ソニーVISION-S。現時点では、この自動運転EVを販売や製造する計画は一切なく、あくまでも試作車という位置づけだが、世界中の注目を集めた

ソニーが発表した自動運転の電気自動車はテスラに勝てるのか? ソニーの狙いとは? 日本&世界カー・オブ・ザ・イヤー選考委員で自動車ジャーナリストの小沢コージが「CES2020」で徹底チェックした。

■ソニーのEVはテスラを食える!

ビックリだ! 年始に自腹で行った世界最大の米デジタル見本市「CES」でニッポンのソニーが例年にはないトンデモコンセプトをブチ上げ、世界中を震撼(しんかん)させた。

ソイツが初となる自動運転EV「ヴィジョンS」だ。しかも、ソニーの吉田憲一郎社長は「過去10年はモバイルだったが、次はモビリティだ」と大胆宣言! 家電のソニーがEVを造ったことに単純に驚いたが、特に自動車ジャーナリストであるオザワがシビれたのはリアリティと自動運転能力の高さである。

まずビックリなのはエクステリアのレベル。素材はわからないが軽そうな鉄合金か樹脂で覆われ、プレス精度は高く、そのまま販売してもおかしくないほどのレベルだ。

全長4895mm×全幅1900mm×全高1450mmで、サイズ的にはテスラ・モデルSのガチンコ対抗なのがわかる! だが、聞けばソニーの社内デザインで、正直、カーデザインとしてはおとなしめだし、インパクト不足。

イタリアのマセラティをモダン化したようなテスラのモデルSや、スーパーカー顔負けのファルコンウィングドアを持つテスラのモデルXほどの驚きはなかった。

車台はボッシュ、マグナ・インターナショナル、コンチネンタル、NVIDIAなど多数の企業と共同開発した

一方、ディテールは見れば見るほど家電メーカーのソニーらしい。ヘッドライトは造作の細かい片側6眼式LEDで周りのLEDチューブは横一線でグリルにつながっている。

ルーフは半透明素材で開放感もスゴい。サイドミラーはソニーらしくデジタルアウターミラー。従来のミラーの代わりにデジカメを使うモノで、すでにレクサスESが実用化済みだが見事に欠点を補足している。

採用するイメージセンサーIMX390は画像をクローズアップしてもクオリティが落ちない高画素タイプだし、信号機やテールランプ光源でもちらつかないLEDフリッカー抑制機能付き。バック画像を映す車内モニターもレクサスESとは違い、最初からインテリアと一体化しているのだ。

何よりヴィジョンSの白眉はIMX390を含めソニー独自の33個のセンサーを使い、AI、クラウド技術と合わせて人や物体を検知してレベル2の運転支援を可能にしたこと。具体的には周囲360度センシングを可能にする光学カメラを13個、レーダーおよび超音波センサーを17個、ソリッドステート型ライダーを前左右に3個も搭載する。

特にライダー、別名レーザースキャナーは今後自動運転がレベル3以上に進化する過程で絶対に必要な重要センサーで、既存のミリ波レーダーでは不可能な精度で3D空間を正確に測定できる。

ライダーの原価はヘタするとひとつ数十万円ともいわれ、量産化と価格低下が自動運転進化のカギともいわれているが、ヴィジョンSはそれを3つも搭載するのだ。当然、ソニーのオリジナル開発であり、そのほか距離を正確に測れるToFセンサーも搭載されている。

このあたりから真の狙いが透けて見える。実はソニーは自動車製造に乗り出したいわけではない。ヴィジョンSは新世代自動車センサーのショーケースであり、自動車メーカーに対する売り込みとオザワはにらむ。

現在、ソニーはスマホ用画像センサーで世界トップのシェア5割! まさにセンサーメーカーであり、得意のビジネスを拡大拡充させるつもりなのだ。

それは車内エンタテイメント機能にもうかがえ、ヴィジョンSは各シートに個別に内蔵されたスピーカーにより、独自の「360リアリティ・オーディオ」を実現。オザワも体験してみたが、どのシートでも目の前に演奏者が飛び出てきたような音響体験だった。

後部座席には専用のスクリーンが設置されている。スピーカーは各シートにも内蔵されているダッシュボードに配置された巨大デジタル画面。音響と映像で車内エンターテインメントを追求する

インパネはテスラもビックリの超横長3連モニターがズラリと並び、タッチ操作や音声認識ですべての機能を使うことができる。ココもソニーのガチ度が垣間見える。というのも、プラットフォームにはブラックベリーのQNXが採用されているが、コイツは次世代車載コンピューターOSの有力候補なのだ。

最後にパワースペックだが、ヴィジョンSは前後に200kW(271PS)のモーターを1個ずつ搭載し、時速100キロ到達は4.8秒だ。ちなみに、ほぼ同車重であるテスラ・モデルSは2.7秒を叩き出し、数字的には歯が立たない。

だが、そんな小ざかしい数字はどうでもいい。パワースペックなんてモンはモーターと電池量でなんとかなるし、ココで注目すべき最大のキモはセンシング技術だ。

現状、モデルSは1レーダー、8カメラ、12超音波センサー搭載にすぎず、はっきり言ってヴィジョンSの敵じゃない。自動運転ロボットカーとしての潜在力は明らかにテスラよりも上だ。さらにその強力ブランド力を踏まえて考えると、ソニー製のEVはテスラを十分に食えるレベルだ。

今年、公道実験するって話だし、オザワに味見させてほしい。で、ヴィジョンSを思い切って売っちゃおう!

日本&世界カー・オブ・ザ・イヤー選考委員の小沢コージ