「(主人公は)優しそうな人に演じてもらいたいから......そうだな、V6のイノッチ(井ノ原快彦)とかいいんじゃないですかね。トニセン(20th Century)の」と語るせきしろ氏

軍手、アロンアルフア、PASMO、七夕の短冊、レモン、水菜、VHSのビデオテープ、子ども用バット、松竹錠......。

道端で本当に見つけたさまざまな落とし物をめぐって、あれやこれやと妄想を繰り広げる最新エッセイ集『その落とし物は誰かの形見かもしれない』を上梓(じょうし)したせきしろ氏。

「エロ本自動販売機」「ふたが全部取れるタイプの缶ジュース」「地方都市の高校生」「トニセン」といった哀愁ワードが飛び交ったインタビューで、"妄想道を極めた奇才"は何を語ったのか?

* * *

――「落とし物」をテーマにしてエッセイを書こうと思ったのはなぜでしょうか?

せきしろ なんだったかな、忘れました......(笑)。でも、落とし物の写真はもともと撮っていたんですよ。

――構想はあったわけですね。

せきしろ いや、習慣に近いです。アウトプットする気がないから、カタチにしようって何かを始めることがなくて。同じように落とし物を撮影している後輩がいたので、その後輩にお金が入ればいいなと(笑)。

――同志がいたんですね。

せきしろ 意外と注目している人は多いのかもしれません。片手袋の落とし物だけに焦点を当てた本を読んだこともあるし。その本は手袋の種類とかから地域性などを分析、研究しているまじめな本でしたね。

――せきしろさんもたくさん落とし物を見つけていますが、何か共通点ってあるんですか?

せきしろ 何もないです(笑)。でも、「落とし物には触れない」という信条はその本と共通していましたね。

――写真を撮るときも触らないんですか?

せきしろ 触るのは怖いじゃないですか。それこそ落とし物の写真を撮るときも、周りに人がいなくなるのを待ちます。落とし物の写真を撮っている姿を見られたくないし、「何やってんだ」って怒られたらいやなので。

――数多くある落とし物の写真の中から、「ピンクのジョウロ」を表紙に選んだのはどうしてですか?

せきしろ 表紙はデザイナーさんにお任せしました。落とし物の写真ってキレイなものばかりではないので(笑)。「少しでも色鮮やかなほうがいいだろう」という出版社の販売担当の助言もありつつ、ピンクのかわいいジョウロが表紙に採用されたようです。

――かわいさが決め手だったとは! 落とし物って住宅街のほうが落ちているものですか?

せきしろ そんなこともないですよ。日曜日の閑散としたオフィス街のほうが「なんでここにあるんだろう?」ってものが落ちていたりもします。

――でも、これだけ落とし物に遭遇すると、せきしろさんでも思わずガッツポーズしたものもあるんじゃないですか?

せきしろ ガッツポーズは人生で一度もしたことないです(笑)。僕は哀愁を感じるものが好きなので、昔懐かしいものを見つけたときのほうがうれしいかもしれませんね。例えば、ふたが全部取れるタイプの缶ジュースのプルタブとか。あとエロ本ですね。今でも見つけるとテンションが上がります。

――エロ本、ですか。

せきしろ 雑木林に作った秘密基地でエロ本を眺めていた子供の頃を思い出すんです。考えてみれば、エロ本を拾ったのが僕の"落とし物"の原点なのかもしれません。突然雨が降ったときは、濡れないように慌ててビニールをかけに行っていたくらいなので(笑)。

エロ本って昔は自動販売機でも買えたんですよ。水色だったか、風景に浮く色をしていて。買うときにはけっこう大きな音もするし、とにかく目立つんです。緊張したなぁ......ってエロ本の話ばかりしてすみません。なんの話でしたっけ?(笑)

――テンションが上がる落とし物の話です!

せきしろ そうでした。うーん......リモコンとかも好きですね。帰宅した後、どうしたんだろうって。

――妄想がはかどる、と。

せきしろ そうです。落とし主の生活を感じると、妄想が膨らみますよね。買い物メモとか、資格の本とか。そういうものが落ちているとテンションが上がるかもしれません。

――でも、他人の人生が垣間見えると、「うわぁ」って思わず声を上げたくなるような切なさに襲われたりしないんですか?

せきしろ それも含めて良かったりしますね。

――タイトルの「形見かもしれない」のフレーズがまさにその切なさを言語化していると思うんです。

せきしろ 落ちている靴はだいたい遺品かなって思ってしまいがちですね。

――怖いですよ!(笑)

せきしろ 「うわぁ」ってなる感じには懐かしさもありますよね。いろいろよみがえってくる感覚もあります。その感覚を感じに行くこともありますしね。

――どこにですか?

せきしろ 昔住んでいた家を見に行ったり。あと地方都市が異常に好きなので、前橋とか甲府とかに意味もなくふらっと行くんです。地元の高校生たちを見て、「この子たちはこういうグループなんだろうな」とか「こういう所で遊ぶんだろうな」って考えていると味わえますよ、「うわぁ」を。

――そして妄想が始まるんですね。星野源さん主演で2007年にテレビ東京でドラマ化された『去年ルノアールで』も妄想文学でしたが、今作とは妄想の広げ方が違うように感じました。

せきしろ まぁ、『ルノアール』のときは若かったですし。確実に変わったのは、なるべく誰が読んでも傷つかない妄想を心がけるようになったことですね。それに今回は写真・風景でひと言のような大喜利みたくもあるので。

――もし実写化するなら誰がいい、とか理想はありますか?

せきしろ 星野君がいいんじゃないですかね。でもパラレルワールドみたいになっちゃうか。

――せきしろさんご自身が主人公を演じる可能性はないんですか?

せきしろ 僕ですか? それは絶対にないですね。優しそうな人に演じてもらいたいから......そうだな、V6のイノッチ(井ノ原快彦[よしひこ])とかいいんじゃないですかね。トニセン(20th Century)の。ドラマ化するときはぜひイノッチでお願いします!

●せきしろ
1970年生まれ、北海道出身。作家・俳人。『去年ルノアールで 完全版』(マガジンハウス文庫)、『海辺の週刊大衆』(双葉文庫)、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(双葉社)、『たとえる技術』(新潮文庫)など著書多数

■『その落とし物は誰かの形見かもしれない』
(集英社 1430円)
星野源主演でドラマ化もされた『去年ルノアールで』の著者・せきしろ氏がおくる最新妄想文学。「文枝師匠でなければ誰が落としたというのか」「ニュートンは万有引力を発見しキティちゃんは身長計測する」「ラッキィ池田と象のジョウロのミステリー」「鈴木雅之はサングラスを投げ捨てラストスパートするのか?」など、路上で見つけたさまざまな落とし物をめぐる50のエッセイを収録。各タイトルはどことなく自由律俳句の趣を感じさせる

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