主題歌『愛はブーメラン』の疾走感を含め、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』のEDの流れはアニメ映画で一番好き

『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回はアニメ『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』について語る。

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家にこもる時間が増えているので、外出自粛のお供に動画配信サービスで見られる名作アニメ映画を紹介します。

1984年公開の『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』。監督は、後に『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(95年)などを作った押井守さんです。

テレビアニメ版の『うる星やつら』は、私が子供の頃にも再放送されていて、最初に好きになったアニメですが、この『ビューティフル・ドリーマー』はテレビ版の世界観より"押井ワールド"が全開の作品です。原作者の高橋留美子先生も、「『ビューティフル・ドリーマー』は押井さんの『うる星やつら』です」とコメントしているくらい。

物語は、主人公の諸星あたるやラムちゃんをはじめとする友引高校の生徒たちが、翌日に控える文化祭の準備をしている場面から始まります。『うる星やつら』らしく、ここでいろんなドタバタが起こりますが、徐々に奇妙な違和感が目立ち始め、あたるたちは文化祭前日の一日が何度も繰り返されていることに気づきます。

近年は『魔法少女まどか☆マギカ』や『STEINS;GATE』『君の名は。』など、登場人物たちが同じ時間や世界を繰り返すループものが人気ですが、この作品は"ループものアニメの元祖"ともいわれています。

ほかのループものと一線を画す要素のひとつは"お約束"の設定を逆手に取ったところ。アニメや漫画では、何年たっても登場人物たちが年を取らないことが違和感なく受け入れられています。そんななかで、学園ものの典型である『うる星やつら』が、永遠にループする一日を描くというセルフパロディになっており、遊び心とクレバーさがたまりません。

こうしたメタな要素はほかにもあります。劇中、友引高校の校舎が3階建てだと言及されるシーンがありますが、エンディングでは2階建てになっています。ここで新たなループに入ったという見方もできますが、そもそもテレビアニメ版の校舎の設定はかなり適当で、2階になったり3階になったりしていました。それを自らパロディ化したと解釈できます。

私は、個人的に本作の「メガネ」というキャラクターが好きです。理屈っぽい長ぜりふをしゃべり、暑苦しく振る舞うところは学生運動の闘士のようで、かつて高校生活動家だった押井監督とメガネの化学反応がツボです。また、劇中、ワンカットだけ登場する謎の男性は、実は観客を見つめる押井さん自身だと明かされています。

こうしたメタ構造やメタファーがたっぷりちりばめられており、いくらでも考察できる作品ですが、演出も絶妙です。喫茶店のシーンで、テーブルの真ん中に設置されたカメラが回転するように交互に人物を映す演出や、夜の街を車で走るシーンのカットの切り替えなど、前衛的な演出を見るだけでもオススメ。アニメに興味がない方にぜひ見てほしいです。

当時、アニメとしては珍しく映画雑誌などでも絶賛されたという本作。押井守ファンではなくても十分に楽しめると思います。

●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。モデルとして活動するほか、テレビ、ラジオなどにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。EDで初めて作品のタイトルが現れて主題歌が流れ、「今まではアバンタイトルだったの!?」と度肝を抜かれた。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

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