決して「Futterneid」にならない、ちょっと残念なドイツのソーセージ 決して「Futterneid」にならない、ちょっと残念なドイツのソーセージ
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は「おもしろドイツ語」について語る。

* * *

長年ドイツにいた大学時代の親友が、現在はロックダウン中のロンドンに住んでいます。お互いに家で時間を持て余しているので、学生時代のように毎日連絡を取り合っています。

先日、「おもしろドイツ語」の話題になりました。簡単に言うと、ほかの言語では翻訳するのが難しい言葉。世界で共通する感覚や現象なのに、ドイツ語にしか単語がないのが興味深いです。

日本でも知っている方がいそうなのが、「Schadenfreude」。アニメや本で紹介されることもある言葉ですが、この単語は"他人の不幸を喜ぶ感情"を表します。

これと似た微妙な心理を表す言葉としては、「Fremdschamen」というのもあります。これは"見ているこっちが恥ずかしい"という感情をひと言で表す言葉です。この「Schadenfreude」と「Fremdschamen」は、英語にも似た言葉がないので、英語圏でもそのまま使っています。フランスでもそうだと思います。

そんなおもしろドイツ語の中に、私のお気に入りの言葉がいくつかあります。まずは「Fernweh」。この言葉はFern(遠い)とWeh(痛み)というふたつの語根から成り立っていて、"行ったことがない遠くの場所へ行きたい"という感情を表します。

ざっくり言うと、ホームシックと真逆の意味。遠い土地への憧れだけではなく、行ったことがない場所なのに恋しくて、"今いる場所が自分には合っていない"というような複雑なニュアンスも表現しているそうです。英語にも日本語にもない言葉だけど、感覚は共通だと思います。

ちょっと面白いのが、「Backpfeifengesicht」。これは"られるべき顔"を表しています。むかつく人や行動を指す言葉が、"殴りたい"ではなく"殴られるべき"なところに、ルールや節度を重んじるドイツらしさを感じます。

無理やりイマドキの日本語に直すと「イケメン」ならぬ「殴られるべきメン」でしょうか。実際、殴りたくなるような顔の人っている気もしますし、それをこのひと言で言い表すことができたらスッキリしそうです。

また、「Futterneid」という言葉もお気に入りのひとつです。これはFutter(食べ物)+Neid(うらやましい)の複合語で、"人の食べているものがうらやましい"という感情を表します。この言葉のように、ドイツ語には食に関するピンポイントな単語がたくさんあるのがいいなと思います。

ほかのピンポイントな例としては、「Treppenwitz」。これは、"あのとき言っておけばよかった"と思うことです。もっと言えば、"うまい回答を思いついたときにはもう遅かった"という状況を指す言葉で、誰もがその感覚を味わったことがあると思います。

他言語では文字数を要する感覚を、ひと言にまとめる効率のよさに「さすがドイツ」と感服します。ドイツ語以外の言語にも、共有できる感覚を独自の単語で言い表すことがあります。次回はそんな言葉を紹介します。

●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。モデルとして活動するほか、テレビ・ラジオなどにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。ドイツ語のほかに、ミュージカル『アニー』でアニー役だった親友には、子役らしい発声を教えてもらっている。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!