スペインに暮らすイラストレーターあお木たかこさんの作品が素敵すぎる!

今週も「#おうちたび」ということで、昨年のスペイン旅をお届けしたいと思います。

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私がスペインのナバーラ州にある小さな街・エステーリャで、ミニ牛追い祭りや地元の人との触れ合いなど貴重な体験ができたのは、現地に住む日本人、あお木たかこさんのおかげ(前回記事)。

私は彼女と出会って、スペインでのスローライフやその素敵な仕事に感銘を受けた。今回はそのことを書いてみたいと思う。

当時、街はちょうど1週間続くお祭り期間で、私の泊まる宿の前の広場では朝から晩までいろいろなイベントが繰り広げられていた。

たかこさんは、そこで現地の人たちと難民支援のチャリティー食事会(食事券の収益金が寄付されるというもの)を開催していた。その場にいたセニョール(おじさん)が、日本人同士だからと引き合わせたのだ。

この街に日本人は唯一彼女だけ(まさに『世界の村で発見!こんなところに日本人』である)。ここに住み始めて住民登録した際、市役所でそう言われたそうで、その後も日本人がいるという噂は聞かないとか。この小さな街では、日本人がいればすぐ耳に入るのだ。

宿の前の広場。私がたかこさんと出会った場所

スペインに暮らし始めて11年。初めはマドリードに住んでいたが、ある日カミーノ(聖地巡礼)でエステーリャを訪れた時から交流が始まり、ここに住んで6年が経つ。すっかり地元の人に受け入れられ、お祭りでは地元の仲間しか参加できないソサエティ「LA BOTA」にも呼ばれ、ついでに私まで参加させてもらった。

彼女がスペインに住むようになったのは、第2の人生を別の環境で始めてみようかと、放浪の旅をした先がたまたまスペインだったからだそうな(旅の先輩だ!)。

人はそれぞれ人生で様々な体験をするが、何かの出来事をきっかけに旅に出る者も少なくない。そして旅を終えた後、現実世界(と私は呼んでいる)に還る者もいれば、他の新しい世界を選択する者もいる。

あお木たかこさんの仕事はイラストレーターだ。青森から上京し、油絵やデザインを学び、絵本出版やギャラリー装飾などを数年手掛ける。その後イラストレーターとして仕事をするようになり、現在に至る。

その作品はカラフルな色使いで、猫や小鳥などの動物や、花などの植物や自然、他にも楽器やコーヒーなどをモチーフにした、温もりと優しさの宿るイラスト。スペインに住んではいるが、スペイン人のようにバルで日がな一日おしゃべりという生活はせず、常に絵を描いているという。

あお木さんが描いた、コロナ禍で猫が手を洗うイラスト(本人SNSより)

「私にとっては、絵は生活の一部で、食事のようになくてはならないものですね。誰かに褒められるためではなく、注目を浴びるためでもないので、描くだけでもう満足なんです」

基本的には代理店から依頼を受けて描くスタイルで、画家のように絵の販売はしていなかった。しかし昨年、アーティスト仲間からアートフェアに参加してくれと頼まれたため、ノートを破った紙や、ダンボール、Amazonの梱包材に落書きした絵を出品したところ、ほとんど売れてしまったそう。

アートフェアが終わった後に仲間と撮った写真(本人提供。以下同)

今でもどこかで話を聞きつけた人から、売ってくれという連絡が来るそうだが、彼女のイラストにはそれだけの魅力があふれているので納得だ。

その作品には、スペイン暮らしならではのユニークさがある。最近では、コロナ禍で推奨されていたハンドウォッシュをモチーフに猫が手を洗う様子や、夜の8時に人々がベランダで拍手と鍋を叩いて医療従事者に感謝と敬意を表す様子を描いた品が印象的であった。

「夜の8時にベランダで拍手拍手と鍋(cacerola)を叩いて医療従事者に感謝と敬意を表す#Cacerolada!! ご苦労様です」(本人SNSより)

コロナ禍での暮らしを聞くと、

「まさかスペイン人がマスクをする日が来るなんて、想像もしてませんでしたね(笑)。私はというと、軟禁生活でもいつも絵を描けるし、自分のアトリエにいたら天国で、こんな状況だけど毎日かなり楽しく暮らしてました。初めての版画が入選したり売れたりと、スペインでまた新しい道ができていっているようで楽しいです」

去年から始めたばかりの版画が入選し、スペイン、フランス、ポルトガルのギャラリーを巡回するなど、追加注文が来るほど売れていることに本人は驚いているのだとか。

あお木たかこさんの個展にて

以前は日本との仕事をこなすこともあったそうだが、〆切りがかなりタイトだったり、描く量が多かったりと、食事の時間もないくらいハードスケジュールだったそう。

「その分待遇は良いですが、ここにいたらそんなにお金がかからないし、お金中心の生活じゃないので、ゆったり暮らす方を選んでしまいますね。

スピーディーな仕事ではなく、じっくり心をこめた絵が仕事になってきている、そんな感じがしています。ここのたくさんの友達に支えられ暮らしています。なんだろう、日本にはない思いやりを感じます」

コロナ禍で、私たちは改めて何が本当に大切か考えさせられたが、たかこさんはすでに自らにとって大切なことを選択し、実践しているように思う。お金や環境に惑わされずシンプルに自分の好きなことをして、人間らしい時間を過ごしている。

私はそんなスローライフに憧れるが、東京にいるとどうしても全力疾走する癖がついている。新しい日常をどう過ごしていくべきか......。

「これからは今までのようにどんどん消費する時代はどうなのかな? 生産、消費という時代はどうなのかな、と。少なくとも本当の豊かさ、幸福感は物質だけでは得られないと思っているので。ここで暮らすようになって、それがわかりました

そう話すたかこさんは、時々、街から車でちょっと行った村の墓地を散歩したり、別の惑星かというくらい壮大な景色の中でハイキングを楽しんでいるそう。放し飼いでストレスのないのんびりした動物たちに癒されているのだとか。

街から車でちょっと行った所の村「Larraona」の墓地を散歩

別の惑星かと思うくらい壮大な景色の「Lizarraga」へハイキング

アートには作者の生き方が反映されている。彼女の作品がヨーロッパで高い評価を得ているのも、感性への共感があるのだろう。特にヨーロッパ人の時間の使い方は、東京人に比べたら上手な気がするから。

たかこさんの作品は、日々SNSに更新されている

「SNSの投稿は日記のようなものです。食事するように絵を描くので......。休憩時間は出窓から空を見ながらウクレレを弾いたり、午後は読書の毎日です」

そんなスローライフにすっかり魅了された私は、彼女の作品を見てあの街を思い出し、ほっこり癒されている。

■あお木たかこさんInstagram@illust.takako.jp

たかこさんが朝ジョグをする公園

●旅人マリーシャ(旅人まりーしゃ)
平川真梨子。旅のコラムニスト。バックパッカー歴12年、125ヵ国訪問。地球5周分くらいの旅。コラム連載は5年間半を超える。Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】 女子2人組ユニット「地球ワクワク探検隊」としても活動。Youtube配信や国内外各地のPR活動、旅先のお酒やお話を提供するイベント「旅するスナック」を月2回、東京・虎ノ門で開催。【https://www.youtube.com/channel/UCJnaZGs8hyfttN9Q2HtVJdg】

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