5合炊きクラス。ここには各社が最新機能や新タイプの釜を惜しみなく投じ、価格も当然のように上がります。
でも、考えてみてください。ひとり暮らしやふたり暮らしで、4合も5合もご飯を炊くことってそんなにありますか? 1合、2合の炊飯なら、圧力や温度のことを考えれば、サイズの大きな5合炊きより3合炊きの炊飯器で炊くほうが明らかにおいしいですよ。
しかも、単身者やふたり暮らし世帯が主な対象となる3合炊きクラスは、価格もかなり抑えめ。3万円以下で高級内釜付きの機種がより取り見取りです!」(じつはた氏)
■銘柄炊き分けはあまり意味なし!?
というわけで、ここから先は"お米のプロフェッショナル"にご登場いただこう。炊飯事業者の安全・安心基準となる「炊飯HACCP(ハサップ)」、お米のおいしさの基準となる「ごはんランキング」、お米を調理する技術の基準となる「ごはんソムリエ」の認定事業を担う、公益社団法人・日本炊飯協会の三橋昌幸専務理事、よろしくお願いします!
「最近は多数の機種があるので、炊飯器選びは確かにわかりにくいかもしれませんね」
そうなんです。例えば、高級機種のなかには「銘柄炊き分け機能」をうたうものがありますよね。コシヒカリならこのモード、とか......。
「当協会では、銘柄炊き分け効果は認めていません。なぜなら、使用場所の気圧や気温、季節などさまざまな状況があり、日本全国いつでもどこでも同じ条件で炊くことは難しいからです。協会にも200種類上の炊飯レシピがありますが、日々の気温や気候を考え、常にベストな状態になるよう微調整しています。
体感しやすい機能でいえば、圧力をかけることでご飯の粘り気は増します。粘り気のあるご飯が好きな方なら、圧力系の炊飯器を買うほうがいいでしょうね」(三橋氏)
それと、どうしても気になってしまうんですが、「超高級炊飯器で安いお米を炊く」のと、「激安炊飯器で高級米を炊く」のとでは、どちらがおいしいんでしょうか?
「味覚は個人差がありますからねえ......(笑)。高級炊飯器はかなり味を補ってくれると思いますが、もともとおいしいお米の味を超えられるかどうかは疑問ですね。思い込みもありますから......。正直、判断は難しいです」(三橋氏)
ならば、実際に炊いて食べ比べてみるしかないですね!
「炊飯に当たって、いくつか重要な注意点があります。まず、炊飯前に20分は水に浸してほしいですね。これだけでもお米の芯まで水が染みわたりやすくなり、旨味が変わります。無洗米でも、面倒くさがらず少しでいいので、炊飯前に水洗いするだけで、かなり味は変わります。
それと、炊き上がったらすぐにご飯を混ぜること。ちゃんと混ぜたご飯と、90分間混ぜなかったご飯とでは、かなり味の差を実感できるはずです。これらの作業は炊飯器にはできませんから」(三橋氏)
■糖質カット炊飯器の実力やいかに?
さあ、ついに実食テスト! 判定をしてくれるのは、関西の朝のテレビ番組でおなじみ、食レポも好評な山根七星(ななせ)さん。今回は「購入価格3万円以下」という縛りで、3合炊きクラスを中心に5種類の炊飯器具を用意した。
【1】ネオーブ RRS-AT30。量販店の売り場で最安だったマイコン炊飯器(3合炊き、購入価格2610円)。
【2】東芝 RC-6XM。備長炭鍛造かまど釜を採用した標準的なIH炊飯器(3.5合炊き、購入価格1万8500円)。
【3】象印 NP-RL05。"極め炊き"と銘打った圧力IH炊飯器(3合炊き、購入価格2万2730円)。
【4】サンコー LCARBRCK。最近話題の糖質カット炊飯器。普通に炊くだけでご飯の糖質を33%オフにできるのが売り(6合炊き、購入価格2万9800円)。
【5】YAMAZEN 電気圧力鍋YPCA-M250。厳密には炊飯器ではないので、今回は"招待選手"の扱い。時短かつ、ほったらかしでOKの圧力調理器(炊飯容量3.5合、購入価格1万4300円)。
まずは、激安の無洗米の2合炊きで食べ比べ。三橋氏のアドバイスどおり、軽く水洗いし、炊き上がり後のかき混ぜもすべて同じように行なった。
実際に炊いてみると、機種によって炊飯時間が全然違う。圧力鍋は15分、マイコン炊飯器は20分で炊き上がり、続いて45分で糖質カット炊飯器が炊飯完了。IHは55分、圧力IHは60分もかかった。
では、実食!
「う~ん、一番おいしいのは、やっぱり圧力IHです。糖質カット炊飯器はかなりパサパサな感じがしました。意外なことに、2000円のマイコン炊飯器も思ったほど味に差は出ないですね。それと、圧力鍋は圧力IH炊飯器に近い味。忙しい朝や深夜の帰宅時には時短がうれしいかも」
圧力IHが味で一歩リードするも、炊飯時間などを加味すると、ぶっちぎりの勝利とはいかないようだ。
次は、新米の銘柄米。旨味をどこまで引き出せるか!
「もちもちして甘い! これはおいしいお米ですね」
ここで考え込んだ七星さん。その理由は?
「お米がおいしいからか、味の差が縮まった気がします。やっぱり一番は圧力IHですが、IH炊飯器とも差が縮まったし、糖質カット炊飯器のパサパサ感もかなり減りました。圧力鍋もマイコン炊飯器も、当たり前ですがさっきよりおいしいです」
予選終了。まず2機種を落とすなら?
「難しい。ダイエット効果はうれしいですけど、お手入れが面倒な糖質カット炊飯器はごめんなさい......かな? あと、IH炊飯器はマイコンと味の差がわかりにくかったので、価格差を考えるとごめんなさい......です」
というわけで、残ったのは圧力IHと激安マイコン、そして意外にも電気圧力鍋。ただし、今回は「炊飯器」選手権なので、決勝は圧力IHとマイコンの一騎打ちとさせていただきます。
さあ、決勝は"あの疑問"をぶつける対決! 「激安無洗米+圧力IH炊飯器」と「高級銘柄新米+マイコン炊飯器」、どっちがウマい!?
「ああ......、差があまりないです......。だけど、私はひとり暮らしなのでマイコンでいいです。今回はご飯を3回炊いたんですが、準備も入れると圧力IHは合計4時間もかかったんですよ。
もちろん圧力IHには早炊き機能もあるんですが、どうせ高級機を買うならおいしいモードで食べたいし。あっ、家でお母さんに炊いてもらうなら、もちろん圧力IHです(笑)」
というわけで、週プレの結論が出た! 「激安マイコン炊飯器+高級新米」は、「高級圧力IH炊飯器+激安無洗米」に肉薄する。日々時間がない人は、マイコン炊飯器を選んでお米にお金をかけるべし。時間はたっぷりあるという人は圧力IH炊飯器がベストチョイス。もちろん、どちらも3合炊きクラスを選べ!
*価格(税込み)は編集部調べ。また、本文中の「炊き上がり時間」は、