チャップリンが『スター・ウォーズ』を見ていたら、この人をどう思ったのか チャップリンが『スター・ウォーズ』を見ていたら、この人をどう思ったのか
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は"時間の感覚がザワザワする事柄"について語る。

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パンデミックのなか、友人がカナダのバンクーバーに引っ越しました。ただでさえ不安な時期での新生活。心配して連絡をしたら、一番苦労しているのは「ドアノブがないこと」。

バンクーバー市は2014年、バリアフリーの観点から新築の建物に丸い形のドアノブを設置することを禁止したそう。アンティークの丸いドアノブを取りつけた直後に法律を知った友人が、レバーに戻そうとしても元に戻らず、ドアがパカパカ開くノードアノブ生活に。個人宅だし「こっそり丸いものを使えばいいのにな」と思いつつ、ふとドアノブについて考えてみました。

回すドアノブの廃止は広がっており、いい動きとはいえ、これほど長く使われたものが禁止されるのは、ある意味すごいこと。と思いきや。調べると、回すドアノブが誕生したのは19世紀末と案外最近でした。

それまでは、レバーや閂(かんぬき)が主流。実は歴史が浅いドアノブ、このままなくなれば建築の伝統が消えるのではなく、たかが150年ほどあった部品が使われなくなるだけ。

以前、携帯の普及で固定電話がなくなっていくのが感慨深かったんですが、各家庭に電話がいきわたったのは1970年代前半らしいので、「家電ってそもそも、歴史が数十年しかない一瞬のはかない存在なんだ」と小さく動揺した経験を思い出しました。

同じように、時間の感覚がザワザワする事柄を探してみました。まずは、同時代のライバルの印象が強いステゴサウルスとTレックスは、生息時期が8000万~9000万年空いていること。

ステゴサウルスが生息していたのは約1億5000万年前で、Tレックスが生きた白亜紀末期は約6800万年前とされているので、Tレックスはステゴサウルスより私たちのほうに近いことになる。大学時代にこれに気づいたときは脳が混乱した覚えがあります。

似たような感じで、69BC~30BCに生きたクレオパトラは、約2550BC~2490BCに建てられたピラミッドより、07年の初代iPhone誕生のほうが近いこと、とか。クレオパトラがイメージより最近なのか、ピラミッドが古いのか。思考が追いつかないです。

さらに、映画黎明(れいめい)期を支えたチャップリンが『スター・ウォーズ』を見た可能性があること、を思いつきました。『スター・ウォーズ』の1作目は1977年の5月25日公開で、チャップリンが亡くなったのは同年の12月25日。

実際に見たという記述は見つかりませんでしたが、ちょっと早送りっぽい白黒映画のチャップリンが、『スター・ウォーズ』の特殊効果を見ることが可能だったこと自体が不思議です。どんな反応をしたのか、妄想が膨らみます。

マッチとライターの関係性も、時間の感覚がおかしくなります。より原始的なイメージのマッチですが、発明はライターの約50年後(諸説ありますが、ライターは1772年に平賀源内が発明したとされている)。

われわれが思うライターとマッチの形状とは違うかもしれませんが、時の流れがおかしいシリーズに認定しました。「マッチの前、人は何を使って火を起こしていたのか」の答えは、ライター。この脳が取り乱す感覚、クセになりそうです。

●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。あやや(松浦亜弥)と高橋愛ちゃんが同い年だと気づいたときも驚いたけど、誰にも共感してもらえない。
公式Instagram【@sayaichikawa.official】

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