池袋暴走事故の初公判のニュースを見て、年々頑固になっていく父親を自分なら説得できるだろうかとふと思った人もいるはず。普段からどのように接しておけば、いざというとき役に立つのか。アンケートの意見をもとに考えてみた。
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■父親に関するいろんな悩みを大アンケート!
池袋暴走事故の初公判に怒りを感じながらも、もし自分ならこんな父親を説得できるだろうかと感じた人もいるのでは。免許返納問題しかり、酒をやめない、病院に行かない......。年々頑固になっていく父親を、事態が大ごとに発展する前に説得できる自信はみんなある?
というわけで、20代、30代男性200名へのアンケート調査を実施。頑固な父親の困ったエピソードをもとに、今からできる父親との上手な関係性の構築法を考えてみた。
■年を取るとなぜ「頑固」になる?
アンケートによると、4人に1人が以前より父親が頑固になったと感じているという結果。そもそも父親が「頑固」になる理由について、認知症の専門外来と在宅医療を行なう医療法人ブレイングループの理事長・長谷川嘉哉先生はこう説明する。
「大きな理由は『脳の前頭葉の衰え』です。前頭葉機能は40代からゆっくりと低下し、50歳前後で大きく衰えるのが一般的。理性的な判断がしづらくなると共に感情の抑制が苦手になるため、周囲から見るとどう考えてもまっとうな意見をなぜか受け入れない、いわゆる『頑固』という状態になると考えられます」
医学的な理由があることを大前提として、父親との関わり方を考えていくのがベストだ。
【接し方 その1】免許返納をしてくれない
まずは、話題になっている「運転免許返納問題」について。「父親の免許返納を説得するのは難しい」と感じる人(33.5%)が、感じない人(29%)を上回るという結果になった。
「父親に免許返納を勧めたところ、老人扱いするなと逆ギレ。それ以降、免許返納の話題を出すと口もきいてくれない」(愛媛県・35歳)
など、頑固親父に免許を返納してもらうのは簡単ではなさそう。
その父親の心理について、明星大学心理学部准教授で臨床心理士の藤井靖氏はこう解説する。
「突然免許返納を促されるのは、本人からすれば晴天の霹靂(へきれき)。定年退職のように心の準備期間があるわけではないため、長年運転してきた人が簡単に受け入れられないのは当然といえます」
では、どのように伝えれば、父親は快く免許返納をしてくれるだろうか?
「親からすれば、子供はいつまでも自分が面倒を見るべき対象。子供のお願いは受け入れにくい傾向があります。孫などから『危ないから運転をやめてほしい』と伝えてもらうのが一案です。
また、車を運転する必要性を取り除いてあげることも方法のひとつ。子供や孫が『免許を取ったからこれから病院への送り迎えするよ』と言った途端あっさり運転をやめた。電車やバスのタッチ決済を覚えたことで免許を返納したという例もあります」(藤井氏)
ちなみに、安全運転ができているうちはまだいいが、すでにサイドミラーやバンパーをぶつけるなど、事故の前兆が発覚している場合は? 介護ジャーナリストで『オールアバウト』ガイドの小山朝子氏に聞いてみた。
「家族としては強く叱りたくなる状況ですが、こういうときこそ丁寧に。年齢のせいにするのではなく『視力が低下しているから標識が見えづらくなっているかもしれないね』など、身体能力の低下を具体的に伝えることが大切です。また、車の傷を一緒に確認したり、父親の運転する車に同乗して危険を伝えるなどするのも効果的です」
取り返しのつかない事故を起こしてしまう前に、日常的に心配する気持ちを伝えていくことが大切なのだ。
【接し方 その2】健康の話になると怒りだす
ほかにも、頑固親父に悩まされるシーンは多数。多く届いたのは、健康の話題を出した際のトラブルだった。
「もういい年なのに、どうしても生命保険に入ってくれない。父いわく『生命保険に入った瞬間に死ぬ』とのこと。先日も家族で話しているときに生命保険の話題を出すと、『おまえたちはオレが死んだほうがいいのか!』と涙目になり、自室にこもってしまいました」(千葉県・27歳)
「人間ドックに行ってくれません。もう60近いし、とりあえず病院に行ってほしいというのが家族の思いですが、それを言うとすねてしまうので、かなりやっかいです」(大阪府・26歳)
健康問題は父親の中でネガティブな妄想が始まることも多く、慎重に切り出さなくてはいけないと語るのは、前出の藤井氏。
「中高年の方が趣味にする登山やゴルフなどではなく、テニスなど持久力と瞬発力の両方が必要なスポーツに誘ってみて、若い頃との違いを顕著に実感し自分の衰えに気づいてもらうのが手です。やがて健康に対する意識も変わっていくでしょう」
一緒にスポーツをすることでコミュニケーションも取れ、体力の衰えも実感してもらう。これは一石二鳥かも。
【接し方 その3】酒をやめてくれない
「コロナの影響で、外で飲む機会は減ったものの家では毎日がぶ飲み。いくら注意しても聞く耳を持ちません。去年の暮れには、とうとう黄疸(おうだん)が出ました。それでも禁酒したのはたった2週間だけです」(東京都・30歳)
健康に影響が出てもなお酒をやめない父親について、前出の藤井氏からはこんな提案が。
「自覚を促すために、リビングのカレンダーに酒量の記録をつけて"見える化"してみては。量が少なかった日には、『今日は少なかったね』と、好きなおかずを食卓に出してあげるなど母親にも根回しして、心理的な条件づけで行動を定着させましょう」
【接し方 その4】自分のルーティンを変えたがらない
「父親にやめてほしいが、やめてくれない習慣や行動がある?」という質問には半数近く(49.5%)が「ある」との答え。なかにはこんな厄介なルーティンも。
「父のマイルールで『朝ご飯は家族一緒に食べる』というのがあり、どんなに深酒をした翌朝も、朝ご飯を食べたくない気分のときも、絶対に家族そろって朝ご飯を食べる習わしがあるわが家。それが破られると、1週間くらい口をきいてくれないこともあってかなり面倒......」(佐賀県・25歳)
地味に面倒......。どのように説得すれば、こうしたルーティンを変えてくれるのだろうか?
「古い習慣を捨てさせるためには、新しい習慣を形成させ、そちらのほうが楽しいと思わせるのが有効。ホテルの朝食券をプレゼントし、父母で行ってもらうなど、外で朝食を食べるよさを経験してもらうなどが第一段階です」(藤井氏)
【接し方 その5】怒りっぽくなった
「昔から酒が入ると、怒りっぽくなる親父。しかし、最近は酒が入っていなくても毎日イライラ。先日も、親父が電球を替えようとイスに上がっているときに、倒れないようイスを押さえてあげたら、キレられました。心配されたり、老人扱いされることがいやなようです」(兵庫県・29歳)
というように、些細(ささい)なことで怒りだす父親に困っている息子も多い。前出の藤井氏はこう解説する。
「実は、お酒が入った状態と加齢に起因した怒りっぽさのメカニズムは共通していて、理性をつかさどる脳の前頭前野がうまく利かなくなっている状態です」
では、どう接するべき?
「本人がドキドキするような刺激的な体験(ギャンブルやアイドル・女優への疑似恋愛など)をオススメしてみては。前頭葉に刺激を与えることで感情の老化を食い止めることができるかもしれません」(藤井氏)
荒療治としてはアリかも。
【接し方 その6】うまく整理ができなくなった
「最近、父が頻繁に車のキーをなくすようになった。『同じ場所に置いておけば』と言っても『大丈夫だ』と言って逆ギレ。そして、またどこかへ置いてなくしてしまいます」(埼玉県・29歳)
年を取るにつれ、「整理ができなくなった」「物をすぐになくすようになった」という父親も多いようだ。このケースの対策として藤井氏はこう語る。
「生活環境を整備することで失敗を予防する方法がよいでしょう。例えば、ベルトに固定できるオシャレなキーケースをプレゼントしたり、少ない手数で整理できるもの(扉やフタがないボックス、細かな区分けの必要がない収納棚など)をさりげなく玄関に置くなどして、物を収納する環境を整えてみてはいかがでしょうか」
【接し方 その7】いやなことをしようとしない
最後に、こんなご時世ならではのエピソード。
「実家の父がマスクをいやがり、母が困っています。近所のスーパーやコンビニに行くときにも一切マスクをせず、『ひと言も話さないから大丈夫だ』と言い張っているそうです」(大阪府・33歳)
このケースについての藤井氏の解説は。
「『いやだ』という感情的反応に対して、『マスクは感染予防なのだから』と論理的に説得しようとしても、まずうまくいきません。『気持ちはわかる』と本人の感情を肯定しつつ、『中高年はコロナで重症化のリスクがあるから心配』と真剣な顔をしながら繰り返し伝えてみましょう。いずれボディブローのように心に響いてくるでしょう」
強要するよりも、じわじわと感情に訴えかけていくほうが、頑固親父には効果的のようだ。
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どの問題においても、まずは「父親の気持ち」を理解することが大事。普段からコミュニケーションを取って、頑固親父とうまく付き合っていこう。