元暴走族という異色の経歴で"ヤンキー先生"として90年代、彗星のごとくデビューした古文の予備校講師・吉野敬介氏が教育系YouTuberに転身。TOEIC満点を80回以上獲得している英語の予備校講師・森田鉄也氏とタッグを組み、オンライン予備校「ただよび」を開始した。

吉野氏といえば、代々木ゼミナールの名物講師として活躍し、その後は東進ハイスクールへ。30年以上にわたって有名予備校のトップ講師として、名を馳せてきた人物だ。代ゼミを辞めるときには週プレでも誌面を飾った。そんな彼がなぜYouTubeへ殴り込みをかけたのか。吉野氏と森田氏に話を聞いた。

***

吉野 週プレさん、懐かしいね~。代ゼミを辞めるときは記事にしてもらったのを覚えてるよ、ほら。

――保管までしていただいて、ありがとうございます。今回はオンライン予備校を開設するということですが、なぜ舞台をYouTubeに?

吉野 昔から教育を平等化したいと思ってたんですよ。代ゼミを辞めたのも、政治家として教育を変えようと思ったからなの。参院選に立候補しようとしたら、政府の年金問題などが発覚してダメになっちゃったけど。だいたい予備校って高いでしょ、年間80万円だよ。ずっとどうにかしたいと思ってたんだよ。

――受験生の多くが予備校に行くわけですけど、親は大金をはたいて通わせているのが現状です。

吉野 そう。それも今じゃ、いい大学に行くには中学受験をして、ある程度の有名中学に合格しないと先がないよな。現在は小学4年生から中学受験は始まるから、30歳で子供を産んだとして、40歳で80万円もの大金を子供のために支払って受験させたとしても有名中学に合格できるかどうかわからないので、厳しいでしょ。格差社会っていうか、金持ちか貧乏しかいない階級社会。それを是正できるのが唯一教育なのに。

――教育格差と経済格差は結びついていますからね。

吉野 でもYouTubeなら無料で教えられるわけでしょ。だからやるなら今だと。30年以上、予備校講師をやらせてもらったから、最後の恩返しとしてね、誰にってわけじゃないけど。YouTubeは一生残るから一生見てもらえるでしょ。それはうれしいよね、棺桶に足を突っ込む時にいいことしたなって思えるかな。

――YouTube以外にも恩返しとしての選択肢はあったんですか?

吉野 自分をキャラクターにしてゲーム感覚で古文が解けたりしたら楽しいかなとは考えたね。でも所詮どんなに頑張ってもお金がかかるんだよね。それだと手助けにならないなと。それで去年からYouTubeを始めた森田に協力してもらってYouTubeで授業を始めることにしたんだよ。

――森田さんがYouTubeを始めたのはなぜだったんですか?

森田 予備校講師って上が詰まってるんですよ。技術があっても意味ないので、だったらYouTubeに全部出してやろうと。それに喋ったり書けるようになるための英語教育が世界的にあるのに、日本は一切やらない。古いやり方のままでしか、授業を行なっていないから、だったら自分が知ってる世界的な英語教育を見せようと思ったんです。

――森田さんはなぜ吉野さんと一緒にやろうと?

森田 既存のYouTuberは99%くらいは失敗してるんですよ。大きな理由は、"一流"が居ないこと。吉野先生の参入は、教育系YouTuberにとって衝撃的なんですよ。だから吉野先生が授業をやって、僕がYouTube用の機材で撮って編集すれば成功するのではと思いました。それに他の教育系YouTuberを見ていると、バラバラにあげてる人ばかりなんです。

――バラバラというのは?

森田 簡単にいうと再生数を伸ばしやすい、"おいしい"単元ばかりやってる。難しい単元とかはどうしても検索されやすいんですが、基礎を教えないままなので、実際に見ている人の力にならない。

吉野 その点、おれは超基礎から教えていくので、おれの順番通りにやっていけば絶対大丈夫。あと生徒にも言ってるけど、簡単な問題だけじゃなく難しいのもやらなきゃダメ。基礎から難しいものまでいろいろやらないと、入試会場で解けないから。

――ただ動画で、無料で、というと見る側も集中できないのでは?

吉野 東進はビデオ授業なんだけど、動画だと90分の授業をちゃんと受けている生徒は少なくて、1.3倍速とか1.5倍速とかで見ている。おれの授業はつまんないのかって思って、最初雑談10分とかしていたら、「雑談だけは通常スピードで見ています」と言われたんだよね(笑)。

森田 先生の雑談だけまとめた動画とか、インターネットに流れてますよ。

吉野 え、そうなの(笑)。「ただよび」は動画という点は問題ないんだけど、無料だから難しいってのは思った。お金を払ってれば一生懸命やらなきゃいけないなとか思うけど、無料だと見たくなければ見なくていいからね。

だからポイントを絞って、1回10分くらいの長さでやるんだけど、10分をいかに飽きさせないで見せるかが難しい。そこがタダというところを舐めてたとこかな。あまりYouTuberという意識はなく、いまは普通に予備校講師として収録しているけどね。

――たしかに10分くらいなら集中できそうですね。今後、大学受験以外にも展開していくんでしょうか? それこそもう受験を終えた社会人向けとか。最後の将来的な展望をお願いします。

吉野 まずは中学受験とか、外国人向けもやりたいね。それから、ある程度古文に興味ある人に、『徒然草』や『源氏物語』を原文で読んでみるとか"大人の教養"もやれたらいいかな。あとは知り合いの講師を呼んでそれぞれの得意分野をやってもらうつもり。

森田 資格マニアで英語の資格を数十個持っているので、資格試験用の授業もできます。それにビジネス英語とかも需要があれば今後考えていきたいですね。

■ただよび
YouTube上で受けられる完全無料のオンライン大学受験予備校。現在は、吉野敬介氏が古文を、森田鉄也氏が英語を担当。毎週月曜日から金曜日まで毎日配信している。
【公式サイト】https://tadayobi.jp/
【公式YouTubeチャンネル】https://www.youtube.com/channel/UCRNYfIK7BV_DCoR7KqdhBhQ