マドリードから飛行機でピューンと、今回のスペイン旅の大本命、サン・セバスチャンにやってきましたー!
サン・セバスチャンは北スペインのバスク地方に位置し、美食の街であることや国際映画祭などで世界的に有名な街。
バスク地方とはビスケー湾に面する、スペイン北部からフランス南部まで国境をまたがったエリア。
バスクの人たちはカタルーニャのように、地域のアイデンティティを大切にしていて、ここはスペインであるというよりも「バスクである」という地元意識が強い。
そして独特な言語であるバスク語(エウスカラ)を持つ。空港からタクシーに乗るなり、「グラシアス」と挨拶した私に運転手さんはこう言った。
「おまえさん、どこからやってきたんだい? 日本か。そうか、ここはバスクだ。『アリガトウ』は『エスケリカスコ』と言え。これは『エウスカラ・ランゲージ(バスク語)』だ!」
ちょっと前のめりで勢いのある運転手さんのバスク・トークが始まった。
「ここは"バスクカントリー"で、この道のこっち側は"スペインステート"、反対側は"フレンチステート"だ。この国はそのふたつで成り立っている。だがな、俺らはスペイン人でもフランス人でもなく、バスク人だ。そして俺たちはそれをこっちの言葉で『エウスカルドゥナ』と言うんだ! わかったか?」
バスクのことを"カントリー"、スペイン側やフランス側を"ステート"と表現するあたり、認識がもうそれなんだなと思った。
そういえば、カタルーニャ出身の旅友アナにも、私が何かしら「スペインではそうなんだね」などと言うと、「いや、スペインではなくカタルーニャだから」とよく訂正された。彼らにとって、そこにプライドを持っているのは普通のようだ。
私がタクシーで向かっているサン・セバスチャンの街の名もまた、
「君が向かう街はバスク語では『ドノスティア』だ。スペイン語では『サン・セバスチャン』って呼ぶけどね。ふたつの名前を持つけれど、ひとつの街なんだよ」
正直ややこしいが、この土地の人にとってはこだわりの部分。言葉の違いに関しては方言とはまた違うようで、彼らにとっての"自国の言葉"なのだ。
そして興味深いのが、バスク語は系統不明の言語だということ。ヨーロッパのどの言語グループにも属さない起源が謎の言語で、「言語の七不思議」や「世界一翻訳しにくい言語」と言われている。
世界でも最も難しい言語のひとつとされ、悪魔がバスクの娘を誘惑するためにバスク語を習ったけれど、7年もバスクにいて「はい」と「いいえ」しか覚えなかったというジョークがあるほど。
ほかにも、中世フランスにはバスク語を勉強するという刑罰があったとか、バスク語は宇宙人がつくった言語だという論文もあるとか。
そんな難しい言葉を操る彼らだが、スペイン語やフランス語も話すバイリンガルであり、さらにこの運転手さんは英語でそれを私に説明しているのだから、トリリンガルなわけで、もう通訳の仕事とかもできるよね。言語習得能力、高いなって思う。
「元々はバスク人のところにフランスとスペインがやってきたんだよ。スペインには3つのナショナルがある。スペイン人、カタルーニャ人、バスク人だ。
そしてバスクは7つのステートからなる"国"なんだよ。スペインは認めてないけどな。地図にもヨーロッパの国として、スペインやフランスは描いてあるけど、バスクはない。けどここは......バスクはバスクなんだよ、わかるかい?」
松岡修造くらいの熱さ(圧さ?)で色々教えてもらった。ところで、私はバスク人の存在を知るのは初めてだと思っていたけれど、あのフランシスコ ・ ザビエルや、チェ・ゲバラもバスク人なんだって! 今回は初めて実際にバスク人と会ってお話しができて光栄です!
そして最後に運転手さんはこう言った。
「アリガト、サヨナラ、えっとハローは『カイショ』って言うんだよ!」
「カイショ......」
いや、その挨拶、教えるの最初(サイショ)でしょ(笑)!
別れ際になってハローを教えてくれたお茶目な運転手さん、エスケリカスコ!
●旅人マリーシャ(旅人まりーしゃ)
平川真梨子。旅のコラムニスト。バックパッカー歴12年、125ヵ国訪問。地球5周分くらいの旅。コラム連載は5年間半を超える。Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】
女子2人組ユニット「地球ワクワク探検隊」としても活動。Youtube配信や国内外各地のPR活動、旅先のお酒やお話を提供するイベント「旅するスナック」を月2回、東京・虎ノ門で開催。
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