多くの会社や飲食店の入り口には、アルコール消毒液が置いてある。しかし、正しい使い方をしている人は、あまりいないようだ。
そこで専門家にアルコール消毒液に関するさまざまな基礎知識を教えてもらった。これで新型コロナ第2波による拡大感染を防げ!
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■消毒液をつけたら1分間待つ!
日本の経済活動が段階的に再開されつつある一方で、全国の新型コロナウイルスの新規感染者数は再び増加傾向にある。
施設に入る際の手指のアルコール消毒など、「新しい日常」のルールは今も変わることはないが、消毒液のボトルをワンプッシュして手に取り......。
「ん? このアルコール消毒液って、どのくらいの量を取るのが正しいんだろう? けっこう、みんなバラバラなのだが......」
そんな疑問を北里大学大村智記念研究所ウイルス感染制御学研究室1の片山和彦教授に聞いた。
【1】アルコール消毒液の量は、どれくらいが適量なんですか?
片山 きちんと下までワンプッシュ。アルコール消毒液が下にたれないくらいで、手のひらも手の甲も全体が濡れるくらいの量を手に取ってください。
そして、手全体に塗り広げたらこすってはいけません。親指を中に入れ、手をグーにして1分間待つ。その後、塗り広げながら乾かしましょう。
――1分間って長いですよね。
片山 長いです。ただ、新型コロナウイルスの不活化の実験の最小単位が1分なんです。1分間のアルコール消毒液との接触で新型コロナウイルスの不活化の効果が確認できました。これが10秒で不活化するのか、30秒で不活化するのかはわかりません。ですので、1分間は待ってください。
【2】アルコール消毒液のアルコール濃度が高いともっと効果があったりしますか。
片山 実験は10%、30%、40%、50%、70%、90%の濃度で行ないました。すると、50%、70%、90%で完全に不活化できました。ということは50%以上であれば、新型コロナウイルスを分解できる。それ以上濃くても、もったいないだけです。
――そうですね(笑)。
片山 一般的なアルコール消毒液は、だいたい70%前後で作られています。それなら、ご家庭の水道水で1、2割薄めても大丈夫ですよ。
【3】50%以下のアルコール消毒液だと、効果はどうなるんでしょうか。
片山 50%以下だと、10分の接触でも不活化し残りがあり、完全に不活化できませんでした。
――じゃあ、ダメだということですね。最近はアルコール濃度の低い消毒液も売られているみたいなので、注意しなければいけませんね。
片山 そうですね。ひとつの目安としてボトルに「火気厳禁」と書いてあるかないかで判断するというのがあります。「火気厳禁」と書いてあれば、アルコール60%以上ですので、それを購入するといいでしょう。
【4】アルコール消毒液とせっけんでの手洗いとは、どちらが効果が高いんですか?
片山 固形せっけんではなく、市販の泡が出る薬用ハンドソープや台所用洗剤などを使って実験をしても効果は同じでした(ビオレu薬用泡ハンドソープ、キレイキレイ薬用泡ハンドソープ、ミューズ泡ハンドソープ)。
ですから、濃度の低いアルコール消毒液を使うくらいなら、市販の泡が出る薬用ハンドソープで手を洗ったほうがいいと思います。
【5】ハンドソープでの手の洗い方は?
片山 よく「爪の中まで洗いましょう」と言いますが、それはノロウイルスなどの場合です。ノロウイルスはアルコールやせっけん、洗剤で分解しないので洗い流すしかない。
しかし、新型コロナウイルスはアルコールや洗剤で壊れるので、爪の隙間や指の間に行き渡ればいいんです。1分ぐらい普通に手を洗ったら、ヌルヌルしなくなるまでお湯や水で流せばいいんです。あまりしつこくこすらなくても大丈夫ですよ。
【6】水で手を洗って、その後にアルコール消毒液をつけても問題ないですか?
片山 手が濡れていたら、アルコールが薄まってしまうので、いつもより多めに消毒液をかけたほうがいいです。乾いた手のほうがいいのは、アルコール濃度を保てるからです。
【7】ハンドソープには「除菌」「殺菌」「消毒」などと書かれているものがありますが、違いはなんですか?
片山 医薬品医療機器等法(旧薬事法)などで区別されています。「殺菌」「滅菌」「消毒」は、医薬品や医薬部外品に使う言葉です。
ハンドソープなどの雑貨品は、これらの言葉が使えないので、「除菌」「ウイルス除去」などと書かれています。雑貨品にも先ほどの泡が出るタイプのハンドソープなど新型コロナウイルスに効く成分が含まれているものもあります。
でも、わからなくなったら「殺菌」「滅菌」「消毒」と書かれた医薬品などを買っておけば間違いないと思います。
■次亜塩素酸水ではなく薬用ハンドソープ!
【8】新型コロナウイルスに対する消毒・除菌効果の有無が話題になっている「次亜塩素酸水」と、言葉が似ている「次亜塩素酸ナトリウム」との違いについて教えてください。
片山 まず、次亜塩素酸ナトリウムは、消毒に使える医薬品です。「ハイター」などの雑貨品として市販されている漂白剤でも代用できます。
新型コロナウイルスはノロウイルスよりも塩素消毒に強く、次亜塩素酸ナトリウムの場合、かなり濃い濃度でないと完全に不活化できません。
500ミリリットルのペットボトルにペットボトルのキャップ3杯分の漂白剤を入れて、ボトルいっぱいまで水を注ぐ。こうすると約1500ppm(0.15%)程度の水溶液ができます。これなら数万個以上の新型コロナウイルスで汚染されていても完全に消毒できます。
しかし、この濃度だとにおいが強いし、刺激で目もシバシバする。また、塩素は不安定ですぐに空気中に揮発してしまうので、使用するたびに作らなくてはいけない。さらに、次亜塩素酸ナトリウムは人体には使えません。
一方の次亜塩素酸水は、6月26日にNITE(製品評価技術基盤機構)が、35ppm以上の濃度がある次亜塩素酸水は新型コロナウイルスに効果があると発表しました。発表内容をよく読むと、まず表面の汚れを取り除いて、たっぷり使うとされています。
実は、私たちの実験結果もNITEの発表の中に含まれています。私たちの実験では不活化処理後にも、感染して細胞を全滅させるほどの新型コロナウイルスが残っており、洗剤のほうが効果が高く完全に不活化できる製品があるという結果でした。
私たちは、実験室で毎日新型コロナウイルスを扱っています。製品を販売する側ではなく、製品を購入して使うユーザーの立場に置かれています。ウイルス汚染部分のタンパク質、脂分などをできるだけ取り除いてたっぷり使うなど、いくつかの条件を満たさないと完全に不活化できない製品は恐ろしくて使えません。
私たちは実際、実験室でアルコール消毒液がない場合、泡の出る薬用ハンドソープや洗剤などを使っています。
【9】では、手指消毒についてほかに気をつけることは?
片山 今でもトイレで用を足した後に手を洗わない男性をよく見かけます。これだけ、手洗いの重要性を呼びかけているのにです。
「トイレの後」「外から帰ったとき」「食べ物を触る前」には、アルコール消毒液でも薬用ハンドソープでもいいので、手指消毒をしましょう。
それだけでも、新型コロナウイルス感染症をかなり防ぐことができますから。
【10】最後に、アルコール消毒液の品薄状態が現在でも続いているが、その理由はなんなのか? 「手ピカスプレー」や「手ピカジェル」を販売する消毒用アルコールのトップメーカー、健栄製薬に聞いてみた。
――アルコール消毒薬は今、月にどれくらい生産しているのですか?
健栄 アルコール製剤は、病院向け製品も含めて月に300万本以上生産しています。過去の今の時期ですと月に75万本程度でした。
――約4倍の生産量なのに、アルコール消毒液が手に入らない理由は?
健栄 各施設の備えつけアルコールを皆さまが使用するなど、単純に需要が増えているからだと考えられます。また、病院向け製品を生産することで手ピカジェルなどドラッグストア向け製品の生産量が落ちてしまうこともあります。
――いつ頃、手に入りそう?
健栄 これは、新型コロナウイルス感染症の流行の状況次第だと思います。弊社としては、引き続き増産を続けていきます。
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ここで安心するとすぐに第2波がやってくる。手指消毒を徹底して感染拡大を少しでも防ごう!