第3勢力のトゥルトゥル派、水餃子

『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。前回に続き、"餃子(ギョーザ)的なやつ"について語る。

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数回にわたって、各国で見られる生地に具を包んで調理する料理、"餃子的なやつ"を語ってきました。これまでは世界の話をしてきましたが、今週は日本に戻り、家で作る餃子についてです。

以前、白菜の漬物やミョウガの浅漬けを入れる発酵餃子を紹介しましたが、今年の夏頃から鶏ムネ餃子にハマっています。味の淡泊さを克服するための改良を重ね、ダイエッターにオススメのちょい低糖質高タンパク餃子が完成しました。

まずは、鶏ムネのひき肉に、ニンニクとショウガのすりおろし、紹興酒、鶏がらスープのもと、ネギ油かゴマ油、醤油少々と味噌少々を加え、よく混ぜます。そこにみじん切りにしたキャベツと長ネギを入れますが、あえて先に絞らないのが最初のポイントです。

通常は野菜の水切りをしっかりすることが多いですが、今回は野菜の水分を利用してジューシーな餃子を狙います。ムネ肉のパサつきもこれで心配なし。たぶん。

さて、ここでとにかくできるだけ早く混ぜるのが次のポイント。手の熱で鶏ムネ肉の貴重な油が溶けぬよう、腰を入れてしっかり素早く混ぜて粘りを出します。さらなるポイントは、ずっと同じ方向にあんを混ぜること。

以前、モンゴルの料理教室で習った技ですが、同じ方向に混ぜることによって粘り気がよく出ます。たぶん。毎回忘れて逆方向にもかき混ぜてしまうので、違いを完全に実感できず......。でも行きつけの中華のお父さんも「同じ方向にやれ」とおっしゃっていたので、間違いないと思います。はい。

粘り気が出たらみじん切りのニラとシイタケを入れ、混ぜます。シイタケと味噌で鶏ムネ肉に足りないコクと甘味を補う狙いです。あんができたら包んで蒸し焼きにし、カロリーもコストも削減餃子の完成です。

味つけが濃いので、タレいらずでさらに糖質カット! 酢こしょうや酢さんしょでぜひ。アーモンドフラワーとサイリウム粉末で皮を作ればさらに低糖質になります。

と、誰にも求められてないのに餃子レシピを発表しました。次に極めたいのは水餃子。私は断然"焼き派"でしたが、東京・品川の「餃子マニア」や武蔵境の「好好(ハオハオ)」のような、「つるん」を超えて「トゥルンッ」と滑らかに喉に落ちていく水餃子を食べて、そのおいしさに目覚めました。

赤ちゃんの耳たぶをちゅるんと吸っているような感覚です。少々気持ち悪く聞こえますが、モチモチ派・パリパリ派に対抗し、トゥルトゥル派が第3勢力として浮上しています。

四川料理の定番、ラム餃子にも挑戦したいです。水餃子として作って、ゆでた後に焼いてカリッとさせる計画です。先週お話ししたピエロギの調理法×四川のあん×日本式の皮で、世界の"餃子的なやつ"のいいとこ取りのひと皿を目指します。

形も中身も個性豊かな世界の"餃子的なやつ"ですが、どれも食べたらホッとする料理であるところは共通しています。

まるでプレゼントのように優しく包まれているから? 炭水化物と肉や野菜のバランスが体を満たしてくれるから? つまみにもおかずにもなる万能性? 人類のプリミティブな部分に響く"餃子的なやつ"、分断が進む世界の救世主になれ!

●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。海外に行けないので、世界の"餃子的なやつ"を食して異国に思いをはせる。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!