今年1月5日、朝の子供向け番組『きんだーてれび』(テレビ東京系)内で、放送を開始した『PUI PUI モルカー』(以下『モルカー』)が、大人を中心にネットで大バズりしている。
『モルカー』はフェルトパペットを用いたストップモーションアニメで、"車がモルモットになった世界"を描く。「ぷいぷい」という鳴き声やトコトコ歩く姿がかわいすぎる!と、癒やされる人が続出。
放送開始後、公式ツイッターアカウントのフォロワー数は毎週およそ10万人ずつ増え続けており、海外でもニュースになるなど各所で話題沸騰中だ。
『モルカー』のエグゼクティブプロデューサー・杉山登氏はかわいさの秘密をこう話す。
「『モルカー』で監督を務めるパペットアニメの新鋭・見里朝希(ともき)氏が実際にモルモットを飼っているというのもあって、動きや表情が本物に忠実なんです。そのため、モルモットのなんとも言えないかわいさがリアルに表現されているのだと思います。鳴き声も彼が飼っているモルモットの声を使っているんですよ」
同作プロデューサーの林郁美氏は、SNSでバズる様子をリアルタイムで追っていた。
「第1話を放送してから数日間はあまり反響がなかったのですが、見た人がほかの人に勧めるうちに大きな動きになりました。明確なきっかけは特になく、口コミだけで徐々にバズった印象です」
このバズり方は、林氏のまさしく思い描いた形だったという。
「出来上がりを見たスタッフ全員が『かわいい! これはすごい作品だ』と大盛り上がりしたことから、子供だけでなく大人も夢中になれると確信していました。
また、2分40秒という短い尺で、言葉や文字がほとんどないため、どんな人にも勧めやすいし、勧められても見やすい。そのため見逃し配信の宣伝を強化しました。唯一想定と違ったのは、火がつくまでがかなり早かったところですね」(林氏)
ただ、世に出てからは早かったものの、その制作期間はかなり長かったと前出の杉山氏は振り返る。
「企画が始動したのは2年くらい前なんです。最初は見里監督と短編映画を作る予定だったのですが、監督が提案した"車がモルモットになった世界"が面白く、キャラクターもすごくかわいかったので、短編シリーズにして子供たちに届けたら世界にも広がるんじゃないかと。そうして制作が始まりました。
何千枚もの写真をつないで動かすストップモーションアニメなので、見里監督とそのチームが密室にこもって地道に作業されて。1秒の映像を作るのに1日かかることもあったそうです。そのため全12話の本編の制作に1年半ほどかかっています」
見里監督は東京藝術大学大学院の修了制作作品『マイリトルゴート』で、国内外の数々の映画賞を受賞している。この作品は『モルカー』と同じパペットアニメだが、終始不気味な雰囲気で、育児放棄・虐待・過保護などの問題が描かれている。見里監督の持ち味はその"毒"にもあると杉山氏は言う。
「大人にも刺さっているもうひとつの理由は、かわいさに隠れている風刺的なメッセージでしょうね。深読みすればするほど見えてきます」
『モルカー』の世界に現実味を出すために、ピクシレーションという技法でアニメの中にあえて実写で登場する人間たちは、純粋なモルカーと比べてどこか自己中心的で欲深く見える。かわいいキャラクターと物語の深みが見る人をとりこにしているのだ。
「今後はもっと世界中の人に見てもらえたらうれしいですね」(杉山氏)
世界がモルカーにもだえる日も近い!