『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、青い食べ物=ブルーフードについて語る。
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皆さんはブルーハワイと聞くと、どういう味を思い浮かべますか? イチゴやレモンと並んでかき氷シロップの定番ですが、ブルーハワイだけ味ではなく、なぜか色と地名。私は舌が青に染まる理由だけで子供の頃からブルーハワイを選びがちでしたが、正直、何味なのかよくわからない。
とにかく甘くて、雰囲気的にはサイダーやラムネをイメージしているのかな? と推測してみるものの、爽やか系の味ではなかった。味覚に集中しても、「なんかたぶんトロピカルな感じ」以上の言語化はできず......。
調べると、ブルーハワイの味は定まっておらず、ソーダ風味からフルーツ系までメーカーによってさまざまなよう。なのに、お祭りの高揚感のせいか、「ここのは普段と味が違う」と気づく人はあまりいない。
これって、とんでもない油断。もしかしたらあの色合いで、冷えていて、ほどよくテンションが上がってたら、ワカメ味でも気づかないかもしれない。日本国民の油断、それがブルーハワイ。
ちなみにアメリカであのブルーは、ラズベリー味が多い。「ブルーラズベリー」というとアイスキャンディやお菓子の定番フレーバーで、自然界に存在しない色と味の組み合わせです。
背景は戦後、食品の着色が広まり始めた頃に、赤に着色したラズベリー味のお菓子がはやったこと。赤い食紅に発がん性が判明し、使用は取りやめたものの、メーカーは大量に仕入れたラズベリー味のシロップの使い道が欲しかった。そこで、安全なブルーの食用色素を使って綿あめを製造したのが発祥だそう。
派手なブルーが子供に受け、カラーテレビの普及で火がつき、冷戦が追い風に。愛国心あふれるトリコロールのアイスキャンディがはやり、ブルーラズベリーがスタメン入りしたといわれています。
子供の頃は、ブルーラズベリーとチョコミントのアイスはなじみがありましたが、ブルーの食べ物はそれらと日本のブルーハワイしか知りませんでした。何度か「アメリカはブルーの食べ物を受け入れているけど、日本はない」と耳にしたことがあります。
確かにブルーハワイ以外だと、和菓子の練りきりしか思いつかないし、かつては青のサングラスをかける青色ダイエットまであったそう。でも私が思うには、アメリカでも、ブルーのお菓子やケーキが市民権を得たのはここ20~30年。ブルーフード革命、鮮明に記憶に刻み込まれてます。
時は1995年。小学生の私は、緊張しながら友達とチョコのM&M'Sのパックを囲んでいた。そこには、「Now with Blue!」の文字が。中身を出し、青いM&M'Sを初めて目にした私は悲鳴を上げた。いまだにあの悲鳴は恐怖だったのか喜びだったのかわからない。
それまでは、赤、黄色、緑と、不動の不人気のベージュがあった。新色を加えようという投票企画があり、民衆はピンク、紫、ブルーからブルーを選んだ。
それまでブルーは、冷たい食べ物でしか受け入れてもらえてなかったけど、M&M'Sの売り上げアップを機に、青いゲータレードやケーキ、ケチャップまで発売されました。今は真っ青なパン、クッキー、なんでも見ます。悪ノリの一票がこんなに長く影響するとは。怖い怖い。
●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。愛知県名古屋市出身、米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。「モーニング娘。'21」の石田亜佑美さまのメンバーカラー、ロイヤルブルーのカップケーキを作ったときは、もったいなくて食べられなかった。公式Instagram【@sayaichikawa.official】