どすこい

『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。先週に続き、相撲ファンの彼女が七月場所について語る。

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先週は、感染防止対策を徹底した厳戒態勢下での七月場所の観戦体験を語りましたが、今週は肝心の相撲についての独り言です。

まずはなんといっても、照ノ富士関の復活優勝! すでに多くのメディアで取り上げられていますが、照ノ富士は左膝の古傷の悪化により2017年に大関から陥落。その後、3度の手術や糖尿病、C型肝炎などに苦しみ、序二段まで番付を落としました。

大関経験者が序二段まで落ちるのは初めて。そこからはい上がり、七月場所でついに幕内に復帰。その復帰の場所で見事優勝し、相撲史に残る復活劇を見せてくれました。

この優勝の裏にある努力と苦難は想像を絶します。気力を失わなかった姿は、相撲界のみならず、苦しんでいる多くの人への強い希望になるだろうし、ちょっとしたことでいじける自分への喝になった。

ヘタレな市川にさえ"諦めない心"がつきそうな熱い物語ですが、それをさらに熱くするのが、兄弟子の照強(てるつよし)の活躍です。14日目、照強の相手は新大関・朝乃山。自身にとって初の結びである上、勝ち越しがかかっていました。

さらに、2番前に照ノ富士が正代(しょうだい)に敗れたので、自分が負けると朝乃山がトップに並ぶ状況。そんなプレッシャー大な一番に、169㎝の小兵らしい奇襲戦法で攻め、朝乃山を鮮やかに下しました。

照ノ富士を援護射撃したい気持ちが強かったらしく、インタビューでは「伊勢ヶ濱軍団として、親方のためにも援護できれば」と、部屋を盛り上げたかった意思を語った照強。「『軍団』ってヤンキーかよ」と突っ込みたかったと同時に、シビれました。

「敗者への礼儀がない」という批判もあるようですが、日馬富士(はるまふじ)の引退や、照ノ富士のケガなどで一時の勢いを失った部屋を見てきたファンとしては、素直にじんときました。

元・旭富士の伊勢ヶ濱親方が審判部長として照ノ富士に優勝旗を手渡し、土俵下には同部屋の呼出の照矢が控える。勝手ながら部屋の絆に思いをはせ、目を潤ませた親方にもらい泣きをしました。

この連載でたびたび取り上げている安治川親方(元関脇・安美錦)も所属している伊勢ヶ濱部屋は、若手も盛り上がっています。特に、十両の翠富士(みどりふじ)の活躍が目立ちました。

例えば9日目の朝弁慶戦。172㎝の翠富士が肩を透かしながら191㎝の朝弁慶を完全にコントロール。回り込むとき、まわしをつかんで跳びながら全体重で揺さぶったように見えて、細かい動きに興奮しました。

千秋楽では、185㎝の大奄美(だいあまみ)に抱え込まれてしまって、体も上から押さえられたキツい体勢に。翠富士は耐えながら足技を仕掛けようとするも通用せず、1分経過。土俵際まで追い込まれながらしぶとく残し、豪快に下手投げ! 両者とも勝ち越しがかかっていた約1分半の熱戦。沸かせてくれました。

小さい体からは想像もつかない豪快な相撲が持ち味の翠富士。序ノ口と序二段のときは、同部屋同期の錦富士との同点決勝が話題になりましたが、ふたりでさらに上り詰めてほしいです。

幕内では、2桁勝った力士と、大負けした力士の両極端が目立った七月場所。九月場所ではどんな流れになるのか目が離せません。

●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。十両の優勝決定巴戦で戦った明生と豊昇龍が、明生の優勝決定直後に花道でハグしていたのを思い出すと、よく寝られる。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!