『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。前回に続き、アメリカのご当地バーガーについて語る。
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筋金入りのハンバーグ派の私なのに、なぜか「グ」ではなくハンバー「ガー」の回が続いているこの連載。バーガーで引っ張りすぎ?と不安を感じつつも、今週もアメリカのご当地バーガーの話題をお届けします。
先週は地域の産業や特産品が背景にあるバーガーを紹介しましたが、移民の食文化の影響を受けたバーガーも少なくありません。そのひとつが、マイアミのキューバンフリタです。
その名のとおり、キューバでよく使われるクミンやパプリカなどがパテに練り込まれており、スパイシーな味わい。低温でじっくり焼いたパテと、粗みじんのタマネギ、極細のスティック状のポテチ、そして辛いケチャップをのせます。バンズの代わりに長方形で柔らかいキューバンロールを使い、ハバナの屋台料理の影響を色濃く反映。
最近はプエルトリコ料理の要素が加わり始めており、私が食べたものはプエルトリコのバナナパンが使われてました。思いのほかポテチの細さがポイントで、食感のアクセントになっている箇所と、肉汁とソースを吸ってジャガイモ返りしている箇所があって最高でした。
続いてはテキサス州南部のサンアントニオビーンバーガー。特徴はトッピング! パテの上にみじん切りのタマネギ、リフライドビーンズ、チーズウィズというチーズもどき、フリトスチップス、と具材たっぷり。
リフライドビーンズは、うずら豆を潰(つぶ)した南米料理の定番食材なので、使用することによってバーガーとブリトーのハイブリッドのような異文化交流バーガーの様相に。メキシコ移民の食文化が反映されている上、チーズとチップスにも地域性や時代性があります。
フリトスは今でこそ全国的に有名なスナック菓子ですが、もともとはサンアントニオ市発祥。チーズウィズはスプレー缶からオレンジのチーズ的な何かが出てくるとんでもないやつで、テキサス生まれではないものの、サンアントニオビーンバーガーが誕生した1950年代では最先端の食べ物。
生みの親は、当時イケてた加工食品をふんだんに使うことにこだわったそうで、結果として、あの時代のあの場所でしか生まれなかっただろうご当地バーガーが完成しました。ちなみに加工食品に対する意識が変わった現代では、チェダーチーズと自家製のコーンチップスを提供しているお店も多いそうです。
もうひとつ、ミシシッピ州北部のスラッグバーガー。こちらは大豆かすが混ざったパテを焼かずに揚げる調理法が特徴。カリッと香ばしくうま味たっぷりのようですが、このバーガーが誕生したのは1920年代。大恐慌のなか、限られた肉を有効活用する目的で、家畜の餌だった大豆かすでかさ増しし、揚げることで満足感アップを狙ったとか。
名前の「スラッグ」は5セントのスラングだったそうで、5セントで買えるバーガーという由来も印象的。想像では、バーガーよりメンチカツサンドに近いのかもと食好奇心がそそられます。揚げ物万歳。
これら以外にも、ニューメキシコで州を挙げて推しているグリーンチリバーガーや、パテをゆでて作るポーチドバーガーなど、個性的なバーガーがまだまだ存在します。食べたら報告します。
●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。地元デトロイトのご当地バーガー、オリーブバーガーはバーガーキングが地域限定で出すくらいなじんでるのに、一度も食べたことがない。公式Instagram【@sayaichikawa.official】