1990年代後半にはやった、アメリカ版顔文字emoticonの「爆笑」にあたる X-D の顔マネ

『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は絵文字と顔文字について語る。

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"ライク"を語るコラムでいきなりこう言い出すのもなんですが、私は絵文字が苦手です。苦手、というか、理解してないし使いこなせていません。絵文字が普及したのは高校生だった頃で、本来は絵文字ネイティブと言っていい世代なはずだけど、いまだに受け入れきれてないです。

私のインスタグラムを見てもおわかりのとおり、( ̄▽ ̄)のような一世代前の顔文字をまだ使用してます。友人へのメールも同様。当時のアメリカには日本みたいにバリエーション豊かな顔文字がなく、emoticonという「:-)」や「:-(」 といった表現が一時期はやっただけ。中学生のときに友達と買ったemoticonがひたすら載っている本もほとんど無理がありました。

「X-D」が爆笑、絶妙にイラッとするおとぼけ顔の「:-o」 がびっくり、二重顎にしか見えない 「:-))」が満面の笑みなどなど......。この貧しい顔文字環境から日本に引っ越して知った、表現力抜群の♪(´▽`)やm(_ _)mの世界には特別愛着があります。

しかし、今や時代は絵文字。「:-)」止まりだったアメリカでも普及し、emojiと呼ばれて広く親しまれています。

苦手な理由のひとつに、意味がわからない絵文字の存在があります。ハートや星は問題ない。混乱するのは、赤色の「!」や「?」。「❤」のように相手に好意を示す効果があるわけでもなく、「☆」のように元気な印象を与えるわけでもなく、「!」がただ赤いだけ。わざわざ変換してまで入力した割には、送り手の意図がわからなすぎます。

赤だから注意? それともカラフルにしてポップさ=フレンドリーさを表現? 使う側に大した意味はないだろうけど、気になる。そもそも赤の「!」「?」だけなぜ作った。ひー。

同じように気になって仕方ない絵文字が、以前グーグル系端末にあったチーズバーガー。一見なんてことのないチーズバーガーだけど、よく見ると、上から、パン・レタス・トマト・パテ・チーズ・パン、とチーズが肉の下というありえない配置。

こんなのチーズバーガーへの冒涜(ぼうとく)。気になったのは私だけじゃなかったようで、大量の苦情によって順番が正されました。よかったよかった。

もうひとつ苦手な理由が、絵文字がまとう空気感。本来、「いいよ」で十分なはずなのに、「いいよ☀」とか、装飾がないと冷たく見えてしまう。実際、丁寧な文章で返信したのに、絵文字がないから怒っていると思われたことがあります(顔文字をつけたら古いと言われました)。

言葉だけでは真意が伝わらないほど絵文字が実力をつけてしまった。言葉、がんばれ。過剰じゃないと冷酷にとらえられてしまう絵文字文化、厄介です。

大げさで済まなかったケースもあります。アメリカでは、銃の絵文字を送りつけたことが恐喝と判断され、逮捕者が出ています。そう思うと、絵文字は新たな世界言語のようなものかもしれません。オープンソースで、使うたびにどこかの企業が儲かっているわけでもない世界共通資産。それでも私は顔文字を絶滅から救いたいです٩(ˊᗜˋ)و

●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。『白鯨』(原題:Moby-Dick)を絵文字だけで翻訳した『Emoji Dick』を読んだが、2ページ目で頭のネジが飛びそうになった。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!