『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は驚きのサブスクリプションサービスについて語る。
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ここ数年、勢いがあるサブスクリプションサービス。このビジネスモデルを代表するSpotifyやNetflixなどの音楽や動画配信をはじめ、ヘアカラーや納豆まで、風変わりなサブスクが次々と生まれています。
そんななか、夢のようなサブスクの存在を知りました。それは1981年にアメリカン航空が発売した「AAirpass」というファーストクラスの生涯乗り放題パス。
約25万ドル(今だと70万ドル、日本円では7500万円相当)の一括払いで、さらに15万ドル追加すれば同乗者のパスも購入できた。大金だけど、頻繁に飛行機移動をするセレブであれば、破格のオファーだと思います。94年の販売終了までに66人しか購入しなかったなんて、驚き。
アメリカン航空がAAirpassを販売した背景は、重度の経営不振。78年の規制緩和によるチケット代の低下に苦しんでいたアメリカンはとにかく現金が必要で、借金の金利を避ける奇策として生まれたのがAAirpass。
要するに、余裕のある客から前払いをお願いすること。当時の金利が歴史的な高値だったことを考えると、なかなか良い作戦。のはずが、すぐに問題点が浮上しました。
食べ放題は食べられる量に限度があるため、乱用はしにくい(もちろん例外はいますが。あ~赤阪尊子さんとバイキング行きたい)し、動画サービスだと、むしろ課金コンテンツへの誘導につながることもある。
しかし、AAirpassの所有者は、これでもか、というほど利用し、席を毎日のように予約。同乗者席には規定がなかったため、格安で席を販売した人もいたようです。なかでも、25年間で1万回以上利用した人と、20年間で約3800万マイル飛んだという人の利用歴が突出していました。
彼らの乗り放題生活を読むと、夢のようです。地元より安いからロンドンでタイヤを購入したり、娘の勉強のためにアルゼンチンに日帰りしたり、ベビーシッターが見つからないから親を他州から一晩だけ連れてきたり......。
フットワーク軽く世界中を飛び回り、ランチだけのために別の国に行くのは日常茶飯事でした。同乗者席にエイズ患者を無償で乗せて家族に会わせたりと、ボランティアでも活用していたそう。
しかし、夢は突然終わりました。このふたりだけで年間100万ドル以上の損失を出していることが判明。07年、再び経営が悪化したアメリカン航空は、明確なルール違反ではないものの同乗者席の悪用を理由に、生涯使えたはずのAAirpassを08年にこのふたりから剥奪しました。
大失敗に終わったAAirpassですが、いまだに利用している所有者はいます。今のところ、04年に300万ドルの売値で発売されたのが最後で、そのときは購入者はいなかったそうですが......。販売再開されたらどうしよう。ローンとのバランスを見て、購入したいような......。
個人的には、全JR&私鉄フリーパスなら迷わず買います! まるで超スーパーサイヤ人ゴッドのような青春18切符! 真っ先に「JR東海だけ入りません」と計画が頓挫するところまで読めますが、サブスクブームにあやかって、実現の夢を見ます。
●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。『ドラゴンボール』でたとえたら誰もがわかると思うな、と20歳のコに言われた。公式Instagram【@sayaichikawa.official】