『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は各国のトレーニング動画について語る。
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4月上旬、「コロナ太り」という言葉に怯(おび)える私は久々にトレーニングを再開した。水泳はずっと続けていたものの、筋トレは4年ほどご無沙汰で、本来は気が進まないけど......誰もが以前よりふっくらした状態で再会するときに、ひとりだけプラマイゼロどころか引き締まってやろう!と内緒でテスト勉強をガッツリしてきた同級生のごとく、ひっそりと自宅トレーニングを始めました。
とはいっても、何からやればいいのか。この連載でも以前お話しした、80年代のエアロビのVHSテープでの運動は飽きてしまったので、いざ、YouTubeで検索。そこにあったのは、大量の自宅トレーニング動画の海でした。
やってみるしかない!とあまり深く考えず何種類か、まずは英語の動画に挑戦してみました。「あなたならできるわ!」「あなたはもう美しいけど、もっと強くなれる!」。
うげげげげ。私は美しくもなければ強くもなく、そして何より動きがまったくできていない、とアメリカ特有のポジティブにかえってひねくれる私。ハードルが高ければ高いほど、下に潜ろうとする悪いクセが出てしまい、気づいたらソファでダイエットサプリを検索していました。
次に試した日本語の動画は「痩せて好きな自分になろう!」「カッコよくなってみんなをびっくりさせよう!」「ノースリーブが似合うと言われる腕に!」と外見や他人の目に重点を置きすぎてるのが気になってしまう。
多くの動画を見たんですが、同じような傾向のものが多く、運動時の背中の押し方に文化の違いを感じました。そして、私はいつからこんなに面倒くさい人になったんだろう、と落ち込んでパイの実をひと箱食べた。
鍛えたい体の部分の呼び方にも違いがありました。英語圏では、"love handles"(ウエスト回りの余分な脂肪)や"six pack"(6つに割れた腹筋)など、部位を指すスラングを使うことが多い。
お気に入りは、"muffin top"。カップの上から生地がぽこっと盛り上がっているマフィンのように、パンツの上からはみ出した贅肉(ぜいにく)をかわいく厳しくこう呼びます。同じように、外モモの脂肪を"saddlebag"と呼びますが、これは馬の鞍(くら)の両脇から垂らす袋にちなんでいます。
ざっくりしたスラングと思いきや、これらを撃退するためのトレーニングが細かくあり、専門用語と化しているのが興味深いです。日本語では、二の腕のことを"振り袖"と呼んだり、背中のハミ肉を"ボンレスハム"と弄(いじ)ることはありますが、詳細にそれがどの部位を指しているかまでは決めていない気がします。
さて、あれから数ヵ月。私はほぼ毎朝、リビングで1時間半ほど運動をしています。
たどり着いた方法のひとつは、英語の動画の音を消し、ポジティブメッセージを聞かずに同じBPMの好きな音楽を代わりに流す(Berryz工房とThe Doors率が高い)こと。
もうひとつは、20パーセントくらいしか言ってることがわからないロシア語の動画。モチベーションを上げる言葉ではなく、"Быстрее"(早く!)と低い声でただただ命令されるのが性に合うみたいです。
●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。13歳で体重130㎏だったいとこに追いつかなかったくらい足が遅い。公式Instagram【@sayaichikawa.official】