若い世代や女性など、これまで敬遠していた層が足を運ぶようになり、数年前から注目されていたスナック。しかし、たび重なる緊急事態宣言とステイホームの波を受け、他の飲食店と同様に、スナックもこのコロナ禍で窮地に立たされている。

自身も東京・赤坂で「スナック玉ちゃん」を経営し、「"夜の街"応援プロジェクト」を主催する浅草キッドの玉袋筋太郎氏、そしてスナック支援企画「オンラインスナック横丁」を主催するスナック女子・五十嵐真由子氏。スナックを愛し、啓蒙するふたりにその魅力や現状を聞いた。

――新型コロナウイルスが広まって以来、やはり打撃は大きいですか?

玉袋 大きいなんてもんじゃないですよ。コロナが来ちゃってから感染の温床として"夜の街"ってくくられて。スナックなんて緊急事態宣言で開けられないし、その前の時短要請で22時までって言われても、スナックなんて24時回ってからが本番みたいなもんだから意味ないよね。

五十嵐 「3密の対象だ、悪だ」ってさんざん言われて「スナックやらないほうがいいんじゃないか」と落ち込んだママさんたちは多いですね。

なにより地方だと、誰かひとり感染したら大変なことになるんですよ。だからお父さんがスナックに行こうすると家族で止めているような状況。それで"コロナの温床"みたいになると、お客さんが来ないだけでなく、営業していること自体が悪いみたいに捉えられちゃってるんですよ。二度目の緊急事態宣言が出てから、それがもっとひどくなったそうです。

――緊急事態宣言の出ていない地域も多いですが、スナックに対する警戒心はどこも変わらないと。補償も出ていますがそれでも厳しい?

玉袋 ママさんの気質としては商売人だから、少ない中でも触れ合ったりお客さんにサービスして、あがりをいただくのが鉄則。それが出来ないと気力が萎えちゃう。

それに、自分たちが食べられる額が入ってくるように細々やっているママがほとんど。家賃の高い地域で人を雇ってたら到底無理でしょ。歌舞伎町もスナックが無くなって、中国人がビルごと買ったりしているらしいからね。どんどん街の生態系が変わっちゃうよ。

五十嵐 新橋の老舗も閉店したり、ママの高齢化もあるかもしれないけど、長く続けているところほど、どんどんなくなってますよね。やっぱり緊急事態宣言が明けて、お客さんが戻ってきてくれるのかっていうと不安ですからね。

玉袋 1発目の緊急事態宣言から団体の人が来なくなっちゃったよね。感染防止対策で30席を10席にしたし、行ったら迷惑になるんじゃないかって気の使い方もあって。

ただうれしかったのは、ぽつりぽつりとひとりで来る人が増えたことかな。それも新規のお客さんやスナックの経験がない人。地方から出張に来た人なんか、東京にいる1週間のうち5日間も来てくれたからね。

五十嵐 みんなで盛り上がるような「スナック玉ちゃん」でもそういう状態なんですね。でも一方で、新規のお客さんがコロナ禍でも来ているのが驚きです。

玉袋 本当はね、初めて来てくれたお客さんには、わーっと盛り上がっているところを見せたいけどね。なかには感染症対策もせずに昼からカラオケで盛り上がってる店もあるけど、しっかり対策している店もあるなかで、すべてが悪と言われちゃうとなぁ......。

――「"夜の街"応援プロジェクト」では、感染症対策を行なっている全国のお店を紹介しています。

玉袋 お客さんもお店を選ぶ時代なので、安心して来てくれてるのかなと。最初のうちは、対策してない店を見て「そりゃねえよ」って思ったんだよ。でも、"スナックの火"を絶やさないように、ちゃんとやって待つしかないよね。

五十嵐 今回のプロジェクトでいろんな店を知って、ママもお客さんもちゃんと対策しながら楽しんでもらえたらいいですよね。

玉袋 ステッカーも用意したのよ。お店の前で可視化できるようになって、セコムじゃないけど安全だなって思ってもらえたらと思って。やっぱり、政府の失策とか言っても無駄。自分たちは自分たちで、ひとつの敵に立ち向かおうと一致団結したほうが良いでしょ。文句ばっか言ってるやつが多いけど、後ろ向きになって何も守らないより協力しないと。

ちなみに「オンラインスナック横丁」ってどうなの?

五十嵐 10ヶ月くらい前から始めて、今、50店舗くらい参加してもらっています。日本だけでなく、ロシアやニューヨーク、ミャンマーと海外でやってる日本人ママもいるんですよ。オンラインでカラオケもお酒もないから成立するか不安でしたけど、週3で通う常連さんもいるんですよ。

玉袋 やっぱりもともとの常連さんがメインで利用しているの?

五十嵐 それがスナックに行ったことのない、20~40代の女性が6割なんです。興味はあったけど扉を開けられなかった人が、オンラインなら先に料金もママの顔もわかるので利用して、ハマっています。

それにすごくうれしかったのが、オンラインで訪れたお客さんが、実際のお店にも訪れるようになってるんですよ!

玉袋 それはいいね! スナックは行けば物語があって一緒に共有した思い出とかが心に残るじゃない。そういうところがスナックの面白さだよね。この面白さを若い人に伝えていかなきゃいけない。

五十嵐 私自身、前職で地方営業に行くと「地方の何を知っているんだ」って毎回怒られていたんですよ。タクシーの運転手さんに言ったら「スナックに行けば、すべて教えてもらえる」って言われたんです。それで行ってみたら、ママが私のために地元の色んな人を呼んでくれたり、翌日ホテルにおにぎりを届けてくれたっていう感動体験があってスナックにハマっていったんです。そんなママの懐の深さは、いろんな人に味わってほしいです。

――スナックで生まれる物語が出ましたが、改めてスナックやママの魅力を伝えてください。

玉袋 人類生きとし生けるもののすべてがスナックにはあるよね。スナックに入ったらみんな平等なわけよ。ママの"おもてなし"のもとに、お客さん同士も気を使いあって、その空間を楽しく成立させるための見えない絆がスナックにはあるの。滝川クリステルに"おもてなし"なんてわかんないよ。

今の時代、SNSがあるけど、発達しているようで発達していないんだよ。空気感とか面と向かってが大事で、それがないとセンサーが鈍って気遣いなんてできなくなるよね。

五十嵐 30~40代の管理職に就いているサラリーマンが、あえて怒られに行きますからね。接客のイロハもわからないからママに怒られることが大事って。ママってそういう先生みたいな存在ですよね。

玉袋 そう! ママも完璧じゃない脇が甘いところがあるから人間っぽい指導になるんだよね。だいたい×がついていて、傷があるからこそ響くのよ。

――コロナ禍が明けたときにスナックを楽しめるよう奮闘するおふたりですが、最後にその"スナックの火"を守る意気込みをお願いします。

玉袋 スナックを知らないままでもいいけど、もったいないなと思う。菅首相は「自助だ、共助だ」言ってるけど、本当の意味での労(いたわ)り合い、共助が残ってるのはスナック。疑似家族、疑似町内会の集まりみたいなもんだよね。

だから、スナックがなくなったら味気ない人生になるんじゃないかな。そのためにも馬鹿と言われても、馬鹿な旗振り役がいないといけない。そして、まだ行ったことのない若者には、「ソープよりスナックへ行け!」と言いたい(笑)。

五十嵐 私自身、500件くらいスナックの扉を開いてきましたけど、どこも暖かく迎え入れてくれて、すごく素敵な空間なんです。そんななかで、ITなんてわからないようなママさんたちが老眼鏡かけて、生きるか死ぬかの瀬戸際で頑張ってオンラインに挑戦してくれているんです。だからこそ、私もオンラインだけじゃなくスナックそのものの魅力をアピールしていきます。玉袋さんも来てくれて盛り上がれたらうれしいです。

玉袋 ぜひぜひ、一丸となって頑張りましょう!

■"夜の街"応援プロジェクト
https://night.joysound.com/
"楽しいナイトライフ"を味わうため、各店のさまざまな新型コロナウイルス対策事情を紹介。また動画コンテンツ「玉袋筋太郎の夜Tube」では、スナックの魅力や楽しみ方を伝えつつ、"夜の街"の業界人との対談や裏話などを公開している

■オンラインスナック横丁
https://snackyokocho.com/
日本全国、また海外のスナックが参加するオンラインスナックのプラットフォーム。オンライン上で入場チケット(店舗により金額は異なる)を購入することで、自宅からママたちとの会話が楽しめる