昨年、過去最多の倒産件数を記録したラーメン業界で揺るがない業績を維持した全国チェーンがある。クセの強い味やロードサイド中心の出店戦略など、他に類を見ないスタイルで多くのファンを持つ山岡家(やまおかや)だ。コロナ禍にも負けない経営の秘密に迫る!
■コロナ禍の昨年でも変わらぬ業績を維持
昨年より続くコロナ禍で、日本中の飲食店が深刻な打撃を受けている。これはラーメン業界も例外ではない。帝国データバンクの調査によると、2020年に発生したラーメン店の倒産件数は過去最多を記録。人気チェーン「六角家」(神奈川県)などの老舗も経営破綻を余儀なくされた。
個人店だけではなく、上場しているチェーン店も苦境が続いている。2020年度の決算では、「日高屋」のハイデイ日高、「幸楽苑」の幸楽苑ホールディングス、「一風堂」の力の源(もと)ホールディングスなどの大手が軒並み大幅な売り上げ減を記録した。フードアナリストの重盛高雄氏は苦境の背景をこう分析する。
「コロナ禍の以前から、ラーメン業界は長らく薄利多売の体力勝負が続いてきました。そのため、日高屋や幸楽苑といったチェーン店が近年強化してきたのが、ビジネス街を中心に『ちょい飲み』需要を取ること。ですが、リモートワークが広がり、通勤自体が一気に減ってしまった。ラーメン店はGoToイート事業の恩恵も受けにくく、どこも厳しい業績となりました」
しかし、これらの大手ですら苦境にあえぐなか、業績を維持しているラーメンチェーンがある。「ラーメン山岡家」を運営する丸千代山岡家だ。同社はコロナ禍の影響をものともせず、昨年を通し前年同月比で既存店の売り上げが100%前後という好業績を続けているのだ。その堅調な業績の秘密は、どこにあるのだろうか?
■メインターゲットはトラックドライバー
まず、山岡家の歴史をざっと説明しよう。
山岡家の1号店が誕生したのは1988年。東京でお弁当のフランチャイズ店を経営していた社長の山岡正氏が、自社の新たなビジネスを模索するなかで、自身の好物でもあったラーメンに着目して茨城県に1号店を開業した。とんこつをじっくり煮込んだスープをベースに、現在の同店の味の原型となる「とんこつ醤油」を完成させた山岡家は、1号店が成功を収めると、1992年にはラーメンの本場であり激戦区でもあった札幌へ進出する。
味噌ラーメンが主流だった北海道で、山岡家の「とんこつ醤油」のラーメンは新鮮なものとして受け入れられ、次第に行列になるほどの人気を博していった。以降は札幌に新会社を設立し、北海道から全国へと出店を強化。2006年にジャスダック上場。2009年には100店舗出店を達成し、現在は167店舗(今年2月末時点)を運営している。
しかし、全国に事業を展開しているといっても、山岡家は日高屋や幸楽苑とは違い、名前すら知らない人が意外と多いチェーン店でもある。というのも、本社がある札幌を除き、ビジネス街やターミナル駅周辺への出店がほとんどないからだ。例えば、東京では瑞穂町(みずほまち)の1店のみ。これは全国チェーンのラーメン店としてはかなり異例だろう。
そんな山岡家のメインターゲットは大型トラックのドライバー。上場時の会見でも、社長の山岡氏が「トラックの運ちゃんは、おいしいラーメンを出せば固定客になる。浮気しない」と語ったように、各地区の幹線道路を中心に出店を増やし、トラックドライバーが利用しやすいよう、多くの店で24時間営業を行なっている。
実際、トラックドライバーからの支持は非常に厚い。
「昼夜問わず働く僕らに24時間営業はありがたい。シャワーを無料で貸してくれる店まであり重宝しています」(30代大型トレーラー運転手)
「駐車場が大きい店舗が多く、関西から関東に向かう道中の休憩ついでに食べることが多いです」(40代長距離トラックドライバー)
「JAF会員証の提示などで追加サービスも受けられるのでよく行きます」(30代4tトラックドライバー)
特にトラックドライバーには、「一日に8時間以上連続で休息期間を取らなければならない」というルールがあり、仮眠する場所の確保にいつも悩まされているという。その点、山岡家の駐車場は長時間いても移動を促されることがないそうで、それだけでも彼らにとってありがたい存在となっているようだ。
また、前出の重盛氏がこうつけ加える。
「おそらく、トラックドライバーをターゲットにしたのは、社長の山岡さんがお弁当屋をやっていた経験が影響しているのではないでしょうか。お弁当もラーメン同様に競争が熾烈(しれつ)で、飛び抜けた個性がなければ、より安いほうに客が流れてしまう共通点があるからです。
そこから競合が目をつけないニッチな客層をつかむ重要性に気づいた。生活に欠かせないトラックドライバーのような職種の人々のニーズは、いつの時代も変わらずあります。そこをつかむ戦略がコロナ禍でも功を奏したのだと考えられます」
■店舗でとんこつを4日間炊くこだわり
肝心のラーメンの味はどうか? これもかなり特徴的だ。フードジャーナリストのはんつ遠藤氏がこう評する。
「入店した瞬間にとんこつのにおいが漂ってくるように、クセのあるとんこつ醤油で、かなりガツンとくる味です。苦手な人は苦手だと思いますが、それがツボにハマるとやみつきになる魅力にもなっています。ふと気がつくとまた食べたくなるんですよね」
その個性を支えるのは、今も店舗での手作りを貫くスープへのこだわりだ。
「山岡家のスープは、各店でとんこつを4日間も炊き続けてから提供されます。このような作り方をしているラーメンチェーンは珍しい。山岡家さんの店舗数で、こんな作り方をしていたら毎月のガス代や水道代だけでも相当なコストになるはず。しかし、そんななかでも、ラーメン1杯の値段を670円(税込み)という低価格に抑えつつ、ボリュームも満点。そのラーメンづくりに対するまじめさには、とても好感が持てます」
こだわりのとんこつ醤油に、麺は太麺。トッピングはチャーシュー、ホウレンソウ、ネギ、のりが、山岡家の基本メニューだ。その見た目から横浜発祥の「家系ラーメン」と共通点を指摘されることが多いが、はんつ氏は「むしろ、とんこつスープの作り方は佐賀ラーメンに近い」と話す。
「同じとんこつラーメンでも博多が洗練された味とするなら、佐賀ラーメンは数日かけてとんこつを煮込むことで、うま味を極限まで引き出したまろやかな味を特徴としています。山岡家はこのまろやかなとんこつスープに、家系の良さをミックスしている。これが独特のクセがありながらも、チェーン店として幅広い客層から支持されていることにつながっているのでしょう」
■熱烈なファンが多い稀有なチェーン店
各地のラーメン店を食べ歩く動画を配信するYouTubeチャンネル『麺チャンネル』のYGさんも山岡家を愛するひとり。山岡家の特徴についてこう語ってくれた。
「チェーンにしては個性が強い、稀有(けう)なラーメン店ですよね。それだけに熱烈なファンが多く、僕がアップしているラーメン動画のなかでも、山岡家さんの動画には特にたくさんのコメントがつきます。皆さん独自の食べ方があって、いろいろなアレンジを教えてくれるんです」
山岡家では麺の硬さや味の濃さ、脂の量を調整することができ、卓上のニンニクや豆板醤と合わせ、自分好みに味をカスタマイズすることが通つうの楽しみ方として浸透している。YGさんのオススメは、とんこつ醤油の「脂」を「背脂」に変更し、さらに大量のニンニクを入れる食べ方だ。
「とんこつとニンニクの濃厚さのなかに背脂の甘味を感じられ、するすると食べられるようになるんです。ラーメンにおいて背脂とニンニクは正義です。そんなラーメンを24時間提供してくれる山岡家さんは、今や僕にも、なくてはならないお店になっています」
ビジネスモデルにおいても、ラーメンの味においても、ほかのチェーン店と一線を画する経営を続けてきた山岡家のぶれない姿勢が、多くの固定ファンの心と胃袋をつかみ、コロナ禍でも揺るがない好業績につながっているのだ。