19世紀の世界地図で見つけた、幻のコング山脈

『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は19世紀の世界地図に見つけたフシギについて語る。

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予定していた旅や海外ロケがなくなったため、気づけば昨年11月のアメリカ帰省以来、ずっと日本にいます。こんなに続けて日本にいることは初めてで、放浪癖がウズウズむずむず。

解消になるかなと、地図をよく眺めますが、最近は古い地図にまで手を出してます。東京の古地図に数年前にハマりきった私が行き着いたのは、古い世界地図。世紀ごとに見比べて、ぼんやり国境の変遷を観察してます。

そんななか、19世紀の世界地図に見つけたフシギ。アフリカ大陸を見ると、中央付近を西海岸から東海岸まで真っすぐ横切る巨大な山脈が。名前は、「Mountains of Kong」。ん? コング山脈!?

アフリカを真っぷたつに分けるようなこの山脈、ギニア共和国からエチオピアまで延びているので、ざっと4800㎞以上あることになるけど、地理好きを自認する私なのに、恥ずかしながら一度もこの山脈の名前を聞いたことがない。「今は違う名前で呼ばれているのかも?」とも思ったが、そもそもこんな大陸の特徴になるレベルの巨大山脈の存在自体、初めて知った。

以前ザンビアに行った際にアフリカ大陸の地図を散々眺めたけど、古地図のほうが簡素だから初めて目についたのか......。とリサーチしたら、まさかの事実が判明しました。

コング山脈、堂々と地図に描かれていたものの、実在しない山脈でした。私が見た地図だけでなく、19世紀欧州で発行されたほとんどの地図に載っていた誤記で、当時は存在すると思われていたそう。

発端は1798年。地図製作者のジェイムズ・レンネル氏が、探検家の証言と自身の仮説を合わせて、自信満々でコング山脈を書き込みました。そこからほかの地図に広まり、広大で越えるのは恐ろしいという噂も拡散。難所だと信じた西洋人はあえて近寄らなかったようで、誤解はなかなか解けなかったのです。

コング山脈を命がけで横断した!という嘘の証言も少なくなく、「山頂の色は青くて美しい」というスーパーホラ吹き探検記も出現。誤りが暴かれたのは100年後の1889年。

探検家のルイ・バンジェールが現地を探索して、丘さえなかったことをパリ地理学協会で発表し、それ以降の地図からコング山脈は消えました。地図に何か足したことで名を知られている探検家がほとんどのなか、バンジェールは地図から何かを抹消させたのが功績、というまれな存在。

似たような例では、オーストラリア北東のサンディ島。こちらも100年以上海図に掲載されて後に実在しないことが判明。2012年にはなぜかグーグルマップに載るなど、今でも人を惑わせています。

意図的なケースでは、ニューヨーク州のアグローという町があります。実在しないこの町を、ある地図メーカーが盗作テストとしてあえて地図に掲載したところ、他社の地図にも載るようになったそうです。

地元民が遊びで「アグロー」の看板を立てたところ、現在は珍スポットとして広く知られています。一時期「ファントムタウン」とグーグルマップに載ってましたが、もう消されたようです。

引き続き地図パトロールしますので、発見があったらまた報告します。

●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。高校生の頃、アメリカ中西部の道路地図を買ったら、何も載ってない白紙の不良品だった。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

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