引き続き「#おうちたび」と言うことで、昨年の旅の続きをお届けしたいと思います。
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念願だった北スペイン周遊の旅も終わり、ビルバオ空港から飛行機に乗り込んだ私。次の国へ格安で行くためには、パリで20時間のトランジットを過ごさなければならなかった。
パリ訪問は人生で6回目くらいになるだろうか。これまでにエッフェル塔、シャンゼリゼ通り、セーヌ川、ルーブル美術館などのキラキラな所は行き尽くし、絶品グルメやスイーツも堪能した。
何度訪れても心ときめく旅先であるが、しかし世の中(日本)の人が憧れるほど、私はパリにどハマりしたことがなく、バックパッカー的にはむしろ宿の高さにいつも困窮している(ちなみに母がパリ至上主義者なため、そのアンチテーゼもあってか、私はパリの特別扱いには少し厳しい)。
2015年、危険エリアと言われる北駅近くの安宿に泊まって南京虫に刺された不運は、これまでの世界一周の旅の中でもトップランクにネガティブな出来事で、今でもそのかゆさと辛さを忘れない。
それから、同年の年末に再訪した時は、韓国系オーナーの経営する安宿にてキムチで新年を迎えるというマシッソヨな思い出も。とにかく節約型の旅人風情がパリに行くと、パリがパリじゃないことがしばしば起こる(これがパリの本性だぞ、と主張したいところでもあるが)。
さて今回は、滞在20時間という弾丸なので、またしても優雅なボン・ヴォヤージュ(良い旅)とはほど遠い。
―21:00
シャルル・ド・ゴール空港に到着したのは21時。予約した宿は10区にあり、まずは電車で北駅へ行かなければならかった。パリに詳しい方ならご存知だろうが、そのエリア周辺は移民や貧困層が多く治安が悪い。盗難被害や傷害事件、またパリ同時多発テロ事件の起きた場所のひとつでもある。
慣れているパリとはいえ、全荷物を抱えてる"鴨ネギスタイル"で夜の女ひとり歩きは危ない。本来なら避けるべきなのだが、電車を降りてからは徒歩500mほどの短い距離だったので、つい強行してしまった。実際怖かったし、反省。どっと疲れて眠りについた。
―9:00
翌朝、宿をチェックアウトするとパリ滞在時間は残り8時間。17時台のフライトのことを考えると、自由に使える時間はおよそ5時間だ。何をしようか。
そういえば機内食以来何も食べていない。よし、ご飯だ。せめてフランスらしいものをと思い、私は「本場でガレットを食べる」ことに照準を合わせた。
ガレットはフランス北西部のブルターニュ地方発祥の郷土料理。そば粉で作った生地を薄い円形に伸ばして正方形に折りたたんだクレープのようなものだ。
バックパックを担いで(はぁ、重っ)宿を出ると、早速目の前を歩くかわいらしいパリジェンヌたちに胸キュン。ヌヌ、やっぱりパリ。ひいきしないと豪語したが、太陽の下のパリの街はいきなり清々しく、私は少し浮かれていた。
そしてお気に入りのエリア、パリの流行の発信地であるマレ地区方面へと向かう。ファッションやグルメの店が密集し、若者やアーティスト、同性愛者などが集まるエリアで比較的治安も良い。
路上ではモデル撮影をしていたり、壁のアートやレインボーに装飾された横断歩道などを見かけたが、不思議なことに、ただ歩く人や建物、飼い主を待つ犬や足元に落ちているゴミさえもがオシャレに見えてくる。パリの魔力おそるべし。
そして目的の店「Breizh Cafe」の開店時間に着くと、私が本日ひとり目の客であった。テラス側の席に座り、汚いバックパックは足元に隠してメニューを広げる。そして、一番シンプルな塩バターのガレットとカフェラテを注文した。
飢餓状態の私の嗅覚が敏感にコーヒーやバターの匂いを感知すると、空っぽの胃がグゥ~と鳴った。空腹が最高の調味料となり期待が高まる中、目の前に皿が置かれた。キツネ色の生地にバターがじんわりと溶けていく姿がたまらない。ナイフとフォークを構え、いざ食す!
「トレビア~ン!」
この店が使用するバターはフランス土産としても有名なブルターニュ地方のブランドバター「ボルディエ」。伝統的な製法で作られる最高品質のバターである。口どけの良いなめらかなバターの塩気とほんのり優しいブラウンシュガーの甘みのコンビネーションには悶えるしかない。しかし、糖分が脳に回ったその時だった......!
「ん...? てゆうか、これガレット? 四角く折られていないのも気になっていたけど......」
薄々感じていた妙な違和感にメニューを確認すると、なんと私はそば粉のガレットではなく、100%オーガニック小麦のクレープを頼んでいたことが発覚! ガーン!
フランスではガレットやクレープを扱う専門店を「クレープリー」と呼び、食事系(塩味)はそば粉の「ガレット」、デザート系(甘味)は小麦粉の「クレープ」で使い分けしているらしい。
自分のドジっぷりに呆けていると、追い打ちをかけるように目に入ったのは、店内のドアに書かれた「TOKYO」の文字。
「え、嘘でしょ? まさか、この店東京にもあんの......?」
はい。なんとこちらのお店、ブルターニュ地方に本店を持ち、フランス各所はもちろん、東京に5店、神奈川、名古屋、京都、福岡にもある有名店であった! ぐぬぬ!
「やっぱりパリは一筋縄では行かない!(笑)」
というわけで、日本のみなさん、ぜひ私のような苦労をなさらずとも日本でパリの味をお楽しみください。私もガレットリベンジに行きたいと思います。とほほ......。
残り3時間は、高感度なセレクトショップ「Merci」や、ボルディエバターも扱っている厳選食材の店「Maison Plisson」をチェック。街のスーパー「Franprix」で量り売りのサラダを買って、ダッシュで空港へ戻り、パリ弾丸20時間が終了した。
★旅人マリーシャの世界一周紀行:第276回「"美人大国"ベラルーシで美女と濃厚接触!」
●旅人マリーシャ(旅人まりーしゃ)
平川真梨子。旅のコラムニスト。バックパッカー歴12年、125ヵ国訪問。地球5周分くらいの旅。コラム連載は5年間半を超える。Twitter【marysha98】 instagram【marysha9898】
女子2人組ユニット「地球ワクワク探検隊」としても活動。YouTube配信や国内外各地のPR活動、旅先のお酒やお話を提供するイベント「旅するスナック」を月2回、東京・虎ノ門で開催。
【https://www.youtube.com/channel/UCJnaZGs8hyfttN9Q2HtVJdg】