新型グランエース(左)と並ぶと、トヨタが誇る最高級ミニバン・アルファード(右)が超小さく見える。グランエース、デカッ!

昨年の「東京モーターショー」で初披露され話題となったグランエースが販売された。650万円となかなかのお値段ながら販売好調なのだという。それにしても、この巨大なクルマ、誰のために発売したのか? 自動車ジャーナリストの小沢コージがレポートする。

■送迎専用!? 巨大高級車登場!

なんじゃこりゃ! 世界でもまれなミニバン大国ニッポンに、さらなるトンデモ超ド級ミニバンが生まれたぜ! その名もグランエース。驚きはそのサイズ&車重で、全長5.3m、全幅1.97mで2.7t超。

ド派手なメタリック調グリルに、国産乗用ミニバンでは初の4列シート仕様も備えているという。ウワサじゃ「上級国民専用車」って話も! トヨタは何を狙ってんだ? てなわけで、試乗会場に特攻した!

ムムム、デカいぞ! 実車は思っていた以上にデカい! 単純にトヨタが世界に誇る超人気ミニバン、アルファード&ヴェルファイアに毛が生えた程度を想定していたのだが、並べると完全にひと回り、いいや、それ以上のサイズ感である。シルエットも角張っていてバスっぽく見える!

だが、それでいて不思議なのは内装のゴージャスさと床の高さだ。ネーミング的には一瞬、商用車ハイエースの延長にも思えるのだが、インパネはあれほどビジネスライクではなく、本革ステアリングにウッド風パネル。高級感はアルヴェルにも負けていない。

走り始めてもビックリだ。乗り心地が超いいだけでなく、エンジン振動が入ってこない。というのもグランエースは、去年ひと足先にアジアで発表された新型300系ハイエースとプラットフォームを同じくする。

これは日本を走る既存の200系ハイエースとは中身が全然違う。200系はうるさくクソ熱いエンジンの上にドライバーが乗り、車内スペースを稼ぐフルキャブタイプだが、300系はうるさいエンジンをフロントノーズに押し込み、リアを駆動するセミキャブタイプ。分厚いフロア構造でボディ剛性も高く、いわばクラウンの骨格の上に、ミニバンキャビンを載せたような極楽&静音仕様なのである!

トヨタ「グランエース」。8人乗りが620万円、6人乗りが650万円。昨年12月16日に販売されると、大人気に

オマケに300系ハイエースは積載重量がかさむため、板バネサスを使うが、グランエースは定員を最大8人に絞っているため、しなやかなコイルバネが使える。もちろんアルファードもスゴいが、ぶっちゃけ、乗り心地はほぼ同等レベルで、重厚感では上回るほどだ。

しかし、不思議なのはグランエースの販売価格だ。かつてないサイズで、スタート価格は620万円とアルヴェルはもちろん日本を代表する高級セダン、クラウンより上! 販売目標はわずか年間600台で月平均50台。

チーフエンジニアに真意を聞くと、「本当にVIPの送迎車として造りました。今、日本に競合車はないと思っています。強いて挙げればメルセデス・ベンツさんのVクラスかなと」。

グランエースはまさに狙って造られた「上級国民専用車」といってもいいだろう。オザワから見ても政治家や芸能人の間で人気が大爆発するのは間違いない。

需要のほとんどが社用で、全長が5m超で全幅が2mあることを考えると、この狭いニッポンだと、プライベート需要は多くないはずだ。だとすると、グランエースの真のターゲットはどこなのか。その答えはグローバル富裕層なのである。

すでに台湾やタイで先行発売しているところからも明白で、面白いのは車内照明をアルヴェルと違って天井ではなく、ベルトライン付近に設けた。理由は外部から顔が見えなくなること。日本のVIPの要望以上に、イスラム圏のお客を想定した機能らしい。

要するに、アジアの上級国民を想定した前代未聞の送迎専用高級ミニバン。それがグランエースの真の姿なのだ!

■至れり尽くせりの極上シート!

世界のVIPを相手にするクルマとはいえ、国内の年間販売600台は少なすぎ。すでに発売1ヵ月で軽く950台を受注しているからだ。オザワの見立てでは年内に3000台は売れるはず!

何しろニッポンの高級車マーケットといえば完全にミニバンだ。かつてはトヨタのクラウンや日産のシーマが君臨していたが、今や同じトヨタのアルファード&ヴェルファイアの独壇場である。

かつて月3000台程度だったアルファードも、オザワが"ハガネの腹筋"と呼ぶ銀色シックスパックのド派手グリルの3代目が15年にデビューしてからは大化け。兄弟車ヴェルファイアと合わせて国内だけで月9000台前後をコンスタントに売っている。ちなみにクラウンは月平均3000台、ここ数ヵ月は月2000台前後を低迷中だ。

今の高級車のトレンドは、飛行機のビジネスクラス並みのゆったりシートと広々とした室内がマスト。この極上空間を味わった世界のVIPは、オナニーを覚えたサルのごとく、超狭いセダンなんかには戻れない。

事実、アルファードは中国だと、あのロールス・ロイスと使い分ける人も多い。スライドドアの高級ミニバンは、今やロールス・ロイスと肩を並べる存在だ。

運転席も助手席も電動調節&快適温熱シートが標準装備。コックピットの質感も高い6人乗りも、8人乗りも2列目は超豪華&超デカい「エグゼクティブパワーシート」採用

ぶっちゃけ、世界にはメルセデス・ベンツのVクラスを筆頭に、スライドドアの送迎車はあるが、グランエースほど快適なクルマに乗ったことがない。なぜなら世界には高級車といえばセダンという思い込みがあり、スライドドア車に上質さは盛り込めない。そこが心理的な壁となる。だからアルファードやヴェルファイア、そしてグランエースみたいなクルマは造れないのだ。

特にグランエースが圧倒的にスゴいのは、シートクオリティである。グランエースには620万円の8人乗り4列仕様「G」と、650万円の6人乗り3列仕様「プレミアム」があるが、まず面白いのはGの使い勝手だ。

グランエースGならドライバーを除いて、大人7人が乗車できる。しかも2列目は価格700万円台のアルファードの最上級グレードに使われるエグゼクティブパワーシートが使われ、これは新幹線のグランクラスと同じ骨格を使った超極楽なボックスシートだ。

そして3列目は通常のミニバン、例えばノア・ヴォクシーの2列目レベルのシートが備わり、4列目も通常ミニバンの3列目レベルのシートが備わる。同時に全席本革張りでクッション性がよいだけでなく、全4列に身長170㎝台の男性が座れるレッグスペースがある。

17インチホイール装着車だと、最小回転半径5.6mと意外と取り回しがよかったりする気になるボディは全長5300㎜×全幅1970㎜×全高1990㎜という超ヘビー級サイズ

さらにインパクトがあるのが6人乗りプレミアムだ。実は今までのアルファードのエグゼクティブラウンジには決定的な問題があった。当たり前だが、最上級シートが2座しかない。聞けばVIPの送迎は3、4人のケースが多く、そのときに2列目と3列目で格差が生じると微妙にやっかいだった。

要は飲みの席での上座下座のような問題で、「俺はアイツより格下に見られているのか!」的な心理的負担を乗客に強いることになっていた。だが、グランエースなら4人がVIPシートに座れてしまう。

しかも、プレミアムは大人4人が後ろにゆったり乗った状態でも意外にリアラゲッジが広い。オザワも試したが大容量サムソナイトを4つも搭載することができた。

これなら駅からホテル程度の短い距離ではなく、例えば東京-大阪間をVIP4人、ゆったり高速で運ぶこともできる。今までにない需要が獲得できるはずだ。

例えば成田から長野のスキー場まで行きたいリッチな外国人客がいたとする。今までだったら乗り換えが多少面倒でも新幹線を使ったかもしれないが、こんなにゆったり4人で移動できるならグランエースで移動しようと思う客も増えるに違いない。そういう意味でも観光立国ニッポンにふさわしい新しい高級送迎車の誕生なのである。

世界で有名なトヨタ車といえば、カローラ、プリウスだが、真に世界で存在感があるのはランドクルーザーと、送迎用ハイエースだ。用途が特殊な上、事実上ライバル不在の独占的ワールドカーだからだ。グランエースはこの2台に続く、トヨタのもうひとつの世界的な大黒柱に育つ可能性がある。

でも、オザワは言いたい。上級国民だけでなく、アルヴェルやハイエース好きも、グランエースに試乗すべし!