AKB48の活動を経て、現在は画家としても活動する光宗薫(みつむね・かおる)が、東京・銀座のヴァニラ画廊で個展「メロンタ・タウタ」を3月4日(木)まで開催中だ。

2年ぶりの開催となる今回は、エドガー・アラン・ポーの冒険小説『メロンタ・タウタ』の主人公が生きる世界を、光宗が豊かなイマジネーションで想像し、様々な架空の生物を0.7mmのボールペンを使って細密に描いている。

かつてAKB48で"スーパー研究生"と呼ばれた彼女の今を聞いた。

――今回の個展は、なぜ未確認生物を描こうとしたんですか?

光宗 昔から好きだったんです。専門的なことまではわからないけど、UMA大全集を読んだり、テレビを見たり、ネットでも調べたり。伝説の生き物って背景が面白いんです。昔と今で全然違う見た目になっちゃっていたり、そこが人間の適当さというか。

――個展のタイトルでもある「メロンタ・タウタ」はエドガー・アラン・ポーの短編からです。

光宗 私、エドガー・アラン・ポーが好きで、一般的には推理小説が有名ですけど、短編小説はめっちゃ独特なんです。全然面白くない話もあって、この「メロンタ・タウタ」は読んでると絶対に途中で寝ちゃう(苦笑)。

――つまらないのに、なぜその物語をテーマに?

光宗 神経質で人嫌いな主人公が、旅路で書いた手紙を瓶に入れて海に流すシーンがあるんです。世の中を批判しながらも、まだどこか希望を持って誰かに伝わらないかなと思っている主人公にとても共感して。人に対して悲観しながらも理解してほしい。私が絵を描いている時の気持ちとすごくリンクしたんです。

――大きなものから小さい絵まで30点以上、どれもすごく細かく描かれていますが、準備はどれぐらいかかったんですか?

光宗 2019年の個展後から2年ぐらいで描いたものです。2年という間隔で作品を仕上げるのは初めてで、短かかったんですけど、展示をメインで活動している方はこれぐらいのペースでやっているので、私もそうしようと。

――そもそも、なぜボールペンで描いてるんですか?

光宗 具体的には覚えてないんですけど、目の前にあったからだと思います(笑)。

――描くのが大変じゃないですか?

光宗 当初は現実逃避がしたいというか、自分のことを考える時間をいかに減らすかって気持ちで描いていたんですね。だから時間のかかるボールペンはありがたかったんです。でもこの2年は時間がなかったから、何でこれを選んでしまったんだろうって(笑)。

――筆で描くほうが早そうですよね。今回の個展をやるにあたり、ボールペンは何本ぐらい使ったんですか?

光宗 全部で6本ぐらいです。新しいボールペンはインクがドバドバ出るんですよ。だから黒く塗る場所に使う。ある程度使うと細部が描けるようになって、一番薄いところはカスカスのボールペンで描く。今はそれぞれの残量のボールペンを揃えてます。

――見事な使い分けですね。最近では、テレビ番組『プレバト!!』で披露している水彩画が評判ですね。

光宗 もともと私の絵は、色と相性が良くないんです。以前、色をつけたら、うるさいというか騒がしいというか、自分の描きたい世界観と離れてしまって。

あと『プレバト』は普段の絵とまったく違って写実的に描くんですね。しばらくお仕事をお休みしていた間に、自分の好きなように描いていたんですけど、去年3年ぶりの『プレバト』で先生にどうやったら褒められるかって思いながら描いたら楽しくて。

――普段と違う絵を描くことが息抜きになるというか。

光宗 そうしたら、ボールペンで描く絵もより楽しくなったんです。「ああ、自分の好きなものが描ける」って。個展でも今まではバランスを取ろうと、技術的に重きを置いて、上手いと思われるように描いた作品とかも出していたんです。でも今は『プレバト』があるので、個展では自分の好きなものを100%描いていいやと。

――光宗さんって、性格的にあまり芸能人っぽくないというか。落ち着いてる感じですが、ああいうバラエティに出るのはどんな気持ちなんですか?

光宗 絵を描くっていうテーマがあるから出られるんですけど、何もなかったらどうしたらいいかわからない。普段は絵のこと以外何もしてないので、しゃべることもないんですよね。家ではメガネにすっぴんで鏡も見ない。自分に興味ないんです。こういう風に見られたいという思いがない。

藤田奈那(元AKB48)ちゃんとはたまに会うんですが、お姉ちゃんみたいな感じで、私の生活面と対人面とか、何かしら注意されます。近寄りがたいとか、喋ってる時は笑えとか(笑)。

――アイドルの時はどう見られたいとかありました?

光宗 あの頃は自分を表現するのは自分でしかなかったので、出し方ひとつ取ってもすごい気になってましたね。こうありたいっていうのもすごいあって。

――どうありたかった?

光宗 何でもできたかったです。やらないといけないことをちゃんとやりたかった。グループ自体もものすごく忙しくて、毎日が嵐のようで、ひとつひとつ100%の力で丁寧にやるってことが不可能だったんです。だけど全部ちゃんとやりたいし、未完成を見せるっていうことがストレスで自己嫌悪になっていって。活動自体は楽しかったんですけど。

――いろいろと限界が来ていたんですね。

光宗 周りから「頑張らないということも必要だよ」って言われてたんです。でも「そんなこと言われても分からない」みたいな感じで反発して。頑張り過ぎて体調崩して、初めて分かるんですよね......。

――せっかくなので光宗さんがアイドル活動をしていた10年前の『週刊プレイボーイ』を見てもらいます。スーパー研究生と言われて、水着グラビアとインタビューが掲載されています。

光宗 当時のファンの人からは、傲慢とか何様って思われてたと思うんですよね。

――「自分の理想にはまだ2%しか届いてない」って言っています。

光宗 生意気ですよね(笑)。でもその理想とのギャップがめっちゃしんどかったです。あとすごい覚えてるのは、「私なんて」とか弱音を吐くのは失礼だから「大丈夫です」「できます」と言わなきゃって......。

今思うのは、できないんだったらできないって言わないと。それはウソをついてるってことなので。

――10年で変わりましたね。

光宗 当時は自分として生きるのがめっちゃしんどかった。今もしんどいですけど、人間ってあまり大きく変えることできないじゃないですか。諦めました(笑)。

――「浮いた存在になりたい」とも言ってましたが、今はどう感じますか?

光宗 当時はみんな一緒に見えたんですけど、人ってそれぞれ個性がありますよね。人の作品とかを見ていると思います。どっちでもいいのかもしれない。あの頃すごく頑張っていたので当時の自分はいたわってあげたい。なんですかね? この感情は......。幸せになってほしい。

――幸せになりましたか?

光宗 基準がわからないですけど、やりたいことはできてますね。絵以外は何もないけど(笑)。でもやりたいことが明確になったので、必要なことと、そんなに頑張らなくていいことがわかるようになったと思います。

――この先、やりたいことは?

光宗 自分のことをエゴサすると、元AKBは知られているけど、今は何をやってるか知らないと。そういう人に絵を描いてるということを知っていただきたいです。あとは芸能人とか元アイドルって肩描きに偏見があったり、拒否反応される方にも見ていただけたらいいな。

大きい夢はふたつあって、ひとつは昔からの夢である絵本を出すこと。もうひとつは海外での展示ですね。国内だとどこか甘えてしまう部分があると思うんです。私のことを誰も知らない海外での評価って、今後も絵をやっていくうえで必要だと思っていて。評価が良かろうが悪かろうが、素直に受け止められると思うんです。

光宗薫(みつむね・かおる)
1993年生まれ、大阪出身。2011年頃より独学で絵を描き始める。11年12月、AKB48の研究生としてデビュー、翌年10月活動終了。『プレバト!!』(TBS系列)に出演中。
公式Instagram【@mtmnkor】
公式Twitter【@mtmnkor】

■光宗薫個展「メロンタ・タウタ」
2021年2月6日(土)~3月4日(木)
東京・銀座 ヴァニラ画廊展示室にて開催中
https://www.vanilla-gallery.com/archives/2021/20210206ab.html