私の周りには変わった旅友がたくさんいて(大体旅人なんてものは変わっているのだが)、旅を終えた後に普通に社会復帰する者もいれば、何かに目覚めて新しいことを始める者もいる。
今回は、コーカサス3ヵ国のうちのひとつジョージア(旧グルジア)でゲストハウスの運営をしているシャンディという男(30代/日本人)が、同国で外出自粛をしているというので話を聞いてみようと思う。
彼は2018年にスタートした世界一周の旅から日本へ帰国後、オンラインでの業務を得意とした"現代版なんでも屋"を起業。さらに、東京で旅人が集まるシェアハウスや、注目国であるジョージアでゲストハウス(日本人宿)を運営。
旅を広めるための活動を日々行ないながら「働く場所に捉われない働き方」を研究・実践して生きている。ついでにチェコ親善アンバサダーでもあり、そこはジョージアじゃないんかい!とツッコミたい。
ジョージアでは2月26日、初の新型コロナウイルス感染者が確認された。イランからアゼルバイジャン経由で帰国したジョージア人男性(50歳)だ。3月21日に非常事態宣言が発令され、当初4月21日までだったものが5月22日までに延長の見込み。人口373万人のうち、感染者数は408名、死亡者4名、治癒者97名と報告されている(4月22日現在)。
「きっと飛行機も出ないので、日本に帰るのはもうちょい先になりそうです」
大体3ヵ月に1回のペースでジョージアを訪れているシャンディは、普段は1週間から長くとも1ヵ月の滞在だそうだが、新型コロナウイルスの出現により1ヵ月はとうに経過し、帰国は未定。現在、首都のトビリシにいた。
日本国籍の場合、ジョージアはノービザで1年滞在可。コロナで3月21日から外国人の新規入国禁止になったが、彼は3月頭にジョージアに入っていて、まだ残り10ヵ月以上あるのでビザに関しての心配は一切なく、周りもビザを気にしている人はほとんどいないという。ただ、コロナ対策で急に短縮されたり......という変更がないかの不安はあるそうだ。
「現在ゲストハウスでは、管理メンバー含めて8人で3月半ばから自粛生活を送っています。日本人宿なので滞在者は日本人のみ。年齢層もまばらで10代から40代までいます」
彼はゲストが過ごしやすくするための改善活動や、プロモーション、イベント企画、日本からジョージアを訪れる人を増やすための活動をしている。チェックイン・チェックアウトの対応、掃除、シェア飯(宿泊客で食べる同じ釜の飯)作りといった部分は、現地在住者にお願いしているのだそう。
「新規外国人入国者がゼロになり、予約は全部キャンセル。現在は運営メンバーと、現地在住の仲間を招き入れ日本人で協力しあって過ごしています。日本人の悪い印象をジョージアの方々に植え付けたくないので、目立つようなことはせず自粛しています。
収益はあがらないどころか大赤字でゲストハウス閉鎖も考えましたが、今後の世界において旅人やフリーランスの人たちになくてはならない場所だと信じているので、クラウドファンディングにて宿継続のため資金を集めようとしています」
いつまで続くかわからないこの状況は不安も大きいが、信念を持った旅人の背中は逞しく、閉鎖せず継続を選んだことには勇気がいったと思う。
ただ、旅人というものは予想外の事態に慣れている。今は世界のどこにいたとしてもこういう状況だし、ジョージアでの自粛生活もきっと運命として受け入れているのでは......と私は思っている(し、私だったらきっとそう思う)。
「一緒に住んでいる仲間のひとりは、毎日時間があるのでライブ配信をして収益化に成功しました。他にも日本からライターの仕事をもらって生活費を得ている人や、この機会に語学の勉強をしている人など、みんな楽しそうに毎日過ごしてます。
デリバリーでNintendo Switchを入手することができたので、流行りの『どうぶつの森』をやっていた時期もあります」
ジョージアにはオンラインショッピングでもUber Eatsのようなデリバリーシステムがあるようで、購入して2時間ほどで手元に届いたとか。便利なサービスもあって屋内生活も退屈していないようだが、外出制限はどんな感じだろう。
政府による規制には「公共の場における3人を超える集会は禁止」「午後9時から翌午前6時までの外出禁止」「外出時における身分証明書の常時携行」などがある。
さらに現在では、「一部車両を除く全自家用車による移動が禁止」「店舗等におけるマスクの着用義務」「墓地への立ち入り制限」が課され、外出自粛が強く要請されている。
「基本は日中の外出自粛なので徒歩圏内のスーパーにのみ移動。Uberのような配車アプリがあるので、少し離れた大型スーパーまではそれで移動。ただし1台につき乗客は2名まで、かつ後部座席のみの乗車となっています」
外出は食材の買い出しのみということであるが、そういえば、ジョージアはワインの歴史が8000年。2Lで200円のワインがある。この外出自粛につき、ゲストハウス内の旅人たちは毎日ガブガブやっている?
「スーパーではボトルワインを売っているが、自分が好きなのはゲストハウス近くのお店のおばあちゃんが売っている計り売りのワイン。このお店が閉まっているのでお酒はあまり飲んでいないです」
私からすれば「せっかくのジョージアワインを飲みまくってないなんて!」というところであるが、ならばご飯は? ジョージアのご飯は美味いのだから。
「残念ながらジョージア料理屋が閉まっているので、スーパーで食材を買って作る生活。ゲストハウスで元々シェア飯をやっているので、料理を作ってみんなで食べるシェアハウスのような生活をしている。日本っぽい食事になることが多いです。
ただ、デリバリーは空いているので、少し割高だけどたまに頼むことも。ゲストハウスで人気なのは『シャワルマ』というケバブみたいな中東料理です」
余談だが、ジョージア飯といえば『シュクメルリ』という鶏肉をガーリッククリームソースで煮込んだ伝統料理がある。日本では、一時期、松屋が店舗限定で販売していたのを思い出した(調べたら松屋の公式レシピが公開されていたので、この機会に作ってみようかな)。
ところでジョージアは総じて生活コストが安い。コロナ禍で仕事がなくても生きていける?
「ゲストハウスのドミトリーは1ヵ月長期割適用で150ドル。何もせずに過ごすだけで贅沢しなければ月300ドルあれば十分生きてはいける。けどゲストハウスの運営側や、店舗を持っていて固定費がかかる場合は他で収入を作らないとつらいです」
そんな誰もがヒリヒリする日々の中にも、エモい話がひとつ......。
「ジョージアは誕生日とか祝事によく花火をあげる文化があるけど、外出自粛の今もたまに花火があがってる音が聞こえる。『今からお前のために花火あげるから窓から見といて!』みたいなやりとりがオンラインで、もしかしてあるのかもと妄想して勝手にほっこりしてます」
さて、旅先としてもじわじわ人気上昇中だったジョージア。私も再訪したい素敵な国であるが、しばらく旅もお預け。外出自粛中の小さな幸せとして、今夜はジョージアワインを片手に妄想旅を楽しむとしようか。
★旅人マリーシャの世界一周紀行:第266回「文豪ヘミングウェイの『日はまた昇る』が読みたくなる街パンプローナ」
●旅人マリーシャ(旅人まりーしゃ)
平川真梨子。旅のコラムニスト。バックパッカー歴12年、125ヵ国訪問。地球5周分くらいの旅。コラム連載は5年間半を超える。Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】
女子2人組ユニット「地球ワクワク探検隊」としても活動。Youtube配信や国内外各地のPR活動、旅先のお酒やお話を提供するイベント「旅するスナック」を月2回、東京・虎ノ門で開催。
【https://www.youtube.com/channel/UCJnaZGs8hyfttN9Q2HtVJdg】