『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は散歩好きの彼女が、六本木の階段について語る。
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この連載でもよく出てきますが、私は街の中の階段が好きです。
階段は坂よりも小さな起伏に造られていることが多く、細かい地形の違いを楽しめるのが魅力のひとつ。また、自然の地形を歩きやすくしたものなので、"自然の中の人工物"になっているところも私の好みです。
その人工物が、自然によって時間の経過とともに姿を変えたり、歩きにくくなっていて動きが支配されるところも楽しいです。
芋洗坂(いもあらいざか)や欅坂(けやきざか)などが有名な六本木も、多くの階段が存在します。昔、この丘の上にあった6本の松の木が、品川あたりからでも見えたことからこの地名がついたという説があるくらい、高台の土地です。さらに、その周辺はくぼ地や谷が密集したすり鉢地形になっています。
六本木には、大都会、インターナショナル、ちょっとアダルトといったイメージがあると思いますが、少し裏に入ると都会にいることを忘れるような古い路地を発見することができます。そんな路地の背後に高層ビル群が立つ景色は、私が思う六本木らしい光景です。
そんなこの街らしい特徴を持っていたのが、かつて「龍土町」と呼ばれていた六本木7丁目付近にあった階段。この階段の手前には、桜の木が踏切の遮断機のように傾いて伸びていて、根元に近い部分はコンクリートの塀で支えられていました。
桜の季節になると、立ち止まって写真を取る人も多く、ちょっとした名物になっていました。しかし、数年前に再開発のため伐採され、この階段もなくなってしまったのは残念です。
もうひとつ、この周辺でお気に入りなのは、元麻布3丁目の階段。足で踏む部分はコンクリートで平らにならされているんですが、「蹴り込み」と呼ばれる地面に対して垂直の面は、大きめの丸石を積んだ形がそのまま見えるようになっています。
思うに、もともとは丸石だけでできた階段だったものを、歩きやすいように足を乗せる部分だけコンクリートで舗装したんじゃないかなと予想します。東京には不思議な形の階段がたくさんありますが、その経緯を考えるのも楽しみ方のひとつです。
また、六本木らしさが詰まっているのが、「閻魔(えんま)坂」周辺に抜ける階段たち。六本木交差点の東側は起伏が激しく、六本木通りと外苑東通りの裏の飲食店街につながる長い階段路地がいくつかあります。
その中で一番奥にある、谷底の墓地につながっている階段がオススメです。非常に急で、なぜか緑色に塗られている独特な見た目をしており、上がった所にはバーやクラブが密集してます。
以前、早朝にこの階段を通ったことがありますが、お店の方々はまだ"昨日"を生きていました。繁華街とお墓をつなぐ、まるで"生と死のはざま"をゆく階段です。
六本木ヒルズの裏手にある麻布十番商店街のほうには、なぜか木製の階段もありました。お店か公園の入り口かなと思いましたが、そうでもないようです。単なる街の階段がこんなふうに木で造られている場所は、ほかでは見たことがありません。
このような珍しい階段にたくさん出会えるのが、六本木です。
●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。現在、モデルとして活動するほか、J-WAVE『TRUME TIME AND TIDE』(毎週土曜21時~)にレギュラー出演中。市川紗椰初の鉄道本『鉄道について話した。』好評発売中! 先日始めたインスタグラムに階段の写真を載せているが、あまりの反応の薄さに、相性の悪さを痛感する。Official Instagram【@sayaichikawa.official】