各チェーンの天津飯。(左上から時計まわりに)大阪王将、珉珉、ぎょうざの満洲、餃子の王将 各チェーンの天津飯。(左上から時計まわりに)大阪王将、珉珉、ぎょうざの満洲、餃子の王将

メディアで取り上げられ、静かなブームになっている天津飯。実は味の違いだけでなく、人気も東西でかなり違っていた。有名チェーンの天津飯を見ながら、その謎を研究していこう!

■関西のソウルフードの謎に迫る!

テレビなどのメディアで大きく特集されるなど、にわかに「天津飯」ブームが起こっている。町中華探検家、下関マグロ氏はこう語る。

「もともと『天津飯』は関西ではチャーハン、ラーメンに並ぶ中華の定番メニュー。1番人気という中華料理店も多く、関西人のソウルフードと言っても過言ではありません。

一方、関東ではそこまで注文されるメニューではありません。知ってはいるけど一度も食べたことがない人もいるレベルで、このようにメディアで特集されて初めて興味を持つ人も多く、局地的なブームが起こっていると考えられます」

確かに週プレが関東・関西出身男性各100名に行なった「天津飯が好きか」のアンケート結果を見ても、好きと答えた人は関西では約50%いるのに対して、関東では20%程度。大きな差がある。

なぜ関西人のほうがよく食べるのか、『中国の食文化研究 天津編』の著者で、辻学園調理・製菓専門学校の横田文良氏が解説してくれた。

「関西で天津飯がよく食べられる理由は、その発祥までさかのぼります。天津飯は実は中国ではなく、日本発祥。戦後、東京では日本人店主の『来々軒』(八重洲)という店で、大阪では中国人店主の『大正軒』(馬場町)という店で偶然同じ時期に別々に誕生しました(現在はともに閉店)。その際、大阪では店主の工夫により、かなり広まったと考えられます」

どんな工夫が?

「当時はカニも卵も貴重なものだったため、まともに作った天津飯は高くつき、すでに天丼などの丼文化が発展していた関東ではそこまで人気メニューとなりませんでした。

一方、大阪ではカニの代わりに市内の川で捕れた河津エビを使用したり、店主が海外から卵を安価に手に入れるルートを持っていたり、安くおいしく作る工夫をしました。そのかいもあって庶民にも手が届く目新しい料理として一躍人気商品になり、現在でも広く愛されています」

さらに、関東と関西の天津飯は味に決定的な違いがあった。アンケートを見てみると。 

「関東の天津飯は酸っぱすぎて食べられない」(大阪・33歳)

「関東で天津飯を頼んだら赤くて驚いた」(京都・22歳)

というように、主に関西人からの関東の天津飯に対する意見が多く見られた。

「関東の天津飯は、酢にケチャップを加えた甘酢や、酢に醤油を加えた酸っぱい餡あんが主流ですが、関西では塩か醤油をベースにしただしのうま味が感じられる餡が主流です」(横田氏)

そもそもこの餡の違いも発祥のときからだという。

「東京の『来々軒』では、客から『早く食べられるものを作って』と言われ、卵の上に北京料理の酢豚の餡をかけました。

一方、大阪の『大正軒』では、先ほどの話のようにエビなどを具材に使っていたため、その素材のうま味を引き出すように塩や醤油で薄味の餡が作られました」(横田氏)

発祥の時点で味が異なっている東西の天津飯。では現在、中華料理の全国チェーンではどのような味で提供されているのか? 調べてみると、天津飯に対する関西人の強いこだわりが見えてきた!

■関西発祥のチェーンでは醤油餡・塩餡メイン

まず、関西発祥の「大阪王将」では東西共通で、関西で主流の醤油餡に統一されている。

「地域特性に配慮して餡を考えているのではなく、『ふわとろ天津飯』の全店導入をきっかけにあくまで卵の食感と風味を引き立てる餡という視点で開発し、あっさりとした醤油ベースにしています」(広報担当者)

やはり、醤油餡が選ばれるのには素材を生かすという理由があるようだ。

大阪王将。全国同じ醤油餡で提供。具は入れず、卵とご飯のみとこだわりが感じられる一品 大阪王将。全国同じ醤油餡で提供。具は入れず、卵とご飯のみとこだわりが感じられる一品

次に、関西発祥で本社を大阪に置く「珉珉(みんみん)」を見ると、関西は塩餡、関東では店舗によって醤油餡、塩餡、甘酢餡と異なる味で提供している。

「東西の好みを調査の上、餡を選定していますが、前提として、『日本人の口に合う中華料理』にこだわり、天津飯も優しい味つけを重視し、当初関東では醤油餡で提供していました。

現在、のれん分けなども増え、全店の味つけを統一しておりませんが、関東でも塩餡や甘酢餡を取り扱っている店舗もあります」(広報担当者)

珉珉。写真は塩ベースの関西の天津飯。関東では醤油、塩、甘酢など店舗によって味つけは異なっている 珉珉。写真は塩ベースの関西の天津飯。関東では醤油、塩、甘酢など店舗によって味つけは異なっている

餡の味はある程度店舗に任せているということだが、それでも関西では塩餡に統一されている。前出の下関氏はこう語る。

「関西では人気メニューな分、だいたいの中華料理店で『天津飯セット』としてのメニュー展開があり、餃子やシュウマイ、ラーメンと一緒に天津飯を食べ合わせる人が多い。

そのため、ほかの料理にも合うような強すぎない味にこだわるのではないでしょうか。珉珉さんも餃子がメインのお店なだけあり、塩餡の天津飯は餃子とよく合います」

同じく関西発祥の「餃子の王将」でも、関西では醤油餡一択だが、関東では甘酢、塩、醤油餡が選べる。餡の数を東西で分けている理由について、広報担当者はこう語る。

「関西ではメニュー開発時から現在まで関西で一般的な醤油餡です。1978年の東京進出時には、関東で一般的であった甘酢餡のみを提供していましたが、関西から関東へ行く方のニーズに合わせて、少なくとも10年前から京風ダレという名前の醤油餡、塩餡も提供し、現在3種から選べるように対応しています」

と、関東でも天津飯好きの関西人への配慮がなされている。これに対して、前出の下関氏からはこんな意見が。

「関東の方は店の味が気に入らなくても意見をあまり言いませんが、関西の方は店に対しても愛情を持って比較的ハッキリと意見を言う気質がある印象。天津飯の餡の味も同じで、関西のツッコミ文化によって、関西人になじむ味が全国的に食べられるようになったのかもしれません」

餃子の王将。関西では京風ダレと称される醤油餡一択だが、関東では醤油、甘酢、塩の3つからセレクトできる。写真は関東・関西(醤油) 餃子の王将。関西では京風ダレと称される醤油餡一択だが、関東では醤油、甘酢、塩の3つからセレクトできる。写真は関東・関西(醤油) 餃子の王将。関東(塩) 餃子の王将。関東(塩) 餃子の王将。関東(甘酢) 餃子の王将。関東(甘酢)

■関東発祥チェーンでも餡の味は関西人の舌に配慮

では関東発祥のチェーンではどうか。埼玉発の「ぎょうざの満洲」では、関東で甘酢餡、関西で醤油餡と分けている。

「関東ではメニュー開発時から甘酢餡でしたが、関西出店時に甘酢が食べられない方も多いという地域性を重視して、醤油だしベースの旨味餡を開発しました」(広報担当者)

ぎょうざの満洲。関東発祥のチェーンで、関西進出の際に醤油餡を考案。関東では一年のうち1ヵ月だけの限定メニュー。写真は関西(醤油) ぎょうざの満洲。関東発祥のチェーンで、関西進出の際に醤油餡を考案。関東では一年のうち1ヵ月だけの限定メニュー。写真は関西(醤油) ぎょうざの満洲。関東(甘酢) ぎょうざの満洲。関東(甘酢)

ただ、ぎょうざの満洲の天津飯はなぜか関東では一年に1ヵ月しか販売されていない限定メニュー。その理由は?

「関東ではほかのメニューほどの出数はないので、フェアメニューとしており、残念ながら今年の提供はもう終了しています。関西ではやはり人気メニューなので通年で提供しています」(広報担当者)

やはり東西での天津飯人気の差はあるようだ。

最後は東京発祥の「バーミヤン」の天津飯。

「本格的な中華料理を意識して開発したので、甘酢などの家庭的な味つけではなく、オイスターソースを用いた味つけの餡を全店共通で提供しています」(広報担当者)

バーミヤン。全国共通でオイスターソースベースの餡で提供。関西ではオイスターソース味もメジャー バーミヤン。全国共通でオイスターソースベースの餡で提供。関西ではオイスターソース味もメジャー

これも関西人の好みの影響だと前出の横田氏は語る。

「1980年頃、大阪で香港料理ブームが起きました。その際に中華料理店で香港料理の定番調味料オイスターソースが広く使われるようになったことで、オイスターソース餡の天津飯が広まり、現在も大阪を中心に多く食べられています」

このように、チェーンによっても多様で面白い天津飯の世界。自分好みの味を見つけるのも楽しみ方のひとつかも。