「新型コロナウイルス対策による自粛はいつまで?」「感染を診断するPCR検査を増やすことはできないの?」といった報道が連日のようにされているが、ちょっと待て!「そもそもウイルスって何? 細菌とどう違うの?」といった問いにすぐに答えられない人は多いはず。
そこで感染症専門医で「KARADA内科クリニック」の佐藤昭裕(あきひろ)院長に"ウイルスに関する基礎知識"を教えてもらった。敵(新型コロナ)を知れば、感染予防をより強固にできるはずだ!
■治療薬があるウイルス感染症は数種類のみ!
【1】ウイルスと細菌はどう違うの?
「まず、大きさが違います。細菌は1~5μm(マイクロメートル)程度。顕微鏡で見える大きさです。ウイルスは0.02~0.1μm程度。ざっくり言うと、ウイルスは細菌の10分の1~50分の1くらいの大きさです」
ちなみに、一般的なマスクの網目の大きさは約5μmだ。そのためスギ花粉(約30μm)や飛沫(ひまつ)(5μm以上)は防ぐことはできるが、ウイルスや細菌は通してしまう。
「そして、細菌は栄養さえあれば、自分で増えることができますが、ウイルスはほかの生物の細胞の中に入り込まないと増殖できません。宿主がいないと生きられないため、ウイルスは"生物ではない"と位置づけられています。
また、増殖の方法にも違いがあります。細菌は細胞膜の中に核酸(遺伝情報)がある単細胞生物です。その細胞が分裂してふたつになって、また分裂して4つになってと、2倍ずつ増えていきます。
一方、ウイルスには細胞膜がなく、タンパク質の中に核酸があるだけ。そのタンパク質が細胞の中に侵入して遺伝子を一気に複製する。だからウイルスは複製するスピードがとても速いんです。
一説には1個のウイルスが24時間で100万個以上に増殖するともいわれています。そして、複製がある程度たまると、今度は細胞内から複製されたウイルスを放出して、またほかの細胞に侵入します」
ウイルスも細菌も同じく微生物と思われがちだが、構造や増殖の方法がまったく違うのだ。
【2】目、鼻、口にウイルスがつくと感染するのに、手についても感染しないのはなぜ?
「皮膚の表面には角質という硬い膜があり、とても強いバリア機能があります。そのため、細菌やウイルスがついても細胞の中には入りません。しかし、目、鼻、口、性器などの粘膜には角質がないため、病原体が侵入しやすいんです。ただし、皮膚に傷などがあるとその傷口からウイルスが侵入することはあります。
ちなみに、梅毒を引き起こす梅毒トレポネーマという細菌は、ワインオープナーの先のようならせん形をしていて、グルグル回りながら皮膚の中に入っていけます。ですから、梅毒は皮膚の接触によって感染することもありえます」
【3】粘膜にウイルスがついても、目を洗ったり、うがいなどですぐに洗い流せば大丈夫?
「すぐに洗い流したから大丈夫とは言えません。洗い流せる場合もあるでしょうし、流せない場合もある。ウイルスが1個でもついていれば、感染のリスクはあると思ってください。ちなみに、食中毒を起こすノロウイルスは、最少18個で感染が成立するといわれています。
一方で、粘膜にウイルスがついたからといって、すぐに感染するわけではありません。免疫が病原体を排除しようと働きます。体の中に抗体という武器を作って戦ってくれる。
この抗体は、これまで体に侵入したことがあるウイルスについては、記憶してあるのですぐに使えますが、初めて侵入したウイルスには作るのに少し時間がかかる。だから、その間に発病してしまうことがあります。
ちなみに、はしか(麻疹[ましん])などは一度感染すると抗体を一生記憶しておけますが、インフルエンザには何回も感染することもあります。これはインフルエンザウイルスが毎年、微妙にマイナーチェンジしているために、体が同じウイルスだと認識できないからです」
【4】ウイルスは、何種類くらいあるの?
「めちゃくちゃ、たくさんありますよ。全体で約3万種。そのうち哺乳類と鳥類に感染するのは約650種。そして、われわれ医師が一般的に検査をするのは10種類ほど。
その中で治療薬があるのはインフルエンザ、HIV、ヘルペス、サイトメガロなどの数種類だけです。(普通の)風邪、はしか、風疹(ふうしん)、ノロウイルスなどは治療薬がありません。基本的に患者さんの免疫力で治してもらうしかないんです。
では、なぜ"風邪薬"を出しているのかという疑問が出ますよね。風邪などのウイルス感染症は熱が出て、喉が痛くなって、咳(せき)が出て、鼻水が出るなど複数の症状が表れます。そのためそうした症状を緩和させる薬を出しているだけなんです。治療薬を出しているわけではありません。
一方で、細菌には抗生物質という治療薬があります」
【5】新型コロナのほかにも怖いウイルスはある?
「一番身近なのははしかです。はしかは空気感染(飛沫核感染)するため感染力が強く、抗体を持っていないとほぼ100%発症します。致死率は発展途上国で約3%、先進国でも約0.2%ととても高い。現在、世界的に大流行していて、WHO(世界保健機関)によると、すでに約44万人の感染者がいると発表されています。
日本固有のはしかは撲滅されているので、日本ではしかが流行するとすれば海外から入ってくるときです。例えば、東京五輪の時期などが危険。はしかは予防接種を受けていれば心配する必要はありませんが、受けていない人がいるのが問題です」
はしかワクチンの定期接種は、1978年から始まった。そのため1977年以前に生まれた人の多くは、ワクチンを打っていない(ただし、自然感染して抗体を持っている場合はある)。また、1978年から2005年の間も1回接種だったので、十分な免疫がついていない可能性があるという。
「また、風疹も一昨年からはやっています。風疹は成人なら一般的に軽い症状だけで治りますが、妊婦さんが風疹に感染すると、その子供が障害を持って生まれてくる可能性が高くなります。
実は今、風疹の予防接種を受けていない1962年~1979年生まれの男性に対して、自治体が風疹の抗体検査と予防接種が受けられる無料クーポンを配っています。
そして、この予防接種のいいところは、今は風疹単独のワクチンは少ないので、ほとんどの場合『風疹・はしか混合ワクチン』を打ってもらえるところです」
つまり、該当する年齢の人は、はしかと風疹の予防接種が無料で受けられるのだ。
「ちなみに新型コロナよりも、若い人が感染したときに致死率が高いのは細菌の感染症ですが、なかでも恐ろしいのが侵襲性髄膜炎菌感染症で、致死率は約20%。基本的に飛沫感染で、寮などの狭い空間での共同生活で感染のリスクが高まります」
襲性髄膜炎菌感染症は、症状の悪化が早いのが特徴で、発症後24時間~48時間以内に8~15%の患者が死亡する。また、早く適切な治療を受けても10~20%の割合で壊疽(えそ)により手足を切断したり、言語障害などの後遺症が残るという。
「昨年、ラグビーW杯の時に観戦で来日した外国在住の方が発症して入院しました。こうした感染症も東京五輪では注意したほうがいいでしょう。スタジアムなどで観戦する人は、クリニックだと2万~3万円はかかりますが侵襲性髄膜炎菌感染症のワクチンを打ったほうが安心できると思います」
新型コロナよりも危険なウイルスや感染症はたくさんある。そうした病気にかからないためにも、正確な知識を持っておいてほしい。
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