キャッチコピーは「どんなに忙しくても、食べたいメシがある」。小説家・堂場瞬一が初のグルメルポルタージュ『弾丸メシ』を発刊 キャッチコピーは「どんなに忙しくても、食べたいメシがある」。小説家・堂場瞬一が初のグルメルポルタージュ『弾丸メシ』を発刊

スポーツ小説や警察小説のジャンルで活躍中の作家・堂場瞬一(どうば・しゅんいち)氏が、「必ず日帰り」「食事は一時間以内に済ませる」「絶対に残さない」の3つの掟を設定し、"弾丸食いツアー"を敢行した際の模様をつづった『弾丸メシ』(集英社刊)が昨秋刊行され、話題だ。

「どんなに忙しくても、食べたいメシがある」とのキャッチコピーそのままに、堂場氏が一連の旅路にて食したモノとは一体何だったのか? そして、堂場氏が死ぬまでに食べたい、まだ見ぬ料理とは一体...?

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――堂場さんは来年、作家生活20周年を迎えられるそうですね。それだけの長いキャリアのなかで、今回は初のエッセイである、と。

堂場 エッセイではないんです。確かに、本の帯には「初のエッセイ集」とあるんですが、本人はルポルタージュのつもりで書いたんですよ。

――えっ、大変失礼いたしました...! でも、ルポルタージュの単行本も初めてですよね。

堂場 そうですね。今までなぜやらなかったかというと、単純に苦手だからなんです。何も苦手なことをやって恥をさらさなくてもと、あえて避けていました。

今回、出版することになった経緯は、この本のなかにも書いてあるとおりです。2017年の忘年会を神保町の中華屋でしまして、その時、食や料理で何かコラムでもやらないかと編集者から言われたんですよ。「料理なら得意ジャンルでしょう」と言うので、「実際に作るとなれば、キッチンスタジオを用意したりと面倒だよ」と答えたら、「じゃあ、食べるほうで」と。「いや、そんな暇ないよ」「日帰り限定ならいいでしょう」という感じで話が進んだんです。

まぁ、今回引き受けたのはノリですかね。なんとかなるかな、と思って。

――堂場さんの警察小説は固定ファンが多くて、発売されるとたちまち重版がかかると言われています。新聞記者時代の名残なのか、大変に速筆で、1年間に小説を10冊以上も書き下ろしたこともあるとか。「業界一忙しい作家」なだけに、『弾丸メシ』のルールは「必ず日帰り」「食事は1時間以内に済ませる」「絶対に残さない」の3つだったわけですね。

堂場 それも打ち上げの場で、即効で決めたんですよ。「1日ならいいよ」という感じで。『弾丸メシ』というタイトルもその場でぽん、と出てきたし。食については日々、普通に料理はやっていますけど、どうせ食べるなら美味しいものを食べたい、というくらいの意識ですね。

ただし仕事に関しては、食は大事な意味があると思っていて。小説のなかで何をどう食べるかというのは登場人物の性格とか、置かれている状況を描くのに非常にいい装置なんです。なぜか日本の小説は、あまり食を描かないんですけどね。そういう意味では、他の作家さんと比べて、もしかしたらメシには興味が強いのかもしれないですね。

ちなみに最近の海外の警察小説は、みんなピザを食べてるんですよ。それはアメリカだけじゃなく、ポーランドとかも一緒で。そういうのを読むと今、ピザが世界標準のファストフードになったんだな、とわかるんですね。そんなふうに風俗を描いてくれるのが海外小説の面白さでもあります。

――堂場さんの警察小説だとカレーライスとか立ち喰いソバとかが多いですね。忙しいなかで摂る食事といった感じで。

堂場 時代性もありますけれど、都市生活者の食事なんて、そんなものですよね。だから僕の小説を30年後の人々が読むとどう感じるのかな、という興味はありますね。「当時は貧しかったね」と言うのか、それとも「まだゆとりがあったね」と言うのか。我々が今、この時代に、どんなものをどう食っているかは、小説のなかに残しておきたいという想いはあります。

最近、東京らしいメシってなんだろうともよく考えるんですよ。蕎麦なのか、天婦羅なのか、鰻なのか。その結果、今の世のなかで一番東京らしい食というのは牛丼だろうなと思ったりもしたんです。

――『弾丸メシ』では、あえて店の人に「これはどういう料理ですか」と聞くことはほとんどしなかったそうですね。

堂場 むしろ僕がどれだけ戸惑ったか、どれほど美味しいと思ったかを書きたかったので、お店の人からあえて「解答」はもらいませんでした。聞けばすぐわかる話はたくさんあるんです。でも、別に謎解きをしに行ったわけでもないし。今回は自分が食べてどう思ったかを書いていったほうがルポっぽいかなと。

じつはあまり店の常連になりたくないタイプで、そういう心情も反映されています。常連の会話がというものが面倒くさくてできない。あの間合いというか、空気感が苦手で、店側に認知されると急に行かなくなったりしますね。

――その堂場さんの戸惑いが如実に表れた食べ物が「カラクッコ」ですね。

堂場 カラクッコはフィンランドの郷土料理で、玉村豊男さんのエッセイを読んで知って以来、憧れの食べ物だったんです。ワカサギに似た淡水魚の小魚が大量に、ビッシリ並んだ状態で豚の脂に包まれて、さらにパン生地で蒸し焼きにされている。

現地に行ってみたら、名物と聞いていたのに朝市の総菜屋のディスプレーの片隅に、とりあえずおいてあります、という感じでした。最近は、日本だと食べてツライことってなかなかないじゃないですか。何を食べても、どこかしらに美味しさは見つけられる。でもカラクッコは、食べるのが本当にツライ。しかも塩味が薄くて。30年以上も夢想してきて、これかと。あそこに、マヨネーズがあれば。マヨネーズ最強、とあれほど思ったことはなかったね(笑)。味のないワカサギの蒸し焼きが、かっちり冷めているとイメージしてください。

でも今後、フィンランドに行っても食べる必要はないということはインプットされたんです。そこだけは勉強になったかなと。もともとは猟師が保存食として山に持っていく伝統料理だから、今は象徴的に店に置かれているだけなんでしょうね。

――いかにもオトコの好きそうなB級料理も多かったですね。

堂場 B級で揃えようとしたわけではないけれど、結果的に茶色い男メシが多くなってますね。ほぼ1000円以内で、逆に出張費のほうが高いというケースが多々あった。

第1回の福島の円盤餃子は、誰もが好きな国民食というのもあって、すぐに決まったんですよ。群馬県高崎のソースカツ丼も食いにいきました。でも、カツ丼は全国的に見るとすごくバラエティ豊かで。たとえば甲府は、とんかつ定食をそのまま丼に載せているらしい。福島の会津はカツが超デカいとかね。

そんななかで最も価格の高かった一品が東京・吉祥寺のステーキです。地域によっても違うと思いますが、関東地方で育った僕ら世代の人間にとっては牛肉、しかもステーキとなると今でもテンション上がりまくりなんですよ。

愛媛の松山へ鯛めしも食べに行きましたが、別に人生のなかであえて魚は食わなくても大丈夫かなと。肉と野菜だけあれば僕は大丈夫です。今後、一生食えなくてもいいくらい。

――文章もややハードボイルドな感じが印象的でした。

堂場 普段は「俺」という一人称を使わないんだけど、今回はあえてちょっとハードな感じにしたかったので、「俺」にしました。だって魚とか別に食べたくないのに、我慢して食いに行ってるわけだから(笑)。そのやせ我慢している感じを出したくて。

食には、たとえば「つるつる」などというオノマトペの表現もありますけど、少し堅い文章に寄せたかったので、それもあえて使いませんでしたね。

――魚をはじめとして、いくつかの回は堂場さんのノリもやや悪くて、それが見えるところが逆に面白いですね。

堂場 「まずい」と言うのも、勇気がいるんだとわかりましたね。出版社で経費を出してくれているし、店の人もいるわけですし。逆に小説のほうが自由に「まずい」と書ける。小説はいくらでも話を膨らませて、暴走させることもできるし。やっぱりルポ系は難しいですよ。悪口を言えないから。昭和の文豪のようには書けないな。

『弾丸メシ』の巻末では有名な食エッセイストの平松洋子さんとも対談していますが、平松さんはそういうところは上手というか、目線がやさしい。

――改めて、食を描くのはどうでしたか。

堂場 ものを食べないという人はいなくて、一応すべての人が食べるという行為をするわけですよね。でもその一方で、食というのはすごく個人的なもので、100人いれば100人とも舌は違う。そのことは考えながら書いていましたね。自分が感じた「美味しい」と読者の「美味しい」は共有できるのか?とか。

そう考えると、共感してほしいと思って書くと、逆に失敗してしまうんだろうな、と。僕はこうでしたけれど、あとはみなさんご自由に、あくまで個人の感想です、というスタンスでなければ、とは思ったんです。

――死ぬまでに「名前だけは知っているけれど、食べたことのない料理」の数を減らしたい、とも書いてありました。カラクッコや熊本のタンメンのような「太平燕(タイピーエン)」を今回、念願叶って経験しましたよね。それ以外に、堂場さんにとって死ぬまでに食べたい料理は?

堂場 名前は忘れたけれど、アフリカに真っ赤なシチューがあるらしいんです。特に出汁とかも効いてない野菜の煮込みで、トマト味のやや辛いシチューらしくて。煮込みが好きなんですね。

同じような料理でいえば、現地のハンガリーできちんとグヤーシュを食べてみたい。それも20数年前に海外小説で読んで以来、記憶に残っている料理なんです。「胃が疲れている時でも食べられる」と書かれていて。グヤーシュは自分でも作れるし、最近は東京のレストランでも食べられます。でも、ハンガリーの本場のパプリカを使うと味が違うのではないかと思っているので、いつか果たしたいですね。

あとは、アルゼンチンで牛肉を食べたい。カナダ人のマーク・シャツカーという作家が世界を巡って牛肉を食べる『ステーキ!』という本があって、そこではアルゼンチンの牛肉を絶賛しているんです。その人は日本の松阪牛をバカにしているから、信頼できるかどうかはイマイチわからないですけどね。でも、ただ肉を食うためだけにアルゼンチンに行くのもいいかな、と。

反対に、北海道であえてそれほど好きではない魚介類に挑戦して、克服するのもいいかなとも思いますね。うーん......でも死ぬ間際は肉だな。ラムクラウンかな。焼いた骨付きのラムチョップを円形に並べて、王冠のようにして出す料理なんですけどね。食べたことはあるけど、最期の料理は、やっぱりこれかな。

■堂場瞬一(どうば ・ しゅんいち)
1963年生まれ。新聞社勤務のかたわら小説を執筆し、2000年、野球を題材とした『8年』で第13回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。スポーツ小説のほか、警察小説を多く手がける。「ラストライン」シリーズ、「警視庁犯罪被害者支援課」シリーズ、「警視庁追跡捜査係」シリーズなど、次々と人気シリーズを送り出している。ほかにメディア三部作『警察(ルビ:サツ)回りの夏』『蛮政の秋』『社長室の冬』、『宴の前』『ザ・ウォール』『帰還』『動乱の刑事』『凍結捜査』『決断の刻』『インタビューズ』など著書多数。

『弾丸メシ』集英社刊 1,500円(本体)+税