口や鼻、目、腸などの粘膜が"体のバリア"となってウイルスの侵入を防いでくれる――。最新の栄養医学に基づく「オーソモレキュラー栄養療法」で、さまざまな病気や不調の改善に取り組んできた医師の溝口徹氏が、『ウイルスに強くなる「粘膜免疫力」』(青春新書)を刊行。
今まさにウィズコロナの冬を迎えた日本で、ウイルスに抗(あらが)う「粘膜免疫力」を高めるにはどうしたら!? 溝口先生を直撃した!!
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――免疫力を高める上で、なぜ「粘膜」が大事なのでしょう?
溝口 人間の体にはウイルスや細菌といった外敵の侵入を防ぐ仕組みが備わっていますが、特に口や鼻、目、腸などの粘膜は常に外敵が侵入してくる危険にさらされ、それを最初に防ぐ役割を担っているのです。
人体を城にたとえると、城壁が粘膜で周囲の堀にある水が「粘液」にあたります。粘膜からベトベトした粘液がちゃんと分泌されていれば、ウイルスや細菌は粘膜まで到達できず、鼻水や涙と一緒に排出されます。
また、粘液層の中には抗菌たんぱくというウイルスや細菌を殺す作用を持つたんぱく質が分泌されています。しかし粘膜の機能が落ちると、この働きが十分に行なわれず、咽頭(いんとう)や鼻腔(びくう)にウイルスが到達して増殖し、PCR検査で陽性という人が出てしまうわけです。
――その粘膜免疫力を高めるために重要なのが栄養、つまりわれわれの食生活がカギになるのでしょうか?
溝口 私が20年ほど取り組んでいる「オーソモレキュラー栄養療法」の考え方では、体の栄養が不足してくると、細胞の入れ替わりの早い組織がまずトラブルを起こします。その代表的なものが粘膜です。
例えば、朝食に味噌汁を飲んで口の上あごをやけどしても、夕方にはもう治りはじめていますよね? 粘膜など、外界と接する体の組織はそれぐらい入れ替わりが早いのです。
その分、栄養が不足すると影響を受けやすいのも粘膜で、粘膜の機能が落ちると細菌やウイルス、花粉などが入り込んだときに体が過剰な反応を起こしたり、十分に防御できずに感染症を引き起こしてしまう可能性があるのです。
――ちなみに、自分の「粘膜の状態」の良しあしはどうやって判断すればいいのでしょうか?
溝口 粘膜をコーティングして守ってくれているのが粘液ですが、その粘液のネバネバ成分がしっかりと出ていることが大事です。その粘液がしっかり出ているときは、ウイルスや細菌を機械的に排除してくれます。クルマのワイパーがきちんと動いていれば、フロントガラスから雨水をはじいてくれますが、そんな感じですね。
臨床的には口や鼻の中が乾く人、目がショボショボする、食事中は頻繁に水分を取りながらじゃないとのみ込みづらいという人は、粘液のネバネバ成分が不足していて、コーティング機能がうまく働いていない可能性が高いです。
もうひとつ大事なのは、粘膜の細胞同士がしっかりと密に結合していることで、これが緩んでいるとウイルスなど異物の侵入を防げません。
――では、粘膜の状態を良くするために、どのような栄養素が大事なのでしょう?
溝口 最も重要なのはビタミンDだと考えています。トランプ大統領が新型コロナウイルスに感染した際にも、医師団の発表の中でビタミンDと亜鉛を処方したことが明らかになっていますし、粘液層に分泌される抗菌たんぱくを作る機能では、ビタミンDが大切な役割を果たしています。
また近年、粘膜の細胞をしっかりと結合させる「結合たんぱく」の合成にも、ビタミンDが関与していることがわかってきました。
ただし、ビタミンDは体のたんぱく質が不足していると、その効果を十分に得られません。日本人に不足しがちな鉄分も含む、肉や魚などの動物性たんぱく質を取れば一石二鳥です。
――ビタミンDは何から取ればよいのでしょう?
溝口 ビタミンDは日光を浴びると紫外線の刺激によって体の中で作られることが知られていますが、僕の友人のサーファーを調べてみたらそれほど高くありませんでした(笑)。今は、食材から取るビタミンDも重要だと認識されています。
食材からのビタミンDの供給源といえば、なんといっても魚の内臓です。苦手な方もいると思いますが、サンマは内臓も一緒に食べてみてください。
あとは、丸ごと食べられるシシャモやシラスなどもいいですね。最近は日本人でも魚を丸ごと食べる人が減っており、日本人の8割以上でビタミンDが不足しているという報告もあります。
ほかにも、キノコに入っているビタミンD2は体に入った後、活性型のビタミンD3に変換されることがわかっています。キノコ類を取ることもいい方法だと思います。
――ほかにも「粘膜免疫」を強くする栄養素はありますか?
溝口 先ほども出ましたが、亜鉛ですね。亜鉛はいろいろな免疫に関係しているのですが、細胞分裂に必要な栄養素です。粘膜の入れ替え機能においても、重要な役割を果たしています。
亜鉛を多く含む食材として知られるのは牡蠣(かき)ですが、シジミなどの貝類や赤身の肉、レバーなどにも多く含まれるので、これらの食材を意識して取るといいでしょう。
もうひとつ重要なのが「腸内環境」です。人間の粘膜は腸だけでもテニスコートの1.5面分あるといわれています。腸は人間の体で最も大きな面積を占める粘膜組織があり、粘膜の働きを調節する司令塔の役割も担っています。つまり、腸内環境を整えるということは、全身の粘膜の状態を向上させることにつながるのです。
腸内環境を整えるというと、ヨーグルトなどの乳酸菌を思い浮かべる方が多いですが、乳製品は"隠れアレルギー"の要因になることもあります。特定の乳酸菌に偏らないように、漬物などの植物性の乳酸菌をはじめ、さまざまな種類の乳酸菌を取ることを推奨します。
最後に、ストレスが粘膜免疫力を著しく低下させることもわかっています。スイーツはストレス回避にいいと思われがちですが、実は抗菌たんぱくが減ることがわかっています。ですから甘いものを食べた後は、必ず苦味の刺激、例えばカテキンの抗菌作用も期待できる緑茶を飲むことをオススメします。
●溝口 徹(みぞぐち・とおる)
1964年生まれ、神奈川県出身。福島県立医科大学卒業。横浜市立大学病院、国立循環器病センターを経て、1996年、痛みや内科系疾患を扱う辻堂クリニックを開設。2003年には日本初の栄養療法専門クリニックである新宿溝口クリニックを開設。オーソモレキュラー(分子整合栄養医学)療法に基づくアプローチで、精神疾患のほか多くの疾患の治療にあたるとともに、患者や医師向けの講演会も行なっている。著書に『発達傷害は食事でよくなる』(青春新書)、『花粉症は1週間で治る!』(さくら舎)、『最強の栄養療法「オーソモレキュラー」入門』(光文社新書)などがある
■『栄養医学界からの最新報告 ウイルスに強くなる「粘膜免疫力」』
(青春新書 900円+税)
ウイルスや細菌の感染から身を守るには、単なる免疫力ではなく、粘膜における免疫、「粘膜免疫力」を高めることが大切になる――。最新の栄養医学に基づく「オーソモレキュラー栄養療法」で、さまざまな疾患や不調の改善に取り組んできた著者が、ウィズコロナ時代の"体のバリア"の作り方について徹底解説する