S60 T5 インスクリプション 昨年11月に上陸した3代目S60は、ロングホイールベース化でいっそう伸びやかなプロポーションを獲得。価格614万円

ぶっちゃけ、お安くない価格のボルボだが、世界的に販売が好調だ。さらに、今年は電動モデルを続々投入するという。人気の秘密と今後の展開に気鋭のジャーナリスト・竹花寿実(たけはな・としみ)が迫った!

* * *

■なぜ今、ボルボは絶好調なのか?

昨年の日本の輸入車マーケットは、30万台弱と前年から1万台ほど減少した。全体の8割近くを占めるドイツ系の上位5ブランドが軒並み前年割れしたことが大きな理由だが、これに続く6位のボルボは、前年を4.4%も上回る1万8583台を記録。2015年から5年連続で前年を上回るなど絶好調だ。

世界市場でもボルボの好調ぶりは特筆に値する。昨年の年間販売台数は、初めて60万台超えを果たした前年より9.8%増となる70万5452台となり、6年連続で過去最高記録を更新するとともに、93年の歴史で初の70万台超えを達成したのである。

快進撃の理由は、SUVラインナップの充実が最も大きい。現在はラージクラスのXC90とミドルクラスのXC60、そしてコンパクトクラスのXC40の3モデルが用意されているが、そのどれもがプロダクトとして魅力にあふれているのだ。

ボルボは17年にXC60、18年にはXC40が日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞し、輸入車史上初の2年連続受賞に輝いた。海外でも18年にXC40がヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーを、XC60がワールド・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞。世界のカー・オブ・ザ・イヤーを総なめにしたのである。

これほどの躍進の原点には、フォードとの関係解消がある。かつてアストン・マーティンとジャガー、ランドローバーと共にフォードのプレミアム・オートモーティブ・グループに属していたボルボは、10年に中国の浙江吉利控股集団(ジーリー・ホールディング・グループ)の完全子会社となった。

これを機に、ボルボはプラットフォームやパワートレインを完全自社開発するようになる。つまり、それまでの「フォードやマツダとのコンポーネントの共用」という足かせが取れたことで、クルマ造りにボルボの独自性を強く打ち出せるようになったのだ。

まず変化したのはデザインだ。新たに開発したSPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)とCMA(コンパクト・モジュラー・アーキテクチャー)と呼ばれるプラットフォームは、搭載エンジンを4気筒以下に絞ることでデザインの自由度が拡大。

スカンディナビアのモダンなライフスタイルをイメージさせるクリーンで上質なデザインと、高効率なパッケージングの両立に成功した。 

また、実際に手に触れるドアノブや各種スイッチ類、小物入れのリッド(ふた)などの操作フィールまでしっかり造り込まれ、プレミアムカーと呼ぶにふさわしいクオリティを手に入れたのである。

XC40リチャージ ボルボ初のEVであるXC40リチャージの日本導入は現時点では未定だが、ぜひ期待したいところだ

電動化への積極的な取り組みも注目を集めている。17年には19年以降に発売するすべてのモデルにEVやプラグインハイブリッド車、または48Vのオンボードネットワークを使用したマイルドハイブリッド車をラインナップすると明らかにし、世界を驚かせた。

実際に昨年10月にはXC40に合計413PSを発揮する2基の電気モーターを搭載し、400km以上の航続距離を備えたXC40リチャージを発表。今年後半にはヨーロッパでデリバリー開始となる。

XC90 D5 AWD インスクリプション 内燃エンジンの進化も継続。最新ディーゼル搭載のXC90は、注目すべき輸入SUVだ。価格は979万円

昨年春には、すでにプラグインハイブリッド車もラインナップするXC90に高性能な2リットル直4ディーゼルターボを搭載した「D5」が日本に上陸したが、これは逆行ではなく、内燃エンジンの高効率化や環境性能向上も行なうことで、ビジネスを安定させたまま電動化へスムーズに移行できるよう、市場動向を注視しながらしっかり対応している。

それだけにコンベンショナルなガソリン車やディーゼル車の走りも、実に完成度が高い。昨秋に新型S60の2リットル直4ガソリンターボを搭載したT5インスクリプションに試乗したのだが、254PSと350Nmを発揮する直4ターボは、力不足を感じることはまったくなく、勾配のきつい箱根のワインディングロードでも、なかなかスポーティで軽快な走りが楽しめた。

また、先代と同様にSPAをベースにしながら、100mm長い2870mmのホイールベースを採用した新型は、FRと見まごう伸びやかなシルエットと、ドイツブランドのプレミアムDセグメント・セダンに肩を並べる上質な乗り心地を獲得している。

V60 T6 ツインエンジン AWD インスクリプション V60のプラグインハイブリッド車は、後輪を電気モーターで駆動する電動4WDだ。価格は779万円

せっかくなのでステーションワゴン版のV60 T5インスクリプションにも都内で乗ってみたが、S60より若干乗り心地がソフトで、やはり素晴らしい出来映えだった。ちなみにS60とV60にもプラグインハイブリッド車があり、日本市場にも導入されている。

ボルボといえば、世界で初めて3点式シートベルトを実用化したほか、世界初のサイドエアバッグを開発するなど、安全性の点でも先進的なメーカーとして知られている。

日本市場においても、国産メーカーに先駆けて完全停止する自動ブレーキを国土交通省と交渉して認可を得て、初代XC60に搭載している。

最新モデルには、この自動ブレーキをはじめ、最先端の安全機能と運転支援システムを含む「インテリセーフ」と呼ばれる先進のシステムが搭載されている。

野生のヘラジカとの衝突を避けることを目的に、夜間にも作動する大型動物検知機能まで備わるのは、さすがはスカンディナビア半島生まれのクルマといったところだ。

さらに、ボルボ車に乗車中の事故における死者および重傷者をゼロとすることを目指しているボルボは、21年モデル以降の全車の最高速度を180キロに制限すると発表した。

このようなボルボのクルマ造りとアイデアはからは、未来のモビリティを牽引(けんいん)するという強い信念が感じられる。近年のボルボの快進撃の裏には、先見性のある感度の高い消費者が、彼らに共感していることも確実にある。

●竹花寿実(たけはな・としみ) 
1973年生まれ。東京造形大学卒業。自動車雑誌のスタッフなどを経てドイツへ。ドイツ語を駆使して、現地で自動車ジャーナリストとして活躍。輸入車のスペシャリスト