全国に170店を展開する中津唐揚げの雄「鶏笑」のからあげ弁当(もも+むね)580円。もも唐揚げはサクサクした衣の中から肉汁があふれる絶品。むねはパサパサ感がなく、ふんわりとした噛み応え。写真はテイクアウトの弁当で、唐揚げは4個入りで580円とコスパも十分

コロナショックは飲食店にも波及したが、そんな時代の波に乗って急増しているのが「唐揚げ専門チェーン店」だ。大手外食企業もどんどん参入し、競争が一気に激化。その現状と未来をサクサクッと見ていこう!

※記事内の価格はすべて税別です。また、価格は店舗によって異なります。

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■唐揚げはチェーン店との相性がピッタリ

唐揚げ専門のチェーン店が増えている。

ブームの先駆けとなったのは唐揚げ定食を看板商品とする「からやま」(アークランド系)と「から好し」(すかいらーくグループ)。それぞれ全国に約100店舗を展開する。一方、今年に入ってからも大手外食企業の参入が続く。

ワタミが手がける「から揚げの天才」は6月以降に40店舗を新規開店し、9月10日時点で関東と近畿に計47店舗を構える。さらに7月には「オリジン弁当」でおなじみのオリジン東秀も「唐星」の1号店を埼玉県にオープンさせた。

「唐星」オリジン東秀が手がける唐揚げ店で、現在は西浦和の1店舗のみ

唐星定食(4個)600円。定食につく香味野菜タレ、胡麻にんにくタレや卓上マヨネーズで味変が楽しめる。今後の展開に期待

なぜ今、唐揚げチェーン店が増えているのか? 「唐揚げにはチェーン展開しやすい要素がいくつもある」と語るのは、『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』(扶桑社新書)の著者、稲田俊輔氏だ。

「まずは、調理が簡単で誰が作っても味に大差がないという点。オペレーションをマニュアル化しやすいので、チェーン展開に向いている料理といえます。

また、唐揚げは仕入れ原価の面から見ても魅力的。そもそも鶏肉は安くなるほど水っぽくて柔らかくなる傾向にあるので、焼き鳥やチキンステーキにすると鶏肉の質に味が大きく左右されます。ところが唐揚げにすると、むしろその特徴が噛んだときのジューシーさにつながるため、安い鶏肉にぴったりの調理法なのです」

もちろん、中食(なかしょく)需要の拡大も大きい。日本唐揚協会認定カラアゲニストの松本壮平氏はこう語る。

「揚げ物は家で作ろうとすると手間がかかる。その意味で、唐揚げはテイクアウトやデリバリーと親和性の非常に高い料理なのです。今はやりのゴーストレストラン(実店舗を持たずにデリバリー販売のみを行なう業態)でも、唐揚げ専門店が増えています」

「東京からあげ専門店あげたて」デリバリー販売限定のゴーストレストラン。今年に入って急速に店舗を増やし、現在100店を超える。自家製明太マヨ からあげ5個 980円。明太マヨ、タルタルチキン南蛮、超濃厚ねぎ塩などさまざまな味を楽しめる

とりわけ、ゴーストレストラン「東京からあげ専門店あげたて」の勢いは著しい。サービスを開始したのは昨年12月だが積極的な出店攻勢をかけ、9月10日時点で100店舗を超えている。

前出の稲田氏も、中食需要の高まりに注目する。

「定食屋の場合は昼夜のピークタイムにお客さんが集中してしまい、客の少ないアイドルタイム中は売り上げが立ちにくいという難点がありました。

ところが唐揚げならその空白時間をテイクアウトやデリバリー販売が埋めてくれるので、ビジネスモデルとして隙がない。その意味で、唐揚げ専門店は飲食業界のなかで今最も注目されている業態なのです」

■ご飯が進む「からやま」。お得すぎる「から好し」

「からやま」。「かつや」で知られるアークランドの子会社が運営する唐揚げ定食店

というわけで、そのブームを体験すべく記者はまず「からやま」に向かった。

平日19時過ぎに訪れたところ、入り口にはテイクアウト待ちの列が。店内は牛丼チェーン店のようなカウンター席のほか、背もたれがあるテーブル席も用意されており、グループでも訪れやすい雰囲気だ。

からやま定食(竹)780円。大きめの鶏肉に食べ応えがある硬めの衣がついた唐揚げと、とろろ昆布のみそ汁が特徴的だ

注文したのはオーソドックスな「カリッともも」と期間限定の「赤カリからあげ」が2個ずつのった「合盛り定食」(690円)。無料ということでご飯は大盛りにした。待つこと3分、いざ実食!

カリッとももはクセがない醤油ベースのもも肉の唐揚げで、噛むと脂がじゅわっと口に広がる。一方、赤カリは見た目ほど辛味は強くなくて、どちらもおいしい! しかし、それにもまして目を奪われたのは、卓上の壺に入っているイカの塩辛や、みそ汁に入っているとろろ昆布だ。

「これこそが、からやま最大の特徴です。原価を下げることを考えれば必ずしも必要ではないイカの塩辛やとろろ昆布、さらに卓上に常備してあるマヨネーズからは『お客さんにご飯をモリモリと食べてもらいたい』という、からやまの理念をひしひしと感じます」(前出・稲田氏)

このほか、同系列の「かつや」でおなじみの割り干し大根の漬物も卓上に。これらをフル活用してご飯も堪能し、満足して会計をすると次回使える100円引きクーポンを渡された。690円でも十分納得できると感じたのに、次回はさらに割引してもらえるとは恐るべし!

「から好し」 からあげグランプリ3年連続金賞受賞の唐揚げを引っ提げた定食店

次に訪れたのはすかいらーくグループの「から好し」。お昼時に訪れたところ、カウンター席だけの店内はサラリーマンでほぼ満席。店員さんに「ももから揚げ」2個と「甘とろから揚げもも」2個の「合盛り定食」(650円)をオススメされたのでこれを頼む。

これまたご飯大盛り無料と、食欲旺盛な男にはありがたい限りだ。甘とろは衣から肉まで甘じょっぱいタレが染み込んでいて、ご飯によく合う。一方で、オーソドックスなももから揚げは自分の舌が鈍いのか、からやまと大差ないようにも感じる。

から好し定食(もも5個)690円 醤油ともろみで下味をつけた鶏肉は弾力がある。もともと安いのに、割引クーポンが手厚いのがうれしい

「実はどのチェーンも、定番の唐揚げ自体にはそれほど大きな差はありません。個性的な味にしすぎると万人受けしなくなってしまいますし、味についてはほとんど完成形に近いですから。

だから唐揚げ以外の部分で差別化を図っているんです。から好しの場合は、からやまの『ややコストの高いこだわり』を捨て、より合理性を追求している点が特徴です」(稲田氏)

定食にはニンニクダレとレモンがつき、卓上にはマヨネーズと割り干し大根が常備されているが、塩辛やとろろ昆布のみそ汁はなく、確かにからやまと比べるとやや寂しい印象だ。

とはいえ、合理性を追い求めた結果は値段にも反映され、両チェーンとも定番である「唐揚げ4個の定食」で価格を比較すると、からやまの690円に対し、から好しは590円と100円も安い。

さらに店内でしきりに宣伝されているすかいらーくのアプリをインストールすると、140円の「手羽先から揚げ」が50円になる(個人的には)破格のクーポンが配布。さらに会計時にも次回50円引きクーポンを渡された。もともと十分安いので、なんだかこちらが申し訳なくなるほどだ。

■唐揚げチェーンはどう変わる?

「から揚げの天才」唐揚げ+卵焼きという新機軸!

続いてやって来たのは「から揚げの天才」。テリー伊藤氏がプロデュースする卵焼きがウリで、店舗入り口には同氏の人形が。それならばと、からあげ3個+卵焼きの「からたま定食」(628円)をオーダー。

唐揚げは白、黒、赤の3種の味から選べるので、各1個ずつにした。白はだしと塩麹、黒は黒醤油、赤は辛みそで味つけされている。薄口のからやま、から好しと比べるとかなり濃いテイストだが、甘口の卵焼きと交互に食べれば箸が止まらなくなる絶妙な組み合わせだ。

からたま定食 デカから3個 628円 からたま定食は3種類の唐揚げから自由に組み合わせを選べて、さらにこだわりの卵焼きがつく。定食にプラス99円でみそ汁がお酒に替わり、お手軽ちょい飲みセットとなる

ご飯を食べながらメニュー表を見て、味の濃さにはもうひとつの狙いがあることに気づいた。

定食料金に追加99円で、みそ汁をハイボールかレモンサワーに替えられるのだ。卵焼きも味の濃い唐揚げも、間違いなくお酒に合う。定食屋に特化しているからやま、から好しと違い、居酒屋気分でも利用してもらおうという戦略のようだ。

「居酒屋を主力事業とするワタミ系列らしい戦略です。宴会需要が減少し大打撃をこうむったワタミは、『から揚げの天才』を来年3月までに全国100店舗に増やす予定と発表しています。それだけ、唐揚げ業態の収益性に期待しているということでしょう」

(前出・稲田氏)

では今後、唐揚げチェーン戦争はどのような展開を見せるのだろうか。

「先ほどお話ししたように、唐揚げ自体の味では差別化しにくいという弱点があります。なので、定食につくタレを工夫したり、唐揚げ+カレーのように既存の料理との組み合わせが多様化すると予想しています。その先駆けが、卵焼きと組み合わせた『から揚げの天才』ですね。

十分な収益性があるので、まだまだ大手飲食が今後参入することもありえると思います」(前出・稲田氏)

コロナ時代にもマッチした唐揚げ専門チェーン店。これからも目が離せない!

小僧寿し系列のテイクアウト専門店 元祖からあげの中津家 マルキン醤油 唐揚げ5個 660円 醤油、ショウガ、ニンニクベースのマルキン醤油唐揚げは、その風味が肉までしっかりと染み込んでいる。ほかにも油淋鶏やチキン南蛮、辛口の「赤からあげ」といった商品をそろえる